今冬は「6作の“ファンタジー作”と5作の“続編”が放送される」という、いわゆる連ドラの“かぶり”が起きていますが、その両方に該当するのが『正直不動産2』(NHK総合)。

前作の結果や評判を踏まえた“続編”はともかく、ファンタジー作が6作もかぶったのは、「各局のマーケティングが一致した」からであり、その意味で現在のトレンドや視聴者ニーズに近い作品と言っていいでしょう。

だからこそ2022年4月期に放送された前作『正直不動産』は、そのトレンドや視聴者ニーズを先取りしたものであり、しかも放送終了後に異例の特番『正直不動産 感謝祭』が放送されるなどの「結果や評判を得られた」いくつかのポイントがありました。

さらに『正直不動産2』もここまでの3話は、その重要なポイントが踏襲されているため、視聴者からの声はおおむねポジティブなもので占められています。

では、なぜファンタジー作は現在のトレンドであり、視聴者ニーズがあるのでしょうか。また、『正直不動産』が結果や評判を得られるポイントとは何なのでしょうか。


トレンドとニーズを2年前に先取り

まず、今なぜファンタジー作がトレンドであり、視聴者ニーズがあるのか。その答えは、主に「わかりやすくて年齢性別不問で物語に入りやすい」「ほどよい距離感で気楽に物語を見られる」の2点。

常識では考えられないファンタジーの設定によって、いい意味でリアリティがぼかされ、視聴者は主人公たちの問題をシビアに考えすぎなくて済みます。逆にリアリティを追求した作品は重苦しさを感じられやすく、「つらくて見ていられない」という人が増えました。

仕事や学校のある平日夜放送のドラマはなおのことであり、さらに制作サイドにとってはファンタジーの設定によって、「登場人物の喜怒哀楽を引き出すドラマティックなシーンを作りやすい」などのメリットもあります。

その上、『正直不動産』の成功で大きかったのは、ファンタジーの設定にひとひねりがあったこと。そのひとひねりとは、「主人公の営業マン・永瀬財地(山下智久)がほこらなどを壊してしまったことで嘘がつけない体質になってしまった」という設定ですが、これが視聴者にウケました。

一方、今冬ドラマのファンタジー設定はどうなのか、見てみましょう。

『君が心をくれたから』(フジテレビ系)は、主人公が最愛の人を救うことと引き替えに五感を失っていく。『Eye Love You』(TBS系)は、心の声が聞こえるテレパスの恋を描く。『婚活1000本ノック』(フジテレビ系)は、幽霊となったクズ男が主人公の恋をサポートする。

『めぐる未来』(読売テレビ・日本テレビ系)は、主人公が感情の起伏が激しくなるとタイムリープする。『不適切にもほどがある』(TBS系)は、昭和のおじさんが令和にタイムリープする。

テレパス、幽霊、タイムリープは昭和の時代からファンタジー設定の定番であり、当時からほとんど変わっておらず目新しさに欠けるきらいがあります。また、『君が心をくれたから』の五感を失うというファンタジー設定は新鮮な一方、つらいシーンの連続で「あまりに重すぎて見ていられない」という声が続出。

つまり、鮮度があって重さがないファンタジー作は『正直不動産』だけであり、この原作漫画を実写化し、2年前に放送していた制作サイドの仕事が素晴らしかったのです。


正直と嘘の2面でエンタメ度アップ

それでも「不動産業界が舞台の物語」と聞けば、堅苦しいイメージを持つ人も少なくないでしょう。実際、民放ドラマで不動産業界が舞台の物語は少なく、それは「視聴者を選んでしまう舞台設定で視聴率や配信再生数が獲れない」と思われているからです。

しかし、『正直不動産』は、“正直”と“嘘”の2面を見せることでエンタメ度を飛躍的にアップ。まず嘘を織り交ぜて契約を獲るイケイケの営業マンだった永瀬が、本音しか言えなくなったことで客を怒らせ、契約寸前の案件を台なしにするシーンに笑いを誘われます。

