定信と言えば「寛政の改革」によって質素倹約を目指し、世の中を統制したことで知られています。その厳しさゆえに「白河の清きに魚もみかねて、もとの濁りの田沼恋しき」(※白河=定信を指す)と狂歌にまれたほど。定信の政策は嫌われ、賄賂政治家としてあれほど糾弾された意次おきつぐの時代を庶民は懐かしんだのです。

一方、定信が藩主を務めた白河では、その人気は歴代藩主、21人の中でもダントツのナンバーワンだといいます。一体、なぜ??
今回の「『べらぼう』の地を歩く」は、定信の知られざる姿を求めて福島県白河市を訪ねます。

※この記事は、NHK財団が白河市と制作した冊子「『べらぼう』+白河市」のための取材をもとに構成したものです。


定信が作った美しい“公園”

定信が白河藩主となったのは天明3年(1783)。

「東北を中心に数十万人の餓死者をだした『天明のきん』(1782~1788年)では、定信は裕福な商人や農家から寄付を募るなど、各地からコメを集めることに奔走しました。その結果、藩からはひとりの死者もださなかったといいます」と話すのは、白河市観光課の鈴木絵梨奈えりなさんです。

案内されたのは、定信が築造した「なん」。周囲2kmの湖を中心とした広大な公園で、那須連峰を背景にして、湖畔にはたくさんの木々が茂り、色とりどりの花が咲いています。

鈴木さん 定信は“みんきょうらく”の理念のもと、南湖を身分の差に関係なく誰もが楽しめる場所としました。さくへいもありません。それは、身分によって行動が大きく制限されていたこの時代では画期的なことです」

日本最古の公園ともいわれる南湖公園。築造事業は困窮者の救済の意味を持ち、さらには湖の水をかんがい用水としても活用するなど、南湖公園には定信の様々な思いが詰まっているといいます。

南湖神社

公園内にある、定信をまつる「南湖神社」。定信を深く敬愛していた渋沢栄一の寄付などによって大正11年(1922)に建立されました。

共楽亭(茶室)

公園内には定信が建てた茶室「共楽亭」も。

鈴木さん 中には2つの部屋がありますが、茶室では身分の違いなく平等であるとの理念から、その2部屋の間にはかもや敷居がありません」

定信自身もここで庶民と共に茶を楽しんだと伝えられています。

白河名物の「南湖だんご」。南湖築造の際に定信が職人たちにだんをふるまったのが起源だとか。


定信の居城、小峰城。
現在の城は定信時代の貴重な記録をもとに復元されています。

ご案内いただいた白河市観光課の鈴木絵梨奈さん。

定信の施策は教育、福祉、産業にも

次に訪れたのは、定信が設立した藩校があった「りっきょうかん跡」。

寛政3年(1791)、定信は、藩士の子弟たちの教育のために「立教館」を設立し、自らも、ここで教えたといいます。

鈴木さん それだけにとどまらず、定信は女子を含む町人たちに読み書きや算術を教える、庶民のための学校『きょうしゃ』も開きます。立教館の教授たちも派遣されて教えました」

教育の分野でも、時代を先取りしたともいえる定信の考え方が反映されているのです。

奈良時代から平安時代にかけての国境の関「白河関」にある樹齢およそ800年の杉の巨木。長らく不明となっていたこの場所を定信がつきとめたことで知られる。

定信が白河に赴いたとき、農村では貧困ゆえに赤ん坊をあやめる、いわゆる“間引き”が横行していました。そこで、間引きを防止するために定信は2人目以降の子どもに対して養育料を支給します。

さらには、間引きの対象となるのは女性が多かったことが、藩の人口減少を引き起こしていたことから、定信は女性たちを藩の飛び地である越後から募って白河に移住させます。そのかいあって、天明5年(1785)の定信の初政期から寛政期までに人口が3,500人以上増えたとの記録が残っています。

白河の特産品「白河だるま」は、定信が奨励した産業振興策の一つだったそう。いまも市民や観光客に人気の名物「白河そば」も、定信が冷害に強い蕎麦そばの栽培を奨励したことが起源とされています。


定信は天明7年(1787)に老中に就任した後も白河藩主であり続けました。さらに、寛政5年(1793)に老中を退いた後は、隠居する文化9年(1812)まで約20 年にわたり白河藩政に専念します。
それ以来現在に至るまで、白河の人々にとって定信は、白河を救い、白河を変えた賢人として尊敬を集めることになったのです。   

南湖公園へはJR東北新幹線新白河駅より棚倉行きJRバスで約10分「南湖公園」下車

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(取材・文 平岡大典[NHK財団])
(取材協力 白河市、ファイバーネット)
(写真 Kosuke Kurata)


この記事は、NHK財団と白河市が制作した PR冊子「『べらぼう』+白河市」のために取材した際の情報などをもとに構成しました。
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