休日が終わる日曜深夜からひっそり放送されている「ドキュメント20min.」(総合)という番組を知っているでしょうか。これが、とても発展途上ながら、つい気になって見てしまい、時に目が離せなくなる……どこか不思議な魅力を持つ番組なのです。

番組のコンセプトは、「『見たいテレビなどない』という若い世代に向けて、『こんなテレビ見たことない!』といってもらうための20分間。これまでの演出・文法・テーマから自由な若手制作者たちが、新しいテレビの形を模索します」。

つまり、“若手ディレクターが手がける短尺のドキュメンタリー”なのですが、週替わりの企画は、良く言えば「変幻自在」、悪く言えば「バラバラ」。こんなに自由かつ実験的なドキュメンタリーを民放で放送するのは難しく、NHKならではの番組と言っていいでしょう。

まずは、最近の放送はどんなもので、どこが注目のポイントなのか。かいつまんであげていきます。


「ドキュメント72時間」とは真逆の制作スタンス

3月11日放送のタイトルは、「“あの日”を語る料理店」。東日本大震災から13年が過ぎた今、当時の体験や思いと結びつく食事をフィーチャーするという企画でした。

3月11日放送「あの日を語る料理店」

その料理は、「砂まじりのおにぎり」「譲ってもらった魚肉ソーセージ」「涙が止まらない野菜炒め」「避難前のわが家で最後に食べた目玉焼き」など壮絶そのもの。しかし、13年の時がそうさせるのか、当事者たちの表情は穏やかで、教訓だけでなく、いい意味での風化も感じてもらうようなムードがありました。

3月4日放送のタイトルは、「ナイト ライト ライド」。ある日の真夜中、アーティストの前だけに現れるという不思議なバスに2021年結成の若手バンド・CHOCOPACOCHOCOQUINQUINが乗車。「夜明けの終着地までにどんな新曲が生まれるのか」を映す新感覚の音楽ドキュメントでした。

3月4日放送「ナイト ライト ライド」

CHOCOPACOCHOCOQUINQUINは民族楽器と電子音楽を融合させた独自色の強いバンドだけに、「彼らの存在ありき」の企画であり、正直「プロモーションビデオのようだな」という感は否めません。ただ、「自分のやりたいもの、新しいものを見せるんだ」と理想を追う若手ディレクターの熱は確かに感じられました。

2月19日放送のタイトルは、「待ち声」。基本設定は、「タイパを重視する架空の営業マン(声のみ)が出張で訪れた富山県で“電車が少なすぎ問題”に直面する」というもの。しかし、無人駅で無駄な待ち時間を楽しむ地元住民たちと話すことで、効率について考えさせられていく……という疑似体験型のドキュメントでした。

2月19日放送「待ち声」

さらに、その他のタイトルをあげていくと、小林克也さんと伊武雅刀さんが短編の映像作品を作る「最後の晩餐ばんさん」、台数が大幅に減ったデコトラに映像美で迫る「デコトラ〜魂を灯す男たち〜」、芸人、ラッパー、言語哲学者がひたすら悪口を考える「悪口の美学」、“人生の急転”を経験した男性が“どう生きるか”を問いかける「サドンターン~その時 あなたは~」、57歳の自撮り写真家女性をフィーチャーしつつ写真に特化した「熟写・マキエマキ」。

12月17日放送「サドンターン~その時 あなたは~」
12月7日放送「熟写マキエマキ」

テーマどころか、初期設定、ロケの舞台、撮り方、編集、情報量、メッセージ性まで、そのほとんどがバラバラで、「毎週見てみなければ、面白いかどうか、自分がハマれるかどうか分からない」のが正直なところ。

同じNHK総合の短尺ドキュメンタリーでも、定点カメラ的かつ定量的な「ドキュメント72時間」とは真逆と言っていいかもしれません。

「ドキュメント20min.」は、そんな「何が出てくるのか」を楽しめる、おもちゃ箱や宝くじのような楽しさがある番組なのです。


同世代や他の放送局に負けられない

あらためて「ドキュメント20min.」そのものにふれておくと、2009年6月にスタートして2012年3月まで放送されていったん終了。10年後の2022年4月にリスタートして現在に至りますが、「全国各地の若手ディレクターにチャンスを与えて、育てるとともに、新しいものを生み出そう」という志の高さは変わっていません。

若手ディレクターたちにとっては、“自分のやりたいものを自由に表現しやすい場”であると同時に、「同世代には負けられない」「他の放送局より面白いものを作らなければいけない」という意地の見せどころ。

たった20分間の映像でも、そんな思いが込められているからこそ、「ハマらなかった」「ハズレだった」と感じたとしても、どこか気になり、けっきょく見てしまうのではないでしょうか。

NHKの番組と言えば、報道番組はもちろん、ドラマやバラエティーの存在感も以前より増しています。しかし実際のところ、最も民放各局と差別化できているのはドキュメンタリーでしょう。

総合テレビで放送されているものだけでも前述した「ドキュメント72時間」から、「100カメ」「ノーナレ」「プロフェッショナル 仕事の流儀」「ファミリーヒストリー」「病院ラジオ」など。さらに今春に復活する「新プロジェクトX~挑戦者たち~」も含め、質量も放送時間帯も民放各局とは一線を画すものがあります。

ドキュメンタリーにおけるNHKの優位性は、裏を返せば民放各局の状況が苦しいということ。人・時間・制作費の減少、表現上の制約、炎上リスク回避、スポンサー配慮などから制作は難しくなる一方で、番組数が減り、真夜中の放送に追いやられ、「制作ノウハウが失われはじめている」という苦境が続いています。だからこそNHKのなかでも、ディレクターたちの熱量が感じられる「ドキュメント20min.」が際立って見えるのでしょう。

4月8日に放送される次回のテーマは、若者たちの“就活”ではなく“終活”にフィーチャーした「わたし、【終活】しています。」。

4月8日放送予定「わたし、【終活】しています。」

“就活”と“終活”という発想こそ凡庸ぼんようながら、「若者たちがどんな終活をしているのか」という意外性は十分。「生々しい実録系の記事はPVを獲れる」がセオリーのウェブメディアならランキング上位に入りそうな切り口の企画であり、“テレビ的”というより“ウェブ的”なところも含め、やはりこの番組らしく楽しませてもらえそうです。


ドキュメント20min.

毎週月曜 総合 午前0:00~0:20 ※日曜深夜

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※過去の放送は、NHKオンデマンドにてご覧いただけます(有料)。


コラムニスト、テレビ・ドラマ解説者、タレント専門インタビュアー。雑誌やウェブに月20本以上のコラムを提供するほか、『週刊フジテレビ批評』『どーも、NHK』などに出演。各局の番組に情報提供も行い、取材歴2000人超のタレント専門インタビュアーでもある。全国放送のドラマは毎クール全作品を視聴。著書に『トップ・インタビュアーの「聴き技」84』など。