長年スポーツアナウンサーの仕事をしていると、思いがけない出会いや再会の機会に恵まれることがあります 。
昨年、栗山英樹さんへのインタビュー収録の際、北海道日本ハムファイターズの管理部ディレクターをされている髙山通史さんとお会いしたときのことです。
「昔、甲子園の試合を工藤さんに実況してもらったんですよ 」と言われ「えっ? 」と驚き、「『ドカベン』のモデルになった新潟明訓です」と聞いて「あっ、そういえば」と数々の実況の記憶の糸を手繰り寄せると……。
1993年夏の甲子園1回戦、島根の松江第一 (現・開星)対新潟明訓戦。5回裏に8番バッターが放った先制ホームランによって新潟明訓が甲子園初勝利を挙げた試合。確かに私が実況しています。そのホームランを打ったバッターこそ髙山さん! その人でした。
甲子園球場の放送席とグラウンドで、同じ空間を共にした2人。30年の時を超えて 出会うなんて、初対面のはずなのに懐かしい再会の気分です。試合のビデオを探し出してホームランのシーンを再生してみると、 「ストレートを打ったーレフトに持っていったー風も追う! 巻いた、入ったあー! 髙山、ホームイン!」……スリムな髙山さんが躍動し満面の笑み。そして実況する私の声の若いこと!
お話する中で、髙山さんにとって、これが人生で唯一のホームランだったと知りました。3年生の夏までベンチにも入れない控えだった髙山さん。やっと背番号をもらった県大会で活躍して甲子園のメンバーに選ばれ、野球人生最高の舞台で打った奇跡のようなホームランだったのです。
髙山さんの偉業に恥じない実況だったのか不安が残ります。奇跡が詰まった甲子園の実況は、これからも球児たちの永久保存版になっていくのでしょう。私には、かつての実況が取り持ってくれた奇跡のような出会いが、人生の永久保存版になりました。
(くどう・さぶろう 第1・3火曜担当)
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