朝田家を陰で支え、三姉妹を育て、いつも慌ただしく動いている羽多子。夫の結太郎(加瀬亮)が亡くなり、さらには、釜次(吉田鋼太郎)のけがと、朝田家のフシアワセは連続する。そんな中、羽多子は、団子屋さんにお願いをして内職の仕事をもらったりと奮闘。

また、のぶ(今田美桜)は、あんぱんを作って売ろうと朝田家に草吉(阿部サダヲ)を連れてくる。のぶと草吉は1回だけと約束するが、羽多子は正式にあんぱん作りを教えてほしいと草吉にお願いをする。そんな羽多子を演じる江口のりこに、草吉への思い、三姉妹との撮影、撮影現場でのエピソードを聞いた。


──羽多子さんは、ヤムさんこと草吉(阿部サダヲ)に弟子入りして、パン屋さんに転身します。そのヤムさんのことを、羽多子さんはどう思っていると思いますか?

結太郎さんが亡くなった直後は、本当に焦っていたと思います。お米も足りないような状況で、釜次さんも怪我けがをしてしまって。自分がしっかりしなきゃいけないけど、内職もなくてどうしよう……というときに、のぶが連れてきてくれたのがヤムさん。

このヤムさんがいなかったら、どうしようもなかったわけですよ。風来坊だし、お金にうるさいし、なんだこの人って思う時もあると思うんですけど、とても恩を感じているんじゃないでしょうか。

──ヤムさんを演じるのが阿部サダヲさんというのも、また良いですよね。

そうなんです! 脚本の中園ミホさんが、「このドラマは、たかしの境遇など、ややつらい部分もあるので、その分、笑えるところ、面白いところは本気で笑えるようにしてほしい」とおっしゃっていたんですが、その笑いの大部分を担っているのが阿部さんだと思います。やっぱり阿部さんがいる撮影の日って、ちょっと楽しいですし、私含めみんなウキウキしていますね(笑)。

──パン作りのシーンを演じるための準備や現場の指導はいかがですか?

パン職人の方が、製パン指導に入ってくださって、パン作りの方法を教えてくださっています。現場でも、指導の方が焼いたパンをたくさん食べさせていただいたのですが、本当に今まで味わったことがないくらいの美味おいしさで、パン作りの奥深さを実感しました。

そして、「あんぱん」の登場人物には、それぞれ、「アンパンマン」の中のキャラクターが当てはまる部分があって、私が演じる羽多子は、もちろん“バタコさん”ですよね(笑)。パン職人のヤムさんは“ジャムおじさん”。バタコさんのように、助手としてパンを作るシーンもこれから出てくるので、ぜひ楽しみにしていてくださいね。


当時にしては、ちょっと新しい考えを持っている素敵なお母さん

──そんな羽多子さんを、どのような人物だと捉えていますか?

たくましい人ですよね。夫の結太郎さんが亡くなって、もちろん悲しいわけですが、その悲しみに浸ってしまうのではなく、家族を養うために内職を見つけてきたりしてね。

子育ての姿勢としては、私の母に少し似ているところがあります。家を守りつつも、娘たちが本当に好きな道に進めるようにサポートしてあげられる人。それはきっと、結太郎さんが生前に言っていた「女子も遠慮せんと大志を抱きや」という言葉をすごく大事にしているから。

結太郎さんと過ごした時間は少なかったかもしれないけれど、だからこそ、その言葉は羽多子の指針になったのだと思います。当時にしては、ちょっと新しい考えを持っている素敵すてきなお母さんですよね。

──その夫・結太郎さんを演じる加瀬亮さんとの共演はいかがでしたか?

加瀬さんとの共演は今回が初めてでした。と言っても、ご一緒できたのはリハーサルと本番の合計2日だけだったんですが……。

その中でも印象的だったのは、加瀬さんのお芝居に向き合う姿勢です。ドラマの場合、決められた時間内に撮影を終えなくてはならないので、お芝居の中で気になるところや疑問点があっても、自分の中だけで落とし所を見つけて撮影を進めていく、ということがあったりするんです。

でも、加瀬さんは、とても自分に正直な方で、その場その場で疑問点を出して解決されていて。そんな、お芝居に妥協をしない姿が、とても刺激になりました。お芝居に大事なことって、そういうことだよなって、改めて思いましたね。

──そんな結太郎さんは、夢を追いかけて忙しく世界を飛び回り、海の上で亡くなってしまうわけですが……。2人は、どんな夫婦だったと思いますか?

2人の関係は、ドラマの中ではあまり描かれません。会話も、出張に行く時に「行ってらっしゃい」「お気をつけて」、帰ってきた時に「出張ご苦労様でございました」くらいのもので……。そこから推察すると、日常生活は慌ただしかったんじゃないかな? と思います。

結太郎さんの出張が多かったというのもありますが、そうでなくても小さい子どもが3人もいるし、義理のご両親とも同居していたわけですから。
帰ってきたら、生活の忙しさに飲まれてしまうからこそ、離れている時間が2人の愛情を深くしていったのかな、なんて想像しています。


子どもたちの手を引っ張るタイプではない

──のぶの子ども時代を演じた永瀬ゆずなさんとの共演はいかがでしたか?

ゆずなちゃんは大人顔負けのトーク力で、撮影の合間などは私の方が雑談に付き合ってもらっている感じでした。「きょうは何食べたの?」とか聞くと、けっこう答えも渋かったりしてね(笑)。

──では、のぶ役の今田美桜さんは?

美桜ちゃんとは、数年前の連ドラ以来、2度目の共演です。そのときは、美桜ちゃんの上司で、彼女の成長を見守る役でした。だから、自分の中で“今田美桜を見守る”という態勢がすでにできているんですよね。今も、ありのままの彼女を見ているだけで羽多子の気持ちになれます。

それに、のぶも本当にいい子。常に自分のことだけじゃなく、周りの人のことを考えている。素直で誠実な美桜ちゃんはのぶにぴったりですし、そんな彼女のお母さん役を演じられるのがとてもうれしいです。

──三姉妹の次女・蘭子と三女のメイコについてはいかがですか?

メイコ(原菜乃華)は、天真爛漫てんしんらんまん。ずっとお煎餅食べてたりして(笑)。子役のメイコ(永谷咲笑)も、ずっとお菓子を食べてましたねえ。一方、蘭子は幼い時から、冷静にものを見ているところがあって。本役(河合優実)と子役(吉川さくら)と、不思議と雰囲気も共通しているんですよね。

それぞれ違うけど、母としては、いい三姉妹だと思っています。これからも、見守っていきたいですね。羽多子は、ああしなさい、こうしなさいって、子どもたちの手を引っ張るタイプではないから、後ろから背中を押してあげる感じになっていくんじゃないかなと思っています。

──撮影現場で印象的だったエピソードはありますか?

朝田家のシーンは、撮影中も、その合間もリラックスして過ごしています。特に、しゅうとめ・くら役の浅田美代子さんとはよくお話をするんですが、面白いのが、しょっちゅう、ため息をつかれるんですよ(笑)。ふつう、現場の先輩って、「今日も頑張ろうね」と、こちらを鼓舞するような声をかけてくださる方が多いんですけど、浅田さんは、疲れた〜という姿を全然、隠そうとされない。

それで私が、「ため息出ていますよ」って言うと、「大丈夫、私のため息は誰かが吸ってくれるから」とか言うんですよ。いや、そのため息を吸うのって、一番近くにいる私じゃないですか!(笑)って。でも、確かに長時間の撮影になると疲れるものは疲れるもの。それを素直に笑い合えるというのが楽しいです。本当に家みたいな空気感ですね。