ショパンはあのショパンです。ピアノの詩人。そのショパンと真夏? すぐには結び付かないですよね。真夏と言っても夜であるところがミソなのですが、特に深い意味はありません。私がショパンを本格的に聴き始めたのが真夏、それも夜によく聴いていた、というだけのことです。今月はそんなお話。

小学6年生からクラシックを聴き始めましたが、実のところショパンはなかなか馴染なじめませんでした。きっと華麗なオーケストラ作品の方が少年の心には響いたのでしょう。そんな私がショパンの魅力に目覚めたのは大学生になってから。理由は不明です。とにかく夏休みに帰省した際、実家でショパンを繰り返し聴いていたことは覚えています。まさに真夏。それも夜。ヴォリュームを少し落として毎晩のように聴いていました。

真夏の夜のショパン。手当たり次第に聴いた中で夜に一番ぴったりだったのは、文字通り『夜想曲』でした。これがいいのです。時には部屋のあかりを消して、ほの暗い中で聴く『夜想曲』の数々。有名なのはアメリカ 映画『愛情物語』にも使われた第2番ですが、その他にも、夜に咲く花のような優美極まりない第8番、劇的な盛り上がりを見せる第13番、繊細な音の運びが夢のように美しい第17番など、ショパンの『夜想曲』は名作ぞろいであることを知りました。音量を抑えていたせいもあって、自分とショパンの音楽だけがそこにある、とても親密な時間でした。

部屋にエアコンがなかったので、夜は窓を開けて外の風を入れていました。まだ周りに田んぼがあったせいか吹く風は涼しかったのですが、カエルの盛大な合唱もおまけについてきました。ショパンの音楽にカエルの大合唱。よく聴いていられたと思いますが、それだけ音楽に没入していたのでしょう。

今では年中いつでもショパンを聴いています。もうカエルの大合唱もありません。でもショパンを聴くたびにあのころのことを思い出し、やっぱりショパンは真夏の夜に限る、と勝手に思っている私です。

(まつい・はるのぶ第1・3月曜担当)

この記事は、月刊誌『ラジオ深夜便』2023年9月号に掲載されたものです。
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