テレビを愛してやまない、吉田潮さんの不定期コラム「吉田潮の偏愛テレビ評」。今回は、夜ドラ「作りたい女と食べたい女」season2です。

テレビから日々流れてくる「女性に人気の〇〇」という言葉。大半がわいらしいものやおしゃれなもの、甘さや糖分が控えめなものだったりする。間違ってもデカ盛りではない。こってり脂身やにんにく増し増しでもない。「女性に人気っていったい誰基準⁉」と脳内でツッこむことすらしなくなったほど、日常的に頻繁に聞こえてくる。テレビ局の中の人は無意識に女の食べ物を限定している。

女が少食とは限らないし、料理好きの女が男のために作っているわけでもない。バレンタインにチョコをあげる相手が異性とは限らないし、すべての行為が恋愛につながっているわけでもない。違和感を覚えない人にとっては些末なこと、でもその違和感を疎外感や同調圧力と感じる人にとっては、日々心の中に「小さなささくれ」ができているようなものだ。そんな小さなささくれをとても丁寧に描くドラマがある。昨年にseason1(全10話)が、そして今期season2が放送。「作りたい女と食べたい女」だ。新たな登場人物も増えて、展開がますます楽しみになった。


運命的な出会い、「食」でつながる女たち

Web制作会社の派遣社員・野本ユキ(比嘉まな)は料理を作るのが趣味。いろいろな料理を大量に作りたくても、自身は少食で食べきれないため、ジレンマがあった。ある日、同じマンションに住む春日(西野恵未)が大量のフライドチキンを持っている姿を見かける。しかも「ひとりで食べる」と聞いて、思わず声をかけて夕食に誘う。たくさん食べて、一緒にお鍋をからっぽにしてくれる人と運命の出会いを果たしたわけだ。同じ階の一室隔てた隣に住んでいるふたりは、お互いの家を行き来して、一緒に食事を楽しむようになる。

Season1では、ルーローハン、きんちゃく多めのおでん、餃子にはらこ丼、シュトーレン風パウンドケーキにまるごとかぼちゃプリン……ひとりでは作らないがふたりなら、と料理の幅はどんどん広がっていく。食事を通してそれぞれの背景も共有し始める。優しさに触れ、好意を育みながら連帯を固めたところで終了したので、続編があるに違いないと思っていた


女の連帯から恋愛へ、丁寧に綴っていく

このドラマの特徴は、会話が丁寧で、敬語と復唱が多い。初めのうちは正直「ややまだるっこしいな」と思ったが、これもキャラクターの性格をあらわすものだと気づく。相手の気持ちや本意をおもんぱかり、丁寧に確認する。ふたりとも「人との距離感に配慮する」人なのだ。淡々と、でも慎重に言葉を選ぶふたりのやりとりが、どんどん心地よくなってきたのも事実。どんなに面白いドラマでも「この言葉はイヤだな」とか、冒頭の「女性に人気」のように脳内でひっかかる言葉がひとつやふたつはあるものだ。このふたりにはそれがない。穏やかに見守らせる空気がある。

比嘉と西野も実に適役だ。相手を思いやっているからこそ遠慮したり、自責の念に駆られたりで、すぐ謝るクセがあり、焦ると早口になってしまう野本を比嘉が繊細に演じている。また、一貫して敬語を使い、基本は無表情だが、誠実で温かみのある春日に、西野は完全になりきっている。原作の漫画にもかなり忠実だと思う。

Season2では、いよいよ連帯が恋愛へ。お互いの好意が友情ではなく恋愛へ。第22話でやっと気持ちが通じ合って、思わずもらい泣きしてしまった。個人的には「叶わぬ恋」や「悲恋」が好物だが、今回ばかりは「野本さん! 春日さん! ホントよかったね!」と目頭を拭う自分がいて、我ながら驚いた。


ふたりを支える「女の連帯の輪」

おっと、つい先走ってしまった。もらい泣きの前に、ふたりの背中を押してくれた人物たちの功績も称えなければいけない。
野本の同僚・佐山千春(森田さと)は野本の恋を応援してくれる人だ。異性愛者だが同性愛に偏見のない「アライ(Ally)」である。また、SNSで知り合ったのがyakoこと矢子やこ(ともさかりえ)。アセクシャル(他者に対して性的欲求などを抱かない、あるいは抱くことが少ないセクシュアリティ)のレズビアンであることをオープンにしているyakoは、野本の不安に真摯に耳を傾けてくれたのだ。

