ピンチ! でしたが挑戦してよかった。

去年11月、NHK札幌放送局の朗読イベント「北の文芸館」に出演しました。参加を決めてから具体的に聞いてみると、30分近い作品を大勢のお客さんの前で朗読するのだと。大ピンチです! 以前も書いたことがありますが、アナウンサーの仕事で苦手の一つが朗読で、経験も少ないのです。

報道の担当が長く、極端に言うと、事実を客観的に、正確にお伝えする役割でした。

ナレーションも基本は報道と同じで番組の主人公になる人、時には動物や大自然が存在し、彼らの魅力や抱える問題を視聴者の方々にわかりやすくお届けするパイプ役。内容はもちろん、映像・主人公たちの肉声・BGMに合わせ、声の調子や速さを変えていきますが、あくまで伝えたいことを明確にする手段で、演じるわけではありません。しかし朗読では、多かれ少なかれ、演じることが求められ、そこが恥ずかしく苦痛なのです。

今回朗読したのは、北海道出身の直木賞作家・河﨑秋子さんの『みどり蔓延はびこる』。北見でハッカ栽培に取り組む一人の女性が、ハッカ産業の盛衰、戦争に翻弄されながら北の大地に根を張って生きる姿が描かれています。何度も黙読し、10回、20回と声を出して読んでいるうちに、主人公の女性とハッカの運命が重なり、構成も浮かんできましたが、難しいのが物語のキーになる会話。道産子の私も使ったことがない一昔前の北海道弁。短い言葉に含まれた心の動き、男女の機微。

これまでなら苦痛でしかないところです。しかし、「深夜便」生放送でのゲストとのトークや、変わった読みに毎回チャレンジの「チコちゃんに叱られる!」で度胸がついたのか。年を重ねて恥じらいがなくなってきたからか。繰り返し読んでいるうちに、登場人物と自分を重ねて声を出すのが楽しくなってきたのです。

大勢のお客様の温かい視線に見守られ、何とか読み終えたときには、あんとともに、またやってみたいと小さな意欲が生まれていました。

(もりた・みゆき 第2土曜担当)

※この記事は、月刊誌『ラジオ深夜便』2025年2月号に掲載されたものです。

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