みなさん、こんにちは、お久しぶりです! もしくは初めまして! 「三度の飯より朝ドラが好き」、ギリギリZ世代の朝ドラファンライターの朝ドラ見るるです。
さっそくですが、4月1日(月)スタートの次の朝ドラ「虎に翼」。チェック、始めてますか? まだタイトルしか知らないというあなたも、あせらなくて大丈夫! これから見るると一緒に予習していきましょう♪
「虎に翼」は、NHKの連続テレビ小説としては第110作目。日本史上初(!)、法律の世界に飛び込んだ、ある女性の実話に基づくオリジナルストーリー……つまり“原作”がないってことですね。主演は、若手俳優の中でもピカイチの演技力と、唯一無二の存在感で人気の伊藤沙莉さん! 朝ドラへの出演は、2017年放送の「ひよっこ」以来。しかも、ヒロインとしてカムバック、すでに期待しかない〜!
……だけどここだけの話、少し懸念していることもありまして。
それは、今回のドラマの舞台が“法曹界”だってこと。法律の世界と縁遠〜い見るるに、果たしてついていける内容なの? 朝から難しい話は嫌、でも朝ドラは見たい。そんなジレンマに苦しんでいた(?)見るるですが、ふと、思いついちゃったんです。
ええい、わからないことがあるなら、詳しい人に教えてもらえばいいじゃない‼︎
というわけで今週からは、「虎に翼」に関する素朴なギモンを、専門家の先生方にばばーんとぶつけて、詳しく解説してもらっちゃおう!のコーナーがスタートなのです!
え? まだドラマの放送前だから、今回は何もやることがないんじゃないかって? いやいや! すでにわからないことだらけですよ。
本作のヒロイン・猪爪寅子のモデルは、日本で初めての女性弁護士のひとりであり、のちに女性判事・女性裁判所長の第一号にもなった、三淵嘉子さん(1914〜1984)。でも、三淵さんって一体どんな人なのか、みなさん知ってます? ……見るるはスミマセン、ハジメテオナマエオキキシマシタ。
そこで!(←めげない)見るるのハテナを解消すべく、今回は、NHK解説委員の清永聡さんを直撃しちゃいました!
いくらNHKの解説委員だからって、ドラマの解説まで求めるのは筋違いじゃないの? そう思ったあなた。実は清永さん、なんと三淵嘉子さんについて本を書かれているほど、その生涯や背景に詳しい方なのです! しかも、「虎に翼」制作スタッフの一人として「取材」を担当していらっしゃるのだとか。これは、頼もしすぎるティーチャーになること間違いなし!
ではでは、早速いってみましょう! 教えて、清永さん〜!
ヒロイン寅子のモデル・三淵嘉子さんって、一体何者? どこがすごいの?
見るる 今回はよろしくお願いします!
清永さん こちらこそよろしくお願いします。
見るる さっそくですが……三淵嘉子さんって、一体どんな人なんですか?
清永さん 三淵さんは、1938(昭和13)年に今の司法試験にあたる「高等試験司法科 」に合格し、日本ではじめての女性弁護士になった女性です。実際には、3人の女性弁護士が同時に誕生しているので、そのうちのひとりですね。
そして1949(昭和24)年に、東京地裁で裁判官に。のちには横浜家庭裁判所など複数の裁判所で所長を務めました。注目なのは、判事になったのも、裁判所長になったのも、女性では三淵さんが初だということです。まさに、司法分野で女性の社会進出を切り拓いた旗振り役だといっていいでしょう。
見るる えーっと昭和13年ってことは、朝ドラ「ブギウギ」でいうと、ヒロインのスズ子が初めて東京にやってきた年……わ〜! そんな時代に、もう女性弁護士が誕生していたんですね〜(しみじみ)。
でも、あれ? その頃(戦前)って、日本の女性には参政権もなかったんですよね? 参政権はないのに、弁護士になることはできたんですか?
