「さすり座の男と称し妻の背を擦りて紡ぐ老いの絆を」
「亡き母に尽くしきれたか悔いがあり我還暦の介護士めざす」 (2022年度入選作品より)
「新・介護百人一首」は介護にまつわるさまざまな思いを詠んだ短歌を募集し、入選作100首を選定。その年ごとに、作品集を作ったり、放送で紹介したりする取り組みで、3年前からNHK財団が行っています。このステラnetのページを下の方にスクロールすると、昨年度の入選作品が毎週2首ずつ紹介されています。
日本の介護人口は2021年6月時点で686万人余り(厚生労働省統計)。この方々の周りには、介護するご家族、専門職のみなさんがいらっしゃることを考えると、本当に多くの方が介護する側、される側として暮らしていることがわかります。
介護に向き合う方々が、「新・介護百人一首」を通じて、同じ境遇にある人を知り、励まされたり、エールを送ったり、ときにはホッさせられたり…そんなひと時を共有しあう時間に、この三十一文字がなれたら……、と思います。
あたたかな空気に包まれた“選考会”
10月の終わり、今年も4人の歌人の先生方にお集まりいただき、今年度2023年度の最終選考会が行われました。
3年目の今年はこれまでで最も多い、6千800人余りの方から1万4,196首が、全国から寄せられました。
募集はWebでも行っていましたが、圧倒的に郵送でくださる方が多く、実は今年、応募用紙を増刷したほどです。10代、20代の方から最高齢は103歳の方まで、幅広い年代の方々からいただきました。
介護する側、される側の日常の思い、また、これから介護職に就こうとして学んでいる学生さんたちの真剣なまなざしなど、みずみずしい感動がつづられていました。
ご応募いただいた短歌は、4人の先生方によってこの日までに、224首にまで絞られました。しかし、これは「百人一首」です。お一人、一首ずつ、百首を選ばなければなりません。
最終選考は、一首ずつ「音にして」味わいながら進められます。
ナレーターの、まるものぞみさんが詠み上げると、それまで「文字」という平面で理解していた歌が、一つの光景となって立ち現れます。
この日は選者の先生方と事務局で、その空気も味わいながら、歌となった情景を想像し、作者の想いを読み解いていきました。
さらに歌の背景を理解するために、ご本人への確認事項を検討したり、短歌としての完成度が高まるようなアドバイスをいただいたり……。先生方、お一人お一人がその歌の世界を大切に愛しんでくださるのが伝わる選考会となりました。
選考会を終えて、4人の先生方からは、
「若い方たちが、このように熱心に取り組んでいただいていることが、高齢化社会への生きる希望となっていると感じました」
「選考を通じて、若い方と高齢の方との接点があることを知り、お互いを思い合う優しい気持ちが伝わりました。素晴らしい作品がたくさんあって、惜しくも入選を逃した作品も多くあるので、来年もぜひ応募していただけたら嬉しいです」
などのコメントをいただきました。
2023年の入選作品は、11月末(または12月のはじめ)に、NHK財団ホームページの「新・介護百人一首」のページ上で発表の予定です。
また、3月ごろには一冊の作品集にして、ご希望の皆さまにお分けできることになっています(送料はご負担ください)。
3月になりましたら「新・介護百人一首」のページをご確認ください。
(なお、2022年の作品集の配付については、同ページの下の方にある「新・介護百人一首2022 作品集 お申し込み方法」をご確認ください。)
また、2024年度の応募は例年ですと4月から9月に行います。
始まりましたらサイト上に掲載しますので、そちらも是非、ご覧ください。
最後に、2022年度の入選最高齢、96歳の方の歌をご紹介します。
天命は百二十歳かも「子供らよ」同じ施設で仲良く暮らそ
私は無病息災で九十路ですが全く他界する気はしません。百二十歳まで生きてギネスブックに登載されるかもと子供達は言います。子供たちと一緒に此の施設で一生を終えるかも、そう願っています。
介護にまつわる様々な思いを、あなたも是非、三十一文字にしてみてください。来年も、お待ちしています。
佐々木佐知子(NHK財団)