人気漫画「作りたい女と食べたい女」(つくたべ)が全10話でドラマ化されたのは2022年のこと。
たくさんの料理を作るのが大好きだけれども少食の野本さんと、食べることが大好きな春日さんは、同じマンションの住民同士。ふとしたきっかけで知り合って交流が芽生え、おいしいごはんを通して関係を育んでいく物語です。
その中で、女性同士のゆるやかな連帯や、無意識のうちに刷り込まれている価値観なども丁寧に描かれ、大きな話題となりました。そんな「つくたべ」の続編がいよいよ1月29日(月)から始まりました。今度は全20話で、新たな友人たちも登場し、ますます世界が広がっていきます。
そこで、野本さんを演じる比嘉愛未さんに、役柄のことや、演じていて感じたことなどをお聞きしました。
――2022年放送のシーズン1は大好評でしたが、反響の声は比嘉さんにも届いていましたか?
私のインスタグラムにも、いろんなコメントが書き込まれていました。LGBTQの当事者の方々や、原作ファンの方々に「よかった」と言っていただけてうれしかったのはもちろんですが、少し安心もしました。
この作品に限らず、原作があるものはファンの思いがあります。マンガは音や動きがない分、映像化によってそれらを足すことになりますが、私たちもそのエネルギーが必要になります。だから、私たちが作ったものがみなさんにきちんと届き、受け入れていただけてよかったと感じています。
――シーズン1で野本さんを演じるにあたって、比嘉さんは彼女のキャラクターをどのようにとらえていましたか?
野本さんはすごく天真爛漫で、喜怒哀楽がしっかりしていて、とにかく真っ直ぐで純粋な人。野本さんがどうやって育ってきたかを見てみたいくらい、親からしっかり愛情をかけてもらって育ってきたはずと感じました。
仕事をしていて、料理や家事もしっかりやっていて、自立している女性でもあるので、すごく好感が持てました。
また、大きな欲を抱いているわけでもなく、ささやかな幸せを大切にしています。私も、野本さんを演じている時は顔が優しくなり、心も体も和らいでいく感じがしました。浄化される感覚もあったんです。
でも、そんな彼女でも生きづらさを抱えていて、マイノリティについて考えたり、教えてもらったりするきっかけもなかったわけですが、春日さんと出会ったことで少しずつ変わっていきます。この物語は、彼女の自分らしい生き方が始まっていく話だと私は解釈しています。
――比嘉さん自身と共通する部分や、共感できる部分はありましたか?
共感する部分はたくさんありましたね。「つくたべ」の現場で、信頼できるスタッフさんに、「私ってどんな感じ?」って聞いてみたんですよ。大人になるとなかなか自分のことを俯瞰で見れなくなりますから。そしたら、「天真爛漫」って言われました。これは野本さんと共通している部分なのかもしれません。
――続編が決定した時はどのようなお気持ちでしたか?
驚いたというよりは、「またあの世界に戻れるんだ!」とうれしい気持ちになりましたね。シーズン1が終わっても、野本さんと春日さんはあの世界線でずっと生きているような感じで、そこにすっと戻ってこられたというか。
――春日さんを演じた西野恵未さんは、本業はキーボーディストで初演技でしたね。
恵未ちゃんとの出会いは、一言でいうと感謝しかないですね。同い年だけど、畑違いで、お互い別々の人生を歩んできたにも関わらず、こうもしっくりくる人がいるんだっていうくらい。天からの恵みといっても言い過ぎではありません!
