私が中学1年の秋のこと。標高600メートルの山間にある我がふるさとでは、平野部よりも一足早い稲刈りが始まっていた。まさに季節先取りの風物詩。県内でも稲刈りが早いことでよくニュースで取り上げられた。

その年、我が家にやって来たのは、NHK山口放送局の記者の方。当時はフィルム映写機片手に自分で回して撮る時代。カットを決めて慎重に慎重に撮影していく。何せフィルム一巻はわずか3分、ウルトラマンのカラータイマーほどしかないのだから。

さて被写体に選ばれたのは父や兄ではなくこの私。これには訳があるのだがそれは後ほど。山間部の狭い田んぼでの稲刈りには大きな農機具は使えない。お分かりいただけますでしょうか、「一条刈りのバインダー」。実った稲を一列ずつ刈り取って束にする機械。車輪の前、地面すれすれのところに刃が付いている。

今は刈って脱穀までしてくれるコンバインが主流だが、あのころの山間部の農家にとってはもってこい、稲刈りの負担が大いに減るともてはやされた。カメラの先には、いがぐり頭に丸い顔、Tシャツ姿の小学生のような中学生の私。バインダーをうまく操り、撮影はなんとか無事終了。

なぜ私だったのか。春先、自宅前の川であゆの放流が行われ、このときもニュース撮影があった。近所のお兄ちゃんたちに交じって私も兄と一緒に、橋の上から放流を眺める一人として参加。そこで私は果敢にもカメラに近寄り場所を確保、ここならバッチリ映ると得意満面。ところがいざニュースの放送を見てみると映っていない! こんなはずではなかった。どうもカメラに近づき過ぎたうえに、背が低くてカメラの画角に入らなかった模様。画角まで考えが至らなかった。被写体になったのは兄たちだった……。落ち込んだ。

そんなことがあり、父と兄が気を利かせて、私が被写体になったという訳。おかげで稲刈りのニュースではしっかりと映っていた。そのときの中学生が、映される方から映す側の仕事に就こうとは。不思議なものである。

(やまもと・てつや 第5水・木・金曜担当)

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