久しぶりに冷や汗をかいた。

正時のニュースまであと数分。ギリギリになって渡された原稿はなぜかきっちりと蛇腹折りにされている。幅2センチくらいの張り扇のようなものを何本かまとめて「ハイ、原稿」と渡されるが、どれが何枚目なのかも分からない。両端を持って広げても、すぐにアコーディオンのように元に戻ってしまう。しかも半透明の紙に両面印刷! 裏の文字がダブって見えて読みづらいことこの上ない。

しばらくニュースを担当しないうちに方式が変わったの? 他のアナウンサーこれを読めるの? と頭の中は「?」でいっぱいだが、そうしているうちにも時計の針は進む。

モニターからは「〇〇県のきょうは曇りのち晴れ」と正時前の天気予報の声。ダメだ、もう時間がない。心拍数が上がる。もっと早く準備を始めるべきだったと後悔してももう遅い。とにかくスタジオに入らないと放送事故になる。覚悟を決めて深く息を吐いた。

「プッ、プッ、プッ、プー♪」

無情に響く時報。その音で、私は目が覚めた。そう、これは夢だったのだ。

しかし天気予報と時報は現実だった。そういえば5時ごろに一度目が覚めてラジオをつけ、そのままウトウトしていたのだった。冷や汗をかいたのも現実。まったく心臓に悪い。

この手の夢は“アナウンサーあるある・・・・”で、「原稿がアラビア文字で書かれていた」とか「行ってみたらスタジオがなくなっていた」とか……皆それぞれに、うなされた経験があるようだ。

しかし新人のころならともかく経験を積んで生放送にも動じなくなるとこういう悪夢は見なくなっていたのに、今頃また見るのはどういうわけだろう。アナウンサーになって初めて放送で声を出した日から35年。春、4月。初心を忘れるな、ということか。

それにしても、あの手この手で放送を邪魔してくる“夢”……。両面印刷に蛇腹折りとは手が込んでいる。次はどんな手を使ってくるのか、ちょっぴり楽しみでもある。

(なかがわ・みどり 第2・4月曜担当)

※この記事は、月刊誌『ラジオ深夜便』2024年4月号に掲載されたものです。
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