さらに永瀬の正直すぎる言葉は、「千のうち真実は三つしかない」とも言われる不動産業界の本質をあぶり出し、視聴者の知識欲をほどよく刺激します。

また、永瀬が勤務する登坂不動産には、カスタマーファーストのピュアな後輩・月下咲良(福原遥)もいて、顧客に寄り添おうとする姿勢で視聴者の共感を獲得。一方で狡猾な手段を駆使するライバル会社・ミネルヴァ不動産の営業アプローチもあります。

週替わりでピックアップされる物件の長所や短所をさまざまな角度からフィーチャーすることで、「不動産業界が丸裸にされていく」ようなイメージと言ってもいいかもしれません。

実際、当作を見て「だからあのとき不動産の営業マンはこんなことを言っていたのか」と自分の経験に照らし合わせる人もいるのではないでしょうか。

23日放送の第3話「もしもピアノが置けたなら」では、3軒ならんだ狭小住宅の真ん中に住む夫婦が「娘のためにピアノが置ける広い家を買おうとして自宅の売却を希望する」というエピソードが描かれました。

永瀬は狭小住宅の短所を「激狭、激細の何か鉛筆が立ってるみたいって感じのペンシルハウス」「三区画のド真ん中。窓を開けるとすぐ隣の家の壁。ベランダは北側で日当たりはすこぶる最悪」と正直に斬り捨ててしまい、案の定、夫婦は激怒。しかし、代わりに担当を務めた月下も買い手を見つけられずに苦戦していました。

一方、ミネルヴァ不動産の花澤(倉科カナ)は、夫婦げんかにつけ込む形で、大幅に値下げさせた上で買い取りを申し出る……という流れで物語は進行。最後は永瀬いわく、「カスタマーファーストを押し切る飛びきりのウルトラC」で見事な着地を見せました。


3つの魅力と美男美女の集合

狭小住宅に住み、ケンカばかりだった夫婦が最後は仲直りし、子どもが望む結果になったように、じんわり感動できる家族ドラマとしての見応えもポイントの1つ。

毎週、こだわりのある顧客、ワケあり夫婦、クセのある大家など、さまざまな人物が登場しますが、不動産の売買を通して家族が問題を乗り越え、前へ進んでいく様子を描いて視聴満足につなげています。

言わば『正直不動産』は、クスッと笑えて、ほどよく勉強になって、心にじんわりくる。3つの魅力がある作品と言っていいのでしょう。

そして最後にもう1つ、『正直不動産2』ならではのポイントを挙げておきましょう。

男性俳優では、山下智久(38歳)、市原隼人(36歳)、ディーン・フジオカ(43歳)、板垣瑞生(23歳)、高橋克典(59歳)、草刈正雄(71歳)。女性俳優では、福原遥(25歳)、倉科カナ(36歳)、泉里香(35歳)、松本若菜(39歳)、大地真央(67歳)。

毎クール約40作もの連ドラが放送される中、これほど幅広い年代のメジャーな美男美女俳優をそろえた作品はめったに見られません。しかもビジネスシーンを描いた作品は、「美男美女をそろえるほど嘘っぽくなってしまう」と言われているだけに、リアリティを感じさせられるのは、まさに脚本・演出の力によるものです。

ここまで挙げてきたようにさまざまな点で『正直不動産2』は、今冬ドラマの中で最も安定して楽しませてくれる高品質なエンタメ作であることは間違いないでしょう。

コラムニスト、テレビ・ドラマ解説者、タレント専門インタビュアー。雑誌やウェブに月20本以上のコラムを提供するほか、『週刊フジテレビ批評』『どーも、NHK』などに出演。各局の番組に情報提供も行い、取材歴2000人超のタレント専門インタビュアーでもある。全国放送のドラマは毎クール全作品を視聴。著書に『トップ・インタビュアーの「聴き技」84』など。