
人々を笑わせ、考えさせる優れた研究を顕彰する「イグ・ノーベル賞*1」。武部貴則さん(38歳)は「ブタはお尻からも呼吸する」というテーマで昨年「生理学賞」を受賞しました。そのユニークな研究とはどんなものなのか?
武部さんに、イグ・ノーベル賞の授賞セレモニーの様子や、研究のきっかけとその将来性について語っていただきました。
*1 1991年にノーベル賞のパロディーとして、アメリカのユーモア系の科学雑誌が始めた賞で、「人々をクスッと笑わせつつ考えさせる研究」に贈られる。日本人はイグ・ノーベル賞の常連で、2024年まで18年連続受賞している。
聞き手 室由美子この記事は、月刊誌『ラジオ深夜便』2025年3月号(2/18発売)より抜粋して紹介しています。
真面目なプレゼンは場違いだった
――イグ・ノーベル賞の授賞セレモニーにも参加されましたね。
武部 研究を支えてくれた5名の方と一緒に、アメリカの名門大学MIT(マサチューセッツ工科大学)まで行ってきました。セレモニーはグレートドームという歴史ある講堂で行われたんです。
――授賞式はどんな様子だったのでしょう。
武部 受賞者はまず控え室に通されるのですが、みんな変わっているというか、誰一人として普通の人がいなかったんです。
――それはどういう意味で。
武部 例えば変なかぶり物をするのは当たり前で、それに加えて顔にものすごい落書きをしていたり、ふざけたおもちゃみたいなぬいぐるみを持ってる方がいたりと、本当にびっくりしました。
当初われわれのチームは、真面目なデモンストレーションをしようと考えていたんです。そのため医療で使うカテーテルのようなものを準備していたのですが、これは全く雰囲気にそぐわないぞと。
そこで急きょチームメンバーの外科の先生が持ってきた、ドジョウの帽子をかぶることにしました。外科の先生ってよく医局と呼ばれる医学部の講座の忘年会などで、寸劇やいろんな出し物をやることがあるんですね。
私たちの研究にはドジョウが重要な意味を持っているので、その先生がドジョウの帽子を作って持ってきていたんです。結局、私たちはその帽子をかぶり、さらにぬいぐるみを頭に付けることが決まりました。
――その格好で、プレゼンもされていました。
武部 はい。プレゼンも前日に一生懸命原稿を書き、起承転結を考えて説明しようと準備していたのですが、これも全くその場の雰囲気にそぐわない。結局準備していた原稿は全部捨て、ちょっとふざけた、ユーモアのある話し方に変えました。
ドジョウにヒントを得た“お尻呼吸”
――今回受賞した研究は、どのようなものなのですか。
武部 人間は基本的に、口から酸素を取り込んで肺で呼吸をしています。だから例えば、肺炎のように肺に障害が起こると、呼吸が苦しくなります。そうなると人工呼吸といって口から管を入れて酸素を入れたり、コロナ禍で話題になった「エクモ」という、血液を一旦体外に出して酸素を溶け込ませてから体に戻すといった方法で治療します。
ところがこれらの治療は「侵襲」といって、体への負担がとても大きいので、一度に多くの患者さんを助けることはできません。そこで私たちが考えたのが、もし口や肺以外でも呼吸できたら、多くの方が助かるんじゃないかということでした。今回の実験ではおなか、特に消化管と呼ばれる大腸や一部の腸を使って、体内に酸素を届けられることを実証しました。
※この記事は2024年11月27日放送「イグ・ノーベル賞受賞 ブタはお尻からも呼吸する」を再構成したものです。
スポーツ界や宇宙開発の分野からも注目⁈ 「難しそうだと思ったときこそ全力で取り組む」という武部さん。研究にかける情熱など、お話の続きは月刊誌『ラジオ深夜便』3月号をご覧ください。
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