恋愛という意味で同性に「好き」と告白することは関係を壊す可能性がある。心地よく幸せな時間を共有していたのに、恋愛を持ち込んだ途端、離れてしまうのではないかという恐怖。そんな野本の悩みをふんわり受け止めたのがこのふたりだ。

一方、春日も野本への好意をうまく言葉にできずにいた。隣に引っ越してきたぐも世奈せな(藤吉夏鈴)が野本の恋心に気づく。南雲は小学生のときに居残り給食(食べ終えるまで許されない)を経験したせいで「会食恐怖症」を抱えており、人前で食べることができない。仕事もうまくいかず、今は職探し中だが、野本と春日の誠実かつ配慮のある接し方に心を開く。春日も南雲には自分の心の内を吐露。ということで、女の連帯、心地のよい輪が広がっているわけよ、Season2では。


当たり前の因習を打破、家族とは縁を切る

「みんなと同じ」「当たり前」「普通」の押しつけに傷ついたり、あきれたり、疲れたり、を経験した女たちが適度な距離を保ちながらも、丁寧に違和感や疑問をふっしょくしていく。無意識に無神経な大人たちへの教材にしたい内容でもある。

もちろん、食事もさらに充実。正月の残りモノであるもちは、ピザやはちみつチーズで変身。ロールキャベツに恵方巻、フォンダンショコラに夜分に作る山盛りドーナツなんて最高(うっとり)! Season1はクリスマスや正月、Season2は節分にバレンタインと食に関係のある年中行事に合わせた戦略も成功している。

全編を通して感じるのは「ジェンダーロール(性的役割)への抵抗」だ。料理を作れば「いい奥さん・いいお母さんになる」ととられ、料理は女がやるものと無意識に決めつける「空気」。家族の中に介護が必要な人が出ると、娘や妻や嫁が担うのが「当たり前」。父と息子はおかずが1品多く、食事の後片付けは母と娘で担当するのが「普通」。

特に、春日の実家が酷く、典型的な昭和脳の父親がいる。祖母の介護のために仕事をやめて帰郷を強要する。息子優先、妻と娘をこき使うのが当然と考える父親とは縁を切る決意をする春日。「絆」や「愛」をかたる「使役」「れいじゅう」「さくしゅ」には、女たちもNOをつきつけていい。「家族と縁を切ることの肯定」を描く点もドラマとして評価したい。

また、ドラマ界への注文も込められていた。野本がレズビアンの恋愛映画を観て「自分とは違う」と感じたことを話すと、yakoはこう答えた。
「テレビや映画で自分を見つけられなかったのは、そういう登場人物が全然足りてないからですよ。もっといろんなレズビアンを観たいですよね、ドラマとかでさ」

テレビドラマの根っこは異性愛かつ恋愛至上主義だが、ここ5年で変わってきた。医療モノでも刑事モノでも安易に恋愛要素を入れ込もうとすると、視聴者が許さない空気も生まれている。非恋愛傾向がある。そういえば、岸井ゆきのと高橋一生が出演した『恋せぬふたり』(NHK)という非恋愛ドラマもあったよね。

さらに男性同士の恋愛や日常も描かれるようになった。テレ東の『きのう何食べた?』やテレ朝の『おっさんずラブ』などヒット作品が代表例だ。さて、そろそろ女性同士の恋愛や日常も描くべき、というところで『つくたべ』が登場。

令和のフロンティア的作品『つくたべ』の配慮とバランスを、各局ドラマ制作陣はぜひ参考にしたうえで、「普通」「当たり前」の壁をこえるドラマを作ってほしい。

ライター・コラムニスト・イラストレーター
1972年生まれ。千葉県船橋市出身。法政大学法学部政治学科卒業。健康誌や女性誌の編集を経て、2001年よりフリーランスライターに。週刊新潮、東京新聞、プレジデントオンライン、kufuraなどで主にテレビコラムを連載・寄稿。NHKの「ドキュメント72時間」の番組紹介イラストコラム「読む72時間」(旧TwitterのX)や、「聴く72時間」(Spotify)を担当。著書に『くさらないイケメン図鑑』、『産まないことは「逃げ」ですか?』『親の介護をしないとダメですか?』、『ふがいないきょうだいに困ってる』など。テレビは1台、ハードディスク2台(全録)、BSも含めて毎クールのドラマを偏執的に視聴している。