清永さん いいところに気づきましたね。日本で女性の参政権が初めて行使されたのは1946(昭和21)年です。あ、ちなみに、三淵嘉子さんと「ブギウギ」のスズ子のモデル・笠置シヅ子さんは、ともに1914(大正3)年の生まれ。同い年、しかも実家は同じ香川県で、本人も幼少期に丸亀市に住んでいました。
見るる 清永さん、そんな豆知識まで……ありがとうございます! なるほど、そう考えると時代背景を把握しやすいかも。スズ子のように歌手として輝いた存在がいる一方で、まだまだ、女性にはいろんなことの自由が許されていなかった時代だったんですよね。
清永さん ええ、公然と女性差別が行われていました。だから、三淵さんのすごさは、そんな環境の中で、いわゆる「ガラスの天井」を次々打ち破っていったことなんです。
見るる 「ガラスの天井」というと、「女性のキャリアアップを邪魔する、目に見えない障害」のことですよね。
清永さん そうです。女性が高等試験を受けられるようになったのは、1936(昭和11)年以降。制度が出来てからもしばらく女性の合格はありませんでした。三淵さんはその狭き門を、実力でこじ開けたんですね。さらに、戦後、女性の裁判官が制度として解禁されるより前に、自分の採用を直談判したと言いますから、すごい。
見るる 直談判!! まさに意思の強い女性っていう感じ。かっこいいなあ。
清永さん 一方で、三淵さんにも破れなかった「ガラスの天井」は、いくつもあった。たとえば三淵さんは、地方裁判所や高等裁判所の「裁判長」にも「所長」にも「長官」にもなっていない。歴任したのはすべて、新潟や浦和(当時)、横浜などの「家庭裁判所」の所長です。
彼女の高い能力を考えると、やや不自然というか、「女性が裁判長をやるのは認められない」という時代の風潮が背景になっているとも思えるんですね。新潟や浦和の家庭裁判所の所長をやったら、次は東京や大阪の高裁の裁判長になってもおかしくないレベルですから。
また、三淵さんの後輩の中にも、実に五か所も家裁所長ばかり転々とした女性裁判官がいたくらいです。もちろんいまではこうした人事はなくなっています。
見るる そうなんだ……女性だからって重要な役職につけないなんて、ヤな感じですね。ドラマでは、そういう部分も、しっかり描かれていくのかな? 伊藤沙莉ちゃんが、女性差別にプンスカしている姿が、今から思い浮かぶ〜。なんて、ひと事みたいに言ってる場合じゃないか。
三淵嘉子さんの人柄が知りたい! 実は伊藤沙莉さんに似ている!?
見るる 三淵さんのすごさは、なんとなくわかってきました。となると、次は、どんな性格だったの?っていうのが気になってきます。清永さんは、直接、三淵さんにお会いしたことはあるんですか?
清永さん いや、残念なことに、それはないんです。私が三淵さんや周辺の人たちのことを調べて『家庭裁判所物語』(日本評論社)を書いたのは2018(平成30)年。三淵さんが亡くなったのは1984(昭和59)年ですから、30年遅かった(苦笑)。
ただ、三淵さんの息子さん、それに弟さんには数年間にわたって繰り返し話を聞かせてもらったほか、 部下の方々には取材をしましたよ。三淵さんはとてもチャーミングで、やわらかい雰囲気の人だったということです。部下が誰かに怒られていると、スッと助け舟を出して、その場を丸く収めてくれるような。
見るる い、いい上司〜〜!(じ〜ん) 初の女性弁護士って聞くと、堅そうな、なんとなく近寄りがたいイメージが浮かびますけど、そうじゃなかったんですね。なんかホッとします。というか、お写真を拝見すると、三淵さん、伊藤沙莉さんにお顔の雰囲気似てませんか!?
清永さん 実は、スタジオ見学に来たご遺族や元部下の方々も、丸顔でにこやか、笑うとエクボが出る感じがよく似ているとおっしゃっていました(笑)。
ただ、この穏やかさも、男性中心の社会を生き残る上で、必要に迫られて身についたものなんじゃないかな、というのが私の考えです。セクハラもパワハラも、女性蔑視も普通にあった時代。その中をうまく渡っていくのは、並大抵のことではなかったでしょう。
一方で、勝負事においては負けず嫌いな面もあったみたいです。三淵さんは麻雀が好きで、ご自身の息子さんと、そのご友人と一緒に麻雀をやる機会があった時に、安い手で先に上がった息子さんに対して「この親不孝者!!」とどなったそうで(笑)。息子さんは、あとでご友人に「お前の母ちゃんすごいな」と言われたそうです。
見るる 何ですか、その面白エピソード(笑)。すごくいいですね、人間味があって。三淵さんの人柄がいきいきと伝わってきます。そういえば、モデルとは言いますけど、今回のヒロイン・寅子の物語は、どの程度、三淵さんの史実に沿っているんですか?
清永さん 寅子の経歴、かなり三淵さんご本人に近いですよ。もちろん、エピソードはかなり膨らませていますし、史実とは全く異なる部分も。例えば、三淵嘉子さんは、実はシンガポール(「新嘉坡」と表記)で生まれたから「嘉子」と名付けられたそうですが、ドラマでは「寅子」だから、そうならないでしょうしね。
見るる でも、寅年ではあると……なるほど!(笑)でも、さっきの麻雀エピソードとか、ドラマの中にあったら絶対名シーンになるだろうな。期待しておきます!
初のリーガル朝ドラ! 「虎に翼」は、どんなドラマになるの?
