教育コンテンツの国際コンクール

日本賞は1965年に創設された、NHKが主催する教育コンテンツを対象とした国際コンクールで、NHK財団では日本賞の事務局支援業務を担っています。

教育コンテンツというと少しとっつきにくい印象を持たれる方がいるかもしれませんが、日本賞では常に時代や社会を反映したあらゆる映像コンテンツに目を向け、新しい価値観を提案する作品、異文化への理解、困難な状況に対して共感を育む作品に光をあててきました。

例えば昨年のグランプリ受賞作「トゥー・キッズ・ア・デイ」はヨルダン川西岸に住むパレスチナ人の子どもたちが日常的にイスラエル軍に逮捕されている実態に迫ったドキュメンタリーで、観るものの良心に強く訴えかけます。日本賞では知る、感じる、考える、そして一歩踏み出すきっかけになるような作品こそが、教育的価値あるものだと考えています。

第51回を迎える今年は、世界59の国と地域から、過去最高の423の作品と企画の応募がありました。11月18日(月)から開催される日本賞映像祭では、厳正な審査の結果、各部門から選出された9つの受賞作品が上映されます。授賞式では各部門の最優秀作品の中からグランプリ日本賞が選ばれるほか、コンテンツ企画部門の受賞者も発表されます!


原宿で、世界の教育コンテンツに触れる!

受賞作品の上映会は11月18日(月)から21日(木)まで、原宿駅前にある「WITH HARAJUKU HALL」で開催され、16歳以上の方はオンラインで登録すれば、どなたでも無料で参加できますステラnetを離れます)

上映作品のうち、幼児、児童、青少年、一般の各部門で最優秀賞に選出された4つの作品をご紹介しましょう。


幼児向け部門(0~6歳):未就学児の教育に役立つコンテンツ

ファンタスとあそぼ あめふり【ノルウェー】

ノルウェー放送協会(NRK)が手掛ける0歳~2歳の子どもたちに向けたシリーズ。実際の子どもたちが人気キャラクターのファンタスといっしょに陸と海の新しい世界を冒険し、アニメーションで命を吹き込まれた、おもちゃや身の回りのものに次々に出会います。

このエピソードでは、寝ているクマを見たファンタスがお友だちと「クマさんグーグー」遊びをしたり、拍手をするゴミ箱や歌う卵を見つけたりします。さあ、遊び心いっぱいの音楽の旅に出かけましょう!


児童向け部門(6~12歳):初等教育課程の子どもの教育に役立つコンテンツ

ビキニをやっつけろ!【カナダ】

カナダ人監督が自身の経験などをもとにして制作したドラマ。元気いっぱいの10歳の少女リリは、泳ぐときはいつも海パンだけ。レジャープールに遊びに行くときはビキニの上をつけるよう両親から強く言われ、リリは反発します。どうして平らな胸を隠さなきゃいけないの? 友だち(全員男の子)はそんなことしないのに。

この作品は、固定観念、自己認知、身体の変化を通して、自我の目覚めとアイデンティティー形成を描いています。


青少年向け部門(12~18歳):青少年の教育に役立つコンテンツ

カブール・ビューティー【フランス】

タリバン支配下で自由を制限された、若い女性たちの苦悩に迫ったドキュメンタリー。ソフィアとニギナは、誇り高く、美しいアフガニスタン人。親友である2人は、働いている美容室のカーテンの裏で、彼女たちにとって最後の自由な空間を守ろうと奮闘します。しかし、2021年8月にタリバンが復権すると、弾圧が強まり……。 


一般向け部門(18歳以上):大人の学びに役立つコンテンツ

ハグしてもいい?【イギリス、イラン、ドイツ】

幼少期のトラウマに向き合う主人公を監督である妻が追う渾身のドキュメンタリー作品。イランの宗教都市コムでは、性的な安全を守るという名目で女性にさまざまな制約が課せられています。このような環境で育った少年ホセインは、幼少期に男性によるレイプや性的虐待を受けます。彼はこの秘密を抱えたまま大人になり、現在、妻エラヘの支えを受けてようやくそのトラウマに向き合おうとしています。


上映スケジュールはこちらよりご確認いただけます(ステラnetを離れます)※予定が変更になる可能性があります。最新の情報は日本賞ホームページをご確認ください。
※ここに紹介した4作品は11月11日(月)よりオンラインでもご覧いただけます。


世界の審査員はこう見た!

