今年で4年目を迎える「つながる!NHKメディア・リテラシー教室」。全国各地の小学校(対象は5・6年生)をオンラインでつなぎ、NHKアナウンサーが進行役となってメディア・リテラシーについて考えていきます。これまで242校、9,611人の児童がこの教室を通してつながりました。クラスメイト以外の初めて出会う人と一緒にメディアの特性について考え、共有する100分間。
NHK財団では、この教室の運営をお手伝いしています。教室ができるまでの裏側を、事務局を担当する私、花田歩がご紹介します。
メディア・リテラシー教室ではどんなことを学ぶの?
教室は、情報の「受け手」「送り手」の双方の立場で考えを深める内容になっています。例えば、画像の「アップとルーズ」。小学校では教科の中で扱うこともあるそうです。同じ場面のアップとルーズでは伝わることにどんな違いがあるのでしょうか。
また、「情報を伝える」ことは、物事を全体から「切り取る」ことに他なりません。では、その切り取り方って、どうしたらいいんだろう?全部伝えないと、だましたことにならないかな?でも、全部伝えるなんて無理じゃないかな?
そして子どもたちに身近になっている「画像加工」についても取り上げます。画像加工ってやってもいいの?どんな場合、どの程度だったら、いいと思う?
一般の教科と違って、答えのない問題ばかりです。ほかの学校の児童と意見を出し合いながら、その考え方の多様性にも気づくことになります。
リモートでつながる教室は100分(およそ授業時間の2時限分)ですが、子どもたちにはその前に、事前課題に取り組んでもらいます。先生方には子どもたちに、考える「土台」を作っていただくことをお願いしています。
楽しい教室を実現したい!
先生方との綿密なコミュニケーションを大切に
では、事務局のお仕事に話を戻しましょう。
参加校が決定したら、先生方とリモートで打ち合わせを行います。ここで先生と、初めての顔合わせです。これまでも日程調整を行ったり、資料を送付したりなど、やり取りを重ねているので「わ~!○○先生ですね!」と盛り上がることもしばしば。約1時間、事前に提出していただく課題や教室の進行について打ち合わせをします。
リモート打ち合わせは、各学校の事情や先生のご都合をきちんと把握する大事な時間。メールや電話だけだと遠慮がちになったり、上手く伝わらなかったりしますよね。先生方にはどんな人たちが運営をしているのか知っていただき、安心して相談していただけるような雰囲気づくりを心がけています。
これをスタートとして、事務局は本番実施に向けてどんどん走り出します。学校への貸出機材の確認・発送、学校にお願いしている事前の授業で提出していただいた課題のまとめ、進行役のアナウンサーとの打ち合わせなどなど、多岐に渡ります。
リモートに必要な機材の確認・発送はこの教室の要です。事務局では先生方に送る前に全ての機材を実際に組み立てて設置し、シミュレーションをします。音と映像がつながり、お互いにコミュニケーションができるか、機材やコードに不足や不具合はないか……念入りにチェックし、万全の状態で発送します。
また、学校から届いた課題をまとめて画像を作成します。教室本番では、それぞれの学校で作ってくれた課題をお互いに見せ合って考えを深めてもらいます。
提出してもらったものが確実に反映されるように、何度も確認します。
そして進行を担当するアナウンサーとの打ち合わせ。参加校の情報や届いた課題を実際に見ながら、子どもたちに何を問いかけるのか、どうやって学びを深めてもらうのかなど、話し合います。
ここまで来れば、あとは本番を迎えるだけ!…ではなく……。
本番前日に参加校とリモートの接続テストを行います。先生方に、本番同様に機材をセッティングしていただき、最終確認。「あれ?聞こえるけど映像が見えない?」とか、逆に姿は見えるのに声が聞こえない……など、緊張が走ることもあります。そんなときは機材チェックを丁寧に行ってきた自分たちを信じて、一つ一つ先生と確認。これまでの242校、問題なくつながり、教室にご参加いただいています。
前日のテストではそれぞれ、教室の写り方を調整したり、提出していただいた画像を確認たりします。
さあ!楽しく考える100分のはじまり~!
こうして迎える本番の日。アナウンサーやディレクターと最終確認をし、開始10分前に前説(事前の説明)を行います。いつもと同じ学校、馴染みのある教室ですが、テレビモニターに自分たちが写ったり、他の学校とつながったりするので、中には少し緊張気味の子もいます。お互いに写っていることを確認しながら手を振ってもらったり、拍手の練習をしてもらったり、ちょっとしたクイズをしてみたり、とウオーミングアップ。
始まる1〜2分前に進行役のアナウンサーに渡して、本番スタートです。
それぞれの学校を紹介するところから始まり、アップとルーズについて、映像の編集(使う映像を選び、つなげること)について、また画像加工についてなど、考えることがいっぱい!の100分。
この教室で考えるテーマには正解がありません。子どもたちが「いいと思ったこと」「ダメなんじゃないかと思ったこと」もそれぞれに違っていて、お互いの意見を知ることが新しい気づきになります。それは大人も一緒で、毎回立ち会っている私たちもその意見にハッとさせられます。子どもたちがよく考え、自分の言葉で一生懸命に発表する姿は、こちらも背筋が伸びる思いです。
子どもたちの「気づき」が未来を創る力です
教室終了後、児童と先生、それぞれに感想などをアンケートで伺っています。
メディア・リテラシーに正しい、間違っている、はないですが、これから子どもたちが大人になるうえで、何か『気付ける』人になってほしいと願うばかりです
これは先生からいただいたコメントの一つ。先生の想いに私自身も共感したので特に印象に残っています。毎回、子どもたちからは、気付いたことや生かしたいことをいっぱい書いたアンケートが届きます。回答を読むたびに、きっと先生の願いは子どもたちに届いていると感じています。
アンケート結果のまとめは毎回、公式サイトでも公開しています。
何をどう伝えるか、をきっかけに、「受け手」と「送り手」の関係から、考えの多様性まで、全てがメディア・リテラシーの核心に繋がっています。この教室を通して、子どもたちは何かしらの気付きを得ているのだと思える瞬間に出会うと、本当にうれしく思います。
私たちが毎日接する「メディア」。それを「危険なもの」「気をつけなければならないもの」とばかり捉えるのではなく、「楽しく利用して、もっと良い社会にしていこう!」……そんなことを目指すきっかけに、この教室がなれたらいいな、と思っています。
(文/ NHK財団 展開・広報事業部 花田 歩)
つながる!NHKメディア・リテラシー教室の詳しい内容や申し込み方法はNHKの公式サイトをご覧ください。