21歳のとき、「お登勢とせ」(TBS系)でヒロインに抜てきされた俳優の音無おとなし美紀子みきこさん(75歳)。以来、テレビや映画、舞台でも活躍、夫の俳優・むらくにさんとは芸能界きってのおしどり夫婦としても知られています。そんな音無さんをある日襲った、乳がんとうつ。乗り越えることができたのは、家族の力があったからでした。

聞き手 遠田恵子この記事は、月刊誌『ラジオ深夜便』2025年4月号(3/18発売)より抜粋して紹介しています。


俳優復帰直前で乳がんに

──自身も30代で乳がんを経験されました。

音無 娘が幼稚園の年長さん、息子が2歳目前、子育てで休んでいた女優業に本格復帰しようとしたやさきで、まさしく青天の霹靂へきれきでした。ある日、近所のお母さんたちと井戸端会議をしていたら、乳がんの話になって。それで入浴時に自分で胸を触ってみたのです。

そうしたら、左胸にペットボトルのキャップくらいの大きさのしこりがあったんです。マネージャーの友達に産婦人科の先生がいたので診察してもらったら、「念のため」と、大きな病院へ紹介状を書いてくれました。

──自覚症状はなかった?

音無 そのときはありませんでしたが、次第に症状が出始めました。洗濯物を干すときに腕を伸ばしたり、赤ちゃんだった長男に腕枕したりすると、脇がつるような痛みを感じるようになって。紹介状を書いてもらった2か月後に大きな病院に行ったら、「乳がんに間違いない」との診断でした。まだ30代だったので、とても信じられませんでしたね。

セカンドオピニオンも受けましたが、結果は同じ。当時、欧米では乳房を全摘せず、患部のみを切除する温存手術が主流だと聞き、私もそうしたいと考えていました。でも最終的に診てもらった病院の先生は、「まだ若くてお子さんも小さいのだから、いちばん安全な全摘手術を勧めます」とおっしゃるのです。

「私は女優だから全摘は考えられない」と言ったら、付き添っていた主人が「この人、もう女優じゃなくていいです。バッサリやってください」と泣きながら先生に頼んだのです。

──何よりも命を優先してほしいと。

音無 脇のリンパにも転移があって、全摘しかないと覚悟を決めました。おかげで無事こうして75歳を迎え、幸せに暮らしているのですから、感謝しています。

──手術後、精神的に少し不安定になった時期もあったそうですね。

音無 退院して日常生活が始まって、子どもが「ママ〜!」と胸に飛び込んでくると傷に当たって痛いとか、一緒にお風呂に入りたくないとか、重いものを左手で持てないとか、自分が病人だと気付かされることが多くて、だんだん落ち込んでいきました。

外科的な傷は癒えても精神的なダメージはなかなかよくならないんです。季節も夏に向かって露出が多くなり、着る服がない。もう女優はできないなどと考えるようになり、眠れなくなりました。食欲もなく、人と話すのがおっくうで、笑えない。今考えると、それがうつの始まりだったと思います。

※この記事は2024年12月19日放送「逆境を乗り越えて」を再構成したものです。


うつから抜け出すきっかけ、実妹の急逝、おしどり夫婦の秘けつなど、「生き抜くことが誉れ」と語る音無さんのお話の続きは月刊誌『ラジオ深夜便』4月号をご覧ください。

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