スマホがあれば、誰でも簡単に情報発信できる時代。
「そうした個人的な情報発信とは一線を画して、地域を応援する『公共』を意識した放送局を作りたい」
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そんな熱い思いを込めて、東京・世田谷の用賀商店街に私設放送局が開局しました。その名も「YPB・ようが公共放送局」(YouTubeチャンネル【ようが公共放送局】で配信)。先月には活動報告を兼ねたシンポジウムを開催、開局して半年の成果を公表しました。
地域の知恵と力で「街の未来」を拓こうとする用賀商店街の取り組みをご紹介します。
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◎開局記念シンポジウム
9月29日、「ようが公共放送局」の開局を記念するシンポジウムが開かれました。会場の商店街事務所には、用賀商店街振興組合の小林弘忠理事長を始め、活動を支援する駒澤大学経済学部の松本典子教授と学生、市民のまちづくりを応援する都市計画・デザイン事務所の千葉晋也代表取締役など、およそ30人が集まりました。
「皆さん、いよいよ、この日を迎えました。半年の活動の成果を振り返り、今後につなげる節目にしましょう」
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YPB開局の仕掛け人で、進行役を務める振興組合の杉本浩一副理事長(写真右)が、高らかに開会を宣言。大きな拍手の中、小林理事長が挨拶に立ちました。
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「商店街が放送局を持つことには大きな意味があると思っています。私たちの視点で、地域に役に立つ情報を出していく。そのことを、皆さんの力をお借りしながら丁寧に進めていきたい」と熱く語りました。
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◎東京都の支援事業に認定
「私たちの商店街に放送局を作りたいんです」
そんな相談が杉本副理事長からNHK財団に寄せられたのは、2022年夏のこと。
商店街が地域のハブ役になって、高齢化や防災など、地域の課題を克服し、発展させていく。そのために、用賀の未来のありようを考える「シンクタンク=ようがみらい研究所」と、地域に必要な情報を取材し、動画でネット配信する「放送局=YPB・ようが公共放送局」の機能を持ちたい、というプランでした。
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杉本さんは、そうした構想を10枚のリポートにまとめ、東京都が呼びかける「未来を創る商店街支援事業」に応募。審査の結果、去年10月、都内の4つの商店街と共に企画が採択されました。事業の規模や内容に応じた補助金を受けられることになったのです。
◎地域のサポーターが集結
今回のプロジェクトには、私たちNHK財団もサポーターとして関わっています。放送の現場で培ってきたスキルやノウハウを提供し、やがて杉本さんたちが独り立ちできるようにアドバイスします。私たちの他にも、市民の「まちづくり活動」の支援を数多く手がけてきた石塚計画デザイン事務所のメンバーや、世田谷のNPOを研究対象にフィールドワークを重ねている駒澤大学経済学部の松本典子教授もサポートに加わっています。
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◎この半年間に取り組んできたこと
シンポジウムでは、前半の時間を使って、これまでの活動が報告されました。
◇今年4月、杉本さんをコメンテーターに、商店街にゆかりの人や学生をゲストに迎え、YPBを身近に感じてもらうトーク番組の配信を始めたこと。
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◇毎回の番組を通して、用賀という街の楽しみ方や、防災、医療、歴史など、暮らしに関わる情報を幅広く発信し始めたこと。
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◇活動を支える石塚計画デザイン事務所やNHK財団のサポーターが講師になり、地域の皆さんに役立つミニ講座「傾聴力を身に付ける」「番組構成を知る」「ファシリテーションのコツ」「コミュニケーション・表情」「コミュニケーション・発音発声」を開講し、番組としても配信を始めたこと。
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◇ミニ講座をPRするTikTok風ショートムービーを、駒澤大学の学生が自分たちで演出を考え、出演し、制作したこと。
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◇用賀の街を新しくデザインしていくために、夏まつりの会場を訪れた人に「用賀らしさを感じる色」についてアンケートしたところ、「水色」という回答が多かったこと。
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こうした報告は、松本教授のゼミに所属する学生が担当しました。活動への参加を通じて、地域との関わりを深め、実践的な社会経験を積む狙いがあります。
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◎「防災」は最重要テーマ
シンポジウムの後半は、地域防災をテーマにした公開インタビューです。ゲストは、用賀で材木商を営む長谷川聡さん。長谷川さんは、商店街振興組合の副理事長を務める傍ら、地域の消防団である玉川消防団第11分団に所属し、副分団長の重責に就いています。そんな長谷川さんに、地域の防災上の課題を聞きました。
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◇地域の安全を守るのは住民のつとめ
30歳の時、会社勤めを終えて家業を継いだ長谷川さんは、「商店街の青年団に籍を置く以上、消防団に加わることは必然だった」と言います。「地域の安全を守るのは、住民の大切なつとめであり、地域で暮らす以上、住民は防災上の責任を負っている」というのが長谷川さんのスタンスです。
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◇この街は危機感が低い
用賀は、比較的、道幅が広く、区画も整っていることや、手入れされた住宅が多いことなどから、住民の意識は「大雨や地震に見舞われても、多分、大丈夫」という「不確かな安心感」が支配的だと長谷川さんは考えています。「そうした防災意識の低さは、いざという時、適切な行動が取れないことに直結する」と長谷川さんは危惧しています。
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◇商店街は地域の備蓄倉庫
大規模災害が起きたとき、ライフラインや物流が途絶え、被災地は、電気や水、食料や生活用品に困ることになります。「そんな時、商店街には、食料や医薬品、衣料品など、さまざまなものを提供できるポテンシャルがある。個々の商店が持っている商品を、災害時にどう提供できるか、ルール作りはこれからだが、商店街の存在意義は大きい」と長谷川さんは言います。
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◇人のつながりを回復させていく
「一番の問題は、住民同士の連携。新しく用賀に移り住んできた住民も多く、顔の見える関係になっていない。いざという時、頼りになるのは、助け合い、励まし合うことが出来る人間関係。そうした人のつながりを回復させていくために、商店街は日頃の商売はもちろん、お祭りなどの機会を通じて、出会いの機会を作り、積極的に顔見知りになろうと努力することが大切。これは愚直にやっていくしかない」
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長年、商店街で人間関係を育み、消防団に所属して献身的な活動を続けてきた長谷川さんならではの指摘と提言は、シンポジウムの会場に集まった人たちの心に深く響いたようでした。
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◎YPBが目指すもの
シンポジウムで半年間の活動を総括したYPBは、これから地域の放送局としての活動を本格化させていきます。毎週のトーク番組を始め、商店街の活性化に役立つ情報や、用賀の街のブランドイメージを高める情報発信、街の歴史に光を当てるインタビューシリーズなど、YPBの仕掛け人=杉本浩一副理事長の構想は膨らみ続けています。
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「やりたいこと、やらなければいけないことがたくさんあって、とても大変です。ですが、商店街に放送局を立ち上げたことの原点を忘れず、地域の未来に資する情報を集め、丁寧に届けていきたいと思っています。今、頑張ることが、用賀の未来を拓くことに、きっと繋がると信じています」
YPB=ようが公共放送局。その活動を支えるシンクタンク=ようがみらい研究所。東京・世田谷の商店街で産声を上げたプロジェクトは、確かな歩みを進めようとしています。
(文責:星野豊/ NHK財団 社会貢献事業本部・ことばコミュニケーションセンター)
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