世界59の国と地域からのエントリー作品の数々。日本を含む12の国と地域から16人の審査委員が、一次審査を行いました。審査委員のコメントを一部ご紹介します。

■幼児向け部門

ダニエル・スエドン/マジック・ライト・ピクチャーズ(アニメーションディレクター)【南アフリカ】
ファイナリスト作品には、僕自身が強く魅力を感じ、日本賞の審査基準を最も満たしていると判断したものを選びました。審査を通じて特に心をひかれたのは、難しいテーマに挑戦し、親子の対話を促すような作品です。それこそが子ども向け教育番組の最大の価値であり、純粋な娯楽番組とは一線を画す点だと感じています。

■児童向け部門

アナリサ・リベリ/イタリア放送協会 (RAI)Rai Kids購入部長【イタリア】
子ども向けの作品を審査する上では、芸術的・感情的な魅力が非常に重要な要素になります。さらに一貫して重要視したのは、テーマの力強さです。戦争や環境問題、病気や死といったテーマに挑んだ作品、元気を与え、インクルージョンや共感を促し、自分のアイデンティティへの誇り、祖先や自然の尊重、伝統や記憶の継承をテーマにした作品など、多くのすぐれた作品が寄せられました。
佐藤真璃/日本放送協会 鹿児島・経営管理企画センター【日本】
青少年向け部門の応募作品は非常に多様で、審査は難しくも充実していました。多くの作品が、社会的に疎外された人々のさまざまなストーリーに焦点を当てており、それが現代社会の縮図であるかのように感じられました。
特に注目したのは、応募作品がどれだけ若い視聴者の多様性を認めるものであるか、そして困難な状況にあっても前向きな姿勢で彼らを如何いかに力づけるかの2点です。共感は、まず学びから生まれます。多くの作品が、先入観を払拭し、他者への共感を育むことに真剣に取り組んでいました。

■一般向け部門

アナ・ネデルコビッチ/ビジュアル・アーティスト、ディレクター、アニメーター【セルビア】
人権問題から環境問題まで、世界中の多くの深刻な課題が取り上げられていました。どのテーマも力強く、重要なものばかりで、審査は難航しましたが、選出された作品は、私たちが住む世界をリアルに映し出していて、それは時に恐ろしく、同時に楽観的な見方を示しており、世界をより良い方向へ導く道標となると感じています。

 

世界のコンテンツ制作者の生の声に触れる!

第50回日本賞の授賞式(コンテンツ企画・最優秀賞)より。

日本賞では、予算、機材など制作条件が十分でない国や地域での教育コンテンツの企画の実現も支援しています。企画部門では、それらの国や地域の制作者が温めてきた企画を審査委員の前でプレゼンする最終審査会も開催されます。

また、番組の上映後は制作者が登壇し、番組が生まれたきっかけなど制作秘話を語るほか、作品に関連した社会課題について海外からの参加者との意見交換も行われます。日本賞をきっかけに、さまざまな出会いが生まれ、新たなプロジェクトも生まれています。

その一つが10月6日に放送された「NHKスペシャル “正義”はどこに~ガザ攻撃1年 先鋭化するイスラエル~」。この番組は、昨年度のグランプリ日本賞受賞作品「トゥー・キッズ・ア・デイ」の制作チームとNHKがタッグを組んで生まれた番組です。

“正義”はどこに ~ガザ攻撃1年 先鋭化するイスラエル~ - NHKスペシャル

日本賞映像祭は、世界中の制作者や業界関係者が一堂に会する貴重な機会です。ふるってご参加ください。

日本賞イベントへの参加やコンテンツの視聴はこちらから。16歳以上の方は無料で参加できます(ステラnetを離れます)。


日本賞 Japan Prize International Contest For Educational Media

Japan Prize International Contest For Educational Media -日本賞-

取材・文/NHK財団 国際事業本部 財前由紀