13日、『第74回NHK紅白歌合戦』の出場歌手が発表され、一斉にメディアが報じました。
「紅白歌手発表 旧ジャニ出場はゼロ」「紅白SMILE-UP.出演ゼロの背景」「旧ジャニゼロ K-POP台頭」などの記事が続けてYahoo!トップに掲載されたように、メディアの注目はSMILE-UP.の所属タレントに集中。確かに1979年以来44年ぶりの「ゼロ」だけに話題が偏りやすいのでしょう。
しかし、近年SMILE-UP.の出演者は5~6組で、全出場者の10分の1程度に過ぎなかったのも事実。「ゼロ」は彼らのファンにとっての重大事であって、「本質的な焦点は別のところにある」と考えるのが自然です。
13日に発表された男女44組の顔ぶれを見ていくと、今年の『紅白歌合戦』が何を求められ、何が成否を左右しそうなのかが浮かび上がってきます。
白組初出場者は「バランス重視」
現時点での出場者は、紅白・各22組(五十音順、数字は出場回数)。
あいみょん(5)、新しい学校のリーダーズ(初)、Ado(初)、ano(初)、石川さゆり(46)、伊藤 蘭(初)、坂本冬美(35)、櫻坂46(3)、椎名林檎(8)、JUJU(2)、Superfly(7)、天童よしみ(28)、NiziU(4)、乃木坂46(9)、Perfume(16)、MISIA(8)、MISAMO(初)、水森かおり(21)、milet(4)、YOASOBI(3)、緑黄色社会(2)、LE SSERAFIM(2)
エレファントカシマシ(2)、大泉 洋(初)、Official髭男dism(4)、キタニタツヤ(初)、郷ひろみ(36)、さだまさし(22)、JO1(2)、純烈(6)、鈴木雅之(6)、すとぷり(初)、Stray Kids(初)、SEVENTEEN(初)、10-FEET(初)、BE:FIRST(2)、福山雅治(16)、藤井フミヤ(6)、星野 源(9)、MAN WITH A MISSION(初)、Mrs. GREEN APPLE(初)、三山ひろし(9)、山内惠介(9)、ゆず(14)
SMILE-UP.の所属タレントが抜けた以外は、ほぼいつも通りで白組初出場の7組がそのまま代わりを務めるような形になりました。その白組初出場は、キタニタツヤ、すとぷり、Stray Kids、SEVENTEEN、10-FEET、MAN WITH A MISSION、Mrs. GREEN APPLEと、「アニメや動画、K-POP、バンドからバランスよく選ぼう」という意図が見て取れます。
今年の活躍、世論の支持、番組の企画・演出という3つの選出意図も例年通りだけに、「今年の『紅白歌合戦』は近年の延長線上にあり、変えないことを選んだ」と言っていいのではないでしょうか。
しかし、「“SMILE-UP.の出場ゼロ”を重大事と受け止めず、近年の流れを踏襲したほうが支持を得られるのではないか」という判断が正しいかどうかは放送終了後までわかりません。
「歌唱力で魅了してほしい」の声
ただ少なくとも、この1か月あまりネット上では、“SMILE-UP.の出場ゼロ”を「『紅白歌合戦』の転換期」、または「大きく変えるチャンス」という声があがり続けていました。
なかでも目立っていたのは、「ジャニーズがいなくなれば実力勝負になり、本物のアーティストがテレビに出れる」「NHKは視聴率気にせず楽しく歌唱力で魅せてほしい」「本当の“歌合戦”に戻すようなメンバーを選んでほしい」などと歌で魅了することを望むような声。
しかし、13日の発表後には、「本当に歌がうまい人を集めるチャンスだったのに」「せっかくの大改革するチャンスをみすみす逃してしまった」「紅白は、テレビ見ない20代ターゲットを考えすぎ」などと落胆する声が少なくありませんでした。
