日本に住んでいる外国人や子どもたち、高齢者まで、誰にもわかりやすく伝えるニュースがラジオで放送されています。

「NHKやさしいことばニュース」(NHKラジオ第1、月~金午後6時45分)は、昨年秋にスタートした新番組です。Webでもニュースを聞くことができます。

NHK財団ことばコミュニケーションセンターは、NHKからの委託を受けてこのニュースの制作に携わっています。その舞台裏をご紹介します。


キャスターは、畠山智之さん(写真)と上田早苗さん。リスナーに語りかけるように、寄り添うようにゆっくりと伝えます。

今年はいつもの年より早く暖かくなりそうです。
気象庁は2月から4月までの天気や気温がどうなるか発表しました。
2月の気温は、日本の多くの場所でいつもの年と同じぐらいになりそうです。(中略)
気象庁は「今年は春が早く来そうです。雪が多い場所では、積もった雪が急に落ちる雪崩の危険があります」と話しています。

やさしいことばニュース2025年1月22日気象庁「今年は春が早く来そう」
※ステラnetを離れます

この日に放送したのは、3か月予報のニュースでした。
通常のニュースで使う「天候の見通し」「平均気温」「積雪」などのことばが言い替えられている他、「雪崩」には「積もった雪が急に落ちる」という説明が加えられています。

「NHKやさしいことばニュース」は、日本語を母語としない方や、ことばを理解するのが難しい方、子どもたちなどにNHKのニュースを届けるための取り組みです。最新のニュースを、専門的なことばはできるだけ使わず、わかりやすい表現と内容にして伝えています。

このニュースの制作を行っているのは、NHKとNHKから委託を受けたNHK財団やNHKグローバルメディアサービス。様々な現場で取材を行ってきた記者や、話し言葉のプロ・アナウンサーを務めてきた経験豊富なスタッフが担当しています。


制作は、ニュースセンターの中にあるニュースラボで行われています。

どうしたらわかりやすくなるか、言葉を置き換えたり、ポイントを絞ったりします。

ニュースのオーダー(順番)が決まると、通常のニュース原稿を、NHKが独自に開発したシステムでやさしいことばに変換します。ことばの難易度は、色で表示されます。

ただ、システムを使うだけでは十分に分かりやすい表現にならないため、知恵を出し合い、議論を重ねながら、少しでも分かりやすい言葉や表現になるよう、さらに原稿を書き換えていきます。

大切なのは、ことばをやさしくすることだけではありません。
制作で意識しているのは、ニュースのポイントを的確にとらえることです。


1月22日は、ことしの春闘が事実上始まったというニュースがありました。

「経団連」と「連合」のトップによる会談が行われ、ことしの春闘が事実上、スタートしました。(中略)
会談のなかで経団連の十倉会長は「賃上げの定着には約7割の働き手を雇用する中小企業と、4割近くを占める非正規労働者などの賃上げが不可欠だ。適正な価格転嫁と販売価格アップへの理解と共感の輪を社会全体に広げていく必要がある」と述べ、約30年ぶりの高い水準となった2024年と2023年の賃上げの勢いを定着させ、中小企業や非正規労働者へと波及させることが重要だという考えを示しました。
これに対し、連合の芳野会長は「日本経済全体の底上げのためには中小・小規模事業者、日本経済の隅々まで賃上げが波及しなければならない。賃金、経済、物価を安定した巡航軌道に乗せることを労使で努力する春闘にしたい」と述べ、中小企業にも賃上げが広がるよう取り組みを強化していくことで一致しました。
一方、賃上げの水準について経団連は、連合が求める中小企業での6%以上の賃上げは極めて高い水準だと言わざるを得ないと指摘していて、価格転嫁や生産性の向上をどう進めていくかを含めて、労使間で踏み込んだ議論が進められる見通しです。

NEWS WEB 2025年1月22日「ことしの賃上げどうなる?春闘が事実上始まる」※ステラnetを離れます

私たちの今後の給料に関わる大事なニュースです。また、日本に住む外国人の多くの方にとっても関心が高いニュースだと思います。
さて、このニュースを在留外国人にもわかりやすく伝えるにはどうしたらいいでしょうか? 「やさしいことばニュース」では、このように伝えました。

働く人がもらうお金、給料をどのくらい高くするか、話し合いが始まりました。
働く人たちの団体は、毎年春、給料などをもっとよくしてほしいと言って、会社と話し合います。
22日、働く人たちの団体「連合」のトップと、会社の団体「経団連」のトップが会いました。そして今年の話し合いが始まりました。
どちらも、いま日本では働く人の給料を高くすることが大切だと言いました。
しかし、どのくらい高くできるかは意見が違っています。連合は、小さな会社の場合、給料を今より6%以上高くしてほしいと言っています。経団連は、6%はとても難しい目標だと言いっています。
どうしたら給料を高くできるか、そしてどのくらい高くできるか、話し合いが続きます。

NHKやさしいことばニュース2025年1月22日「働く人の給料をどのくらい高くできるか 話し合いが始まった」※ステラnetを離れます

どうでしょうか? ニュースのポイントを絞って伝えています。これなら、日常的な場面で使われる日本語をある程度理解することができる方であれば内容が伝わりそうです。

しかし、正確さとわかりやすさを両立させることは、簡単なことではありません。

編集責任者を務めるラジオセンターの関口顕治専任部長は、「わかりやすくお伝えするうえで必要な場合、表現を単純にしたり、代表的な事柄だけに絞り込んだりすることがあります。
誤解を生まないよう、正確性や公平性を損なわない範囲でやさしいことばで言い換えています。職員・スタッフの知恵を集めて、誰にでもわかりやすく信頼できる“やさしいニュース”を、責任をもって届けたい」と話します。

ラジオセンター 関口顕治専任部長

番組では、地震や大雨などの災害時にも役立つニュースとして、日本で暮らす外国人など、多くの人に聞いてもらいたいと考えています。

昨年の秋に始まった新しいニュースです。ぜひ皆さんもラジオやホームページで「NHKやさしいことばニュース」を聞いて、身近な方々に紹介してください。

番組のホームページはこちら※ステラnetを離れます
過去に放送した内容を音声でお聞きいただけるほか、テキストでもご覧いただけます。  

    (ことばコミュニケーションセンター 伊藤源太)