役者とかアーティストとかっていうことは関係なく、持っている感性や価値観が近かったんですね。お互いの関係も自然に深まっていき、今ではすっかり仲良くさせていただいています。
シーズン1の撮影が終わった後も、「大人のお寿司会!」といって回らないお寿司屋さんに行ったり、うちに来てご飯食べてもらったりとか。大人になると何の利害関係もない友達ができることってなかなかないので感謝しています。
恵未ちゃんは本当に真っ直ぐでピュア。初めての演技で、あれだけたくさんのお芝居をするなんてプレッシャーで押しつぶされそうになるのに、彼女は全力で楽しんでいました。
野本さんを演じていて浄化されているって言いましたけど、恵未ちゃんと会話して、お芝居をしている時も、清められていく感じがしました。仕事に慣れていくと当たり前になったり、馴れ合いになったりしがちですが、初心に返って感謝することを思い出させてもらった気もしました。
――西野さんとの出会いも含めて、「つくたべ」のお仕事は、比嘉さんにいろんなことをもたらしてくれたのですね。
自分自身の人生にも大きく影響していると思います。シーズン1では女性同士の恋愛感情について描いていますが、シーズン2では新しいキャラクターが登場し、それぞれ葛藤を抱えています。
この作品では「普通って何?」ということを提示していて、私自身も今まで生きていた中で培われた価値観や、無意識に言った言葉で相手を傷つける怖さなどについて、改めて考えるきっかけになりました。
例えば、現場で女性スタッフに「彼氏いるの?」って話しかけるのも、異性愛が当たり前と思っているからそういうことを言ってしまうわけですよね。私自身、「まだ結婚してないの?」「早くしなよ」って言われることがあって、世間一般が結婚しているから、そうしなきゃいけないというのも、そもそもはおかしいことなんですよね。
それぞれの人にオリジナリティがあって、相手を思いやることができて、はじめていい調和や関係が生まれるはずなので、私もプライベートでも気をつけなければいけないと思うようになりました。
だからといって、「誰かと会話するのが怖くなった」と萎縮するのではなく、気をつけつつも真摯に向き合うことで、ちゃんと相手とつながれるようになるということにも気づけました。
――野本さんという役柄を演じていて、マイノリティの人たちにどんなことを伝えたいと感じていますか。
何かを伝えたいと思っている時点で、意識しすぎているし、当事者の方々を特別扱いしてしまっているのではないかと思うんです。自分が発する言葉で誰かを傷つけない、ということは、相手がLGBTQの方に限らず、親子や家族、友達や恋人であってもそうだと思うんです。
この作品は、原作者、脚本家、プロデューサー、ジェンダー・セクシュアリティ考証の方など、さまざまな方々がすごく考えて作ってくださったもの。私は、どれだけナチュラルに、心を込めて表現するかだけだと思っています。そこに自分の感情が乗りすぎると押しつけになるような気がして……。
だから、自分が何かを伝えたい、と意識するのではなく、逆に、力を抜くことを意識していました。「私はこういうふうに表現してみたのだけど、よかったら受け取ってみてください」という気持ちに近かったですね。
現状、LGBTQやマイノリティの人たちに対する知識不足や偏見はまだまだあって、乗り越えなければいけない壁があります。このドラマが、「こういう人たちがいる」「こんな生き方もある」など、いろんな選択肢があることに気づくきっかけになるとうれしいですね。
ジェンダー・セクシュアリティ考証の方とは、シーズン1、2の撮影前にいろいろお話したのですが、一貫していたのは、「当事者は決して特殊ではなく、同じように生きている一人の人間です」ということ。
私も時々、「比嘉さんは俳優さんだから」と気を遣っていただけることがあります。向こうはよかれと思って特別扱いしてくださることもあるのですが、私は演技をする職業に就いているだけで、同じ人間。
セクシュアリティも職業も、形が違うだけであって、みんな同じなんだなと。みんながストレスフリーに生きられる世の中になればいいのに、と感じました。
――シーズン2の見どころについてお聞かせください。
シーズン2では、別の悩みを抱えた人たちが登場し、野本さんと春日さんの関係性も少しずつ変わりつつ、世界も広がっていきます。まずは、2人がどうなっていくかを純粋に楽しんでほしいですね。
また、登場人物たちは完璧ではないのだけど、自分の心の声を聞いて自分と向き合い、自分らしく生きようとする姿を心地よく見ていただき、何かを受け取ってもらえるとうれしいですね。
――野本さんが作る料理の数々も楽しみの一つですよね。
シーズン1では、大盛り料理や、クリスマスなどのイベントご飯などが登場しましたが、シーズン2では、日常生活で出てくるようなレシピがたくさん登場します。きっと「これ作ってみたい」「大切な人とご飯を囲みたい」と思ってもらえるはずです。
実は、仕事が忙しいこともあって撮影で作った料理を自分で作ってみたことはないのですが、絶対に作る! と思っているレシピはどんどん増えています。中でも、野本さんがホワイトソースから作るシチューは絶対作ってみたいですね。料理監修のぐっち夫婦さんが作ってくださったホワイトソースは絶品でした!
市販のルーは便利で、こういったものを使う時があってももちろんいいのですが、料理を手間暇かけて作るのもいいな、ということにも気づかせてもらえました。私も料理を楽しく作るのは大好きなので!