ジャーナリスト・高田昌幸さんインタビュー フェイクニュースに対処する「削るのではなく加える」という考え方の画像
東京都市大学教授 ジャーナリスト 高田正幸さん

NHK財団が主催した「インフォメーション・ヘルスAWARD2024」。

全国から集まった65件の応募作を、10人の選考委員が審査して、グランプリ1件、準グランプリ2件、特別賞7件が決まりました。(研究者・ジャーナリスト・プラットフォーマー・ネットニュースメディア・企業経営者の皆様にご協力いただきました。詳しくはこちらのNHK財団の公式サイトをご覧ください)
AWARDは今年度、第2回を開催します。


選考のポイントやネット空間の課題について、選考委員の一人、ジャーナリストで東京都市大学教授の高田昌幸さんに聞きました。

高田さんは東京都市大学メディア情報学部教授(ジャーナリズム論)。北海道新聞・高知新聞で通算30年記者をしたジャーナリストで、自由な表現の場であるネット空間に規制や制限を設けることには慎重であるべきだと考えています。
(※高田昌幸さんの詳しいプロフィールは記事の最後をご覧ください)

第1回インフォメーション・ヘルスAWARDシンポジウム(2024年4月2日開催)より。左手、最奥が髙田さん。

——インフォメーション・ヘルス=情報的健康についての意見を聞かせてください。

第1回の応募では、特に10代の若い方々から「ネットでのぼう中傷ちゅうしょうをいかに防ぐか」というテーマのアイデアが多く寄せられました。もちろん誹謗中傷はあってはならないことですし、ネットで拡散してしまうことを抑制する仕組みを考えることはとても重要で、切実な問題です。

ただ、自分にとってあるいは誰かにとってマイナスの情報がすべて誹謗中傷とは言えない。誹謗中傷は個人的な一人ひとりの感情なので、正しい指摘をされた時でも、“嫌だな”とがっくりするとか、胸に刺さる気持ちになると誹謗中傷と感じてしまうことがあります。

しかし健全な批判やまっとうな意見は大切な情報ですので、誹謗中傷とはっきり区別すべきで、そうした必要な情報まで制限してしまわないように注意しなければなりません。

フェイクニュースも問題です。意図的なものや錯誤によって間違った情報が拡散することで社会に大きなマイナスの影響を与えてしまう。これをいかにして防ぐかは重要な課題です。

ただ、今の世の中の「ファクトチェック」の流れには危惧きぐを感じます。フェイクニュースの氾濫はんらんを防ぐため、政府やプラットフォーマーが責任を果たすべきだという考えに、ぜひやってもらいたいと多くの人がもろ手を挙げて賛成しようとしていないか。

例えば政府による規制が始まると、それを運営する部署ができ予算がつき、権限が発生します。これは「表現の自由」に関わる重大な問題です。日本国憲法第21条、アメリカ合衆国憲法修正第1条は「表現の自由」を保障しています。

情報のチェックを誰かの手に委ねることは、これまでの長い歴史の中で市民が血を流してつかんだ権利を捨ててしまうことにつながるのではないか。政府を批判する自由が脅かされるおそれはないのか、と考えなければなりません。

情報的健康の仕組みを考えるときには、ぜひこうした視点を忘れないでいただきたいと思っています。

「情報のチェックを誰かの手に委ねることは、これまでの長い歴史の中で市民が血を流して掴んだ権利を捨ててしまうことに繋がるのではないか」(高田さん)

情報を「削る」のではなく「加える」

——それでは私たちは、情報の氾濫に対してどんな姿勢でのぞんでいくべきなのでしょうか。

「情報を制限する=削る」のではなく「加える」ことです。間違った情報や偏った情報を「削る」というのは「表現の自由」を放棄することにつながる。規制や制限をして拡散させないようにではなく、正しい確定的な情報を「加えて」それに簡単にアクセスできるよう工夫していく。

何かを確認したいときに、過去にさかのぼって時系列で考えることが誰にでもできるような情報のライブラリー=インターネット図書館が必要です。

フェイクニュースはなぜ広まるのか。信じ込む人が多いからですね。でも、例えば「人工地震を起こした」というようなうそや、「災害時にライオンが逃げ出した」というようなにせ情報は、基本的な常識を持って正しい情報を確認できるような誰もが使える仕組みがあれば、拡散を抑え込むことができるはずです。

第1回AWARDの特別賞「ことてん*」のようなアイデアは、まさに「加える」工夫を考えたものとして評価しています。

* 生活上直面するさまざまな問題に対する情報と相談先をまとめた事典アプリ。情報の健全性を保つために、著作者が有識者であること、または校正を入れることなど従来の事典の制作過程を踏襲している。受賞アイデアの一覧は、こちらの公式ページを参照


「削る」ときには説明が必要

——「削る」についてですが、ネットのコメント欄への書き込みについてプラットフォーマーなどの事業者は「コメントポリシー」を明示して、「個人情報・法律違反・ わいせつや暴力的な内容・過度な批判や誹謗中傷、個人に対する攻撃や嫌がらせ・差別的発言、ヘイトスピーチ・不謹慎、配慮に欠ける批判や悪口・明らかな偽情報・いたずら、スパム投稿・なりすまし」などのコメントを削除したり投稿を制限したりしています。こうした対策は必要なのではないでしょうか。

【参考事例】(ステラnetを離れます)「Yahoo!ニュース コメントポリシー」「Facebookコミュニティ規定

ガイドラインを示して問題のある書き込みを適切な範囲で「削る」仕組みは必要でしょう。ただその際には、表現の自由を守るという姿勢を持って民間の団体なりが自らの責任で判断して実施していくことが重要です。

そして、ネットはコメント欄を含めて「公共空間」であることを強く自覚して、ガイドラインを示すだけでなく、削除する理由について個別のケースごとに丁寧に説明する姿勢を大切にすべきだと思います。
アテンションエコノミーの枠組みによって、コメント欄へのアクセス数も含めて事業者のビジネスモデルを支えているのですから。

【参考事例】Yahoo!ニュースの投稿停止措置に関する異議申し立て窓口(ステラnetを離れます)「Yahoo!ニュースヘルプ

「課題を乗り越える視点の一つとして、私は『削る』のではなく『加える=積み重ねる』という方向での提案・アイデアを期待しています」(高田さん)

——最後に第2回AWARDに応募しようという方々にメッセージをお願いします。

インターネット空間での言論・表現の自由をどのように確保するか、どう保障していくかの枠組みを決めるのに、今はチャンスだと思っています。

これだけフェイクニュースや偽情報の話が交わされている中で、それにどのように対処するのかを検討することが、実は表現の自由を保障することと裏表の関係にあるのだときちんと理解して考えなければならない。

この課題を乗り越える視点の一つとして、私は「削る」のではなく「加える=積み重ねる」という方向での提案・アイデアを期待しています。

もう一つはインターフェースの問題です。多くの人が使いやすくわかりやすいもの。カタカナが少ないとか画面の見やすさにまで気を配って社会実装につなげてもらいたいなと思います。

——ありがとうございました。

※高田昌幸さんのプロフィールはこちら→「researchmap」(国立研究開発法人科学技術振興機構が運営)(ステラnetサイトを離れます)

(NHK財団 インフォメーション・ヘルスAWARD事務局)

インフォメーション・ヘルスAWARD 2024に関しては公式サイトをご覧ください。
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