見るる ところで、清永さんは、ドラマ制作班の中で、「取材」を担当しているそうですが、具体的にはどんなことをしているんですか?
清永さん 主に担当したのは、 三淵さんの人となりを脚本の吉田さんやスタッフに伝えて、ストーリーの参考にしてもらうことと、書かれた脚本の事実関係のチェック、裁判や司法の動きについての資料集め。あと、ドラマの中で扱うことになる事件や裁判の判例の元ネタ探しなどです。
見るる そうですよね、やっぱり主人公が弁護士や判事となると、おのずと裁判シーンなんかも出てくるんですよね。テイストとしては、いわゆる謎解きドラマみたいな感じになるんでしょうか?(ワクワク)
清永さん まあ、そういう要素もなくはないですが(苦笑)、どちらかというとごく小さい民事事件や法律や司法制度の問題も 扱っていくので、いわゆる推理モノのような 「謎解き」とは違いますね。むしろ、半年かけて、日本の戦前・戦後の司法史を、寅子の目を通じて追いかけていくドラマです。見終わった頃には、かなり詳しくなれるかもしれません。
見るる へ〜! それはそれでワクワクです。あ、でも、難しいのはちょっと……。
清永さん そこは、ちゃんと“朝ドラ”ですから。ご心配なく。それに個人的には、これまで、弁護士や裁判官を描いた作品は数あれど、戦前の司法や民法をしっかり描いたものは、ほとんど ありませんでしたからね……。「法クラ*」垂涎のドラマになると思いますよ (ワクワク)。
*法律クラスタ、法学クラスタの略で、弁護士など法曹関係者たちのコミュニティーのこと。硬軟の法律をテーマにした話題で盛り上がる。
見るる 「法クラ」!? 清永さん、そんなところにまで詳しいんですか!? ちょっと意外〜。
清永さん (ゴホン)もとい、「虎に翼」は、これまでにない戦前・戦中・戦後の司法の世界を覗くことができる朝ドラになると思いますよ。それに……私、試写室で何度も笑ってしまいましたし(笑)。
見るる あ、そうなんですね! それを聞いてホッとしました(笑)。やっぱり、明るく笑って見られるのが朝ドラですからね。楽しみに来週を迎えられそうです〜。清永さん、ありがとうございました!
NHK解説委員室「来年春の連続テレビ小説 三淵嘉子ってどんな人?」(2023年3月7日)
※また、清永解説委員が出演する「みみより!解説」では、定期的に「虎に翼」にまつわる解説を放送します。番組公式サイトでも記事が読めます。
2024年4月2日放送の『みみより!解説「虎に翼」解説 三淵嘉子と“男女平等”』はこちらから(NHK公式サイトに移ります)。
さあ、これで準備万端。安心して、来週の放送開始を迎えましょう♪
と、思ったら、ここへきて、不穏(?)な情報が舞い込んできました。「虎に翼」第1週のタイトルは……。
第1週「女賢しくて牛売り損なう?」
4月1日(月)〜5日(金)
意味:女が利口なようすをしてでしゃばると、かえってその浅知恵を見すかされて物事をやりそこなうことのたとえ。(小学館『デジタル大辞泉』より)
な、なんだこの、令和の世では炎上待ったなしの不適切なことわざは〜!? どうせ女は愚かなんだから、商売のときにはでしゃばるなってこと? これをわざわざことわざにするところに小ささを感じる……!(もんもん)
でも、清永さんのお話を聞いたあとだと、ちょっと納得。そう、ポイントは最後の「?」。この疑問形に意味があるのかも。つまり、このドラマは、そういう男性中心の社会に疑問を投げかけ、かつ、自分の強さを信じて生きたヒロイン・寅子の物語だってことを言いたいのかも。これは見逃せない!
というわけで来週からは、毎週金曜日配信で、見るると各専門家の先生による「トラつば」関連話題の集中講義をお届けしていきます(もちろん、見るるは受講者代表!)。ドラマ視聴のおともに半年間、ぜひよろしくお願いしますね♪
NHK解説委員。1970年生まれ。社会部記者として司法クラブで最高裁判所などを担当。司法クラブキャップ、社会部副部長などを経て現職。著書に、『家庭裁判所物語』『三淵嘉子と家庭裁判所』(ともに日本評論社)など。「虎に翼」では取材担当として制作に参加。
取材・文/朝ドラ見るる イラスト/青井亜衣
"朝ドラ"を見るのが日課の覆面ライター、朝ドラ見る子の妹にして、ただいまライター修行中! 20代、いわゆるZ世代。若干(かなり!)オタク気質なところあり。
両親(60&70代・シニア夫婦)と姉(30代・本職ライター)と一緒に、朝ドラを見た感想を話し合うのが好き。