それでも、まだ当日まで1か月半以上もの十分な時間があります。“SMILE-UP.の出場ゼロ”をきっかけに『紅白歌合戦』への思いに火が付いた人々に応えるべく、制作サイドに問われているのは、主に以下の3点。
1つ目は、出場者に「今年一番のライブパフォーマンスを見せてもらう」ことをうながし、それを引き出す演出を作り出せるか。ネットの普及によって実は若年層も本物志向が高まっているだけに、生歌はもちろん、楽曲のアレンジ、衣装とセットなどさまざまな点で、笑いに走らないガチンコの世界観を貫くほうが支持を集められそうです。
2つ目は、視聴者に向けて「原点回帰で“歌合戦”にこだわる」という姿勢を伝え、例年不評のバラエティ的な演出を減らせるか。今回のテーマは、「ボーダレス 超えてつながる大みそか」ですが、「原点回帰で“歌合戦”にこだわる」という追加テーマを掲げるくらいの柔軟性を見せてほしいところです。
3つ目は、昨年も8組が発表された“追加出場者”のキャスティングを進め、できれば“特別企画”ではなく紅組・白組に入れて“歌合戦”のムードを高められるか。若年層の間で昭和・平成初期の音楽が流行り続けているだけに、彼らが好む当時の歌手を“歌合戦”に参加させられたら、旬の若手アーティストと同等以上のインパクトがあるでしょう。
今年の大みそかはライブ配信が増える
SMILE-UP.のSnow Manが大みそかにYouTubeで「Snow Man Special Live~みんなと楽しむ大晦日!~」の生配信を行うことを明かしました。『紅白歌合戦』から外されたことが悔しい彼らのファンたちは、配信再生はもちろん、意地でもXのトレンド1位を狙ってくるでしょう。
その他でも新型コロナの5類移行によって、音楽に限らず大みそかのライブやイベントが活発に行われることが予想されています。その中にはSnow Manのように配信で行われるものも多く、「それらをスマートテレビで再生されて『紅白歌合戦』の放送が見てもらえない」という可能性がこれまで以上に高まるでしょう。
だからこそNHKと『紅白歌合戦』の関係者には、視聴率にこだわりすぎず、見た人の満足感を優先させてほしいところ。数年前に民放各局の取り引き現場で使われなくなった世帯視聴率を報じるメディアにも問題はありますが、NHKや『紅白歌合戦』自身が「世帯視聴率は追わない」「別の基準で成否を判断する」ことを表明したほうがいい時期に入っているように見えるのです。
現代の視聴者嗜好を考えると目指すべきは、「1人でも多くの人々に見てもらうより、1人でも多くの人々に満足してもらう」こと。あるいは、「メディアに『世帯視聴率が下がった』と書かれても気にせず、ネット上で『今年の紅白は凄かった』と言われる」ことではないでしょうか。
最後に話を“SMILE-UP.の出場ゼロ”に戻すと、この点でNHKはファン以外の人々からおおむね支持を得ています。9月27日の定例会見で語られた「新規出演依頼は、被害者補償と再発防止の取り組みが着実に行われると確認されるまでは行わない」「それは『NHK紅白歌合戦』にも該当し、このままでは起用ゼロになる」という姿勢はブレませんでした。
民放各局がなし崩し的に新規契約をはじめる中、NHKの毅然とした対応が称えられているだけに、次は前述したような視聴者の声に応えていけるのか。視聴率を気にしすぎず、視聴者の満足度を高められるのか。追加発表を筆頭に、当日までその話題であれこれ言いながら過ごせることも『紅白歌合戦』の強みなのでしょう。
コラムニスト、テレビ・ドラマ解説者、タレント専門インタビュアー。雑誌やウェブに月20本以上のコラムを提供するほか、『週刊フジテレビ批評』『どーも、NHK』などに出演。各局の番組に情報提供も行い、取材歴2000人超のタレント専門インタビュアーでもある。全国放送のドラマは毎クール全作品を視聴。著書に『トップ・インタビュアーの「聴き技」84』など。