「日本賞」は教育番組の質の向上を図り、国際的な理解と協力を深めるためにNHKが1965年に創設した教育コンテンツの国際コンクールで、今年、記念すべき第50回を数えます。本格的なドキュメンタリーやドラマ、アニメーションや幼児番組など、幅広い世代に向けた高品質な作品揃いで、そのときどきの時代性や社会課題なども色濃く反映している、世界でも類を見ないコンクールです。
来月11月20日(月)~23日(木・祝)に東京・原宿で開催される「第50回日本賞映像祭」では、受賞作品を作ったディレクターやプロデューサー8組が来日し、会場の観客とともに受賞作品について語りあう上映会とディスカッションを行います。事前登録すれば、無料で参加できます(但し、参加は16歳以上の方に限ります)
11月の映像祭に先立ち、10月3日に今年の受賞作品8本が発表されました。そこで、注目番組4本をご紹介します。
■第50回日本賞の受賞作品は?
今年は世界55の国と地域から、391本もの作品が寄せられました。コンクールの審査は、対象年齢別に4つの部門に分かれており、各部門の最優秀賞と優秀賞に以下の作品が選ばれました。最優秀賞4本の中から「グランプリ日本賞」が選ばれ、映像祭の最終日〔11月23日(木・祝)〕に行われる授賞式で発表されます。
■日本初上映、イギリスBBCの大ヒットアニメ「スメッドさん一家とスムーさん一家」
幼児向け部門最優秀賞に選ばれた「スメッドさん一家とスムーさん一家」は、イギリス公共放送BBCで昨年のクリスマスに放送され、36%という驚異的な視聴占有率(Viewing share)を記録した大ヒットアニメ。舞台ははるか遠くの惑星。ジャネットとビルはワーピュラーの森で出会い、恋に落ちました。しかし、二人の家族、スメッド家とスムー家は結婚に大反対。果たして両家は互いの違いを乗り越えることができるのか……?
エンターテインメントを通して、幼い子どもたちに多様性を尊重することの大切さを伝える作品です。本番組のみどころは、ぬくもりを感じる色鮮やかなキャラクターたち。上映会ではアニメーションのディレクターに、立体キャラクター造形の秘密や、ヒットを生み出す秘訣を尋ねます。
■スイスのアニメーション監督が描くロードムービー「小石の丘」
児童向け部門の最優秀賞に輝いたのは、ショートアニメーションの分野で数々の賞を受賞してきたスイスのアニメーション監督マージョレーヌ・ペレトンさんのアニメーション作品。
トガリネズミの一家が小川のほとりで暮らしています。ところがある日、激しい雨で村一帯が流されてしまいました。一家は同じく家を失ったおじいさんトガリネズミと一緒に、冬になる前に新しい家を見つけようと旅に出ることに――。
この物語には戦争や環境破壊によって住まいを失い、難民となった人々に心を寄せて欲しいというペレトン監督の願いが込められています。安住の地を求める家族の苦難を、どうしたら子どもたちに分かってもらえるだろうと考えあぐねた結果、「ロードムービー」という手法を思いついたと言います。今年もヨーロッパ各地で洪水が発生し、多くの人々が家を失いました。上映会では、戦争や環境について、どうすればお説教的にならずに子どもたちの好奇心を引き出すことができるのか? など教育とエンターテインメントのバランスについて話し合う予定です。
■ノルウェーのティーン向けドラマ「ライク♡ミー 二度目のチャンス」
青少年向け部門の最優秀賞に輝いたのはノルウェー公共放送NRKが制作したティーン向けのドラマです。初めてセックスをした16歳のソフィーとレオが、再び会うことになるエピソードが受賞作に選ばれました。若者たちのモテたいという気持ちや、相手に好かれようと葛藤する姿が痛々しいほどリアルに描かれています。
脚本と監督を務めたアンネ・ウィスロフさんは「若いうちは誰もが同じような不安を抱えている。悩んでいるのはあなた一人ではないよというメッセージを伝えたかった」と言います。上映会後のディスカッションでは、ノルウェーの学校における性教育の現状を尋ね、ティーン向けドラマの中でセックスを描く際に注意すべき点などについて話し合う予定です。
■イスラエルで議論を巻き起こしたドキュメンタリー「トゥー・キッズ・ア・デイ」
一般向け部門の最優秀賞に輝いたのは、イスラエルの監督デイビッド・ワックスマンさんが制作したドキュメンタリー作品です。舞台は中東のヨルダン川西岸地区。パレスチナ人が暮らす町を、ユダヤ人入植地が取り囲んでいます。ワックスマン監督によれば、ここでは毎年700人、つまり一日に平均して二人のパレスチナ人の子どもがイスラエル軍に逮捕されています。この数字が作品のタイトル「トゥー・キッズ・ア・デイ」の由来となっています。
作品に登場する4人の少年は、イスラエルの兵士に石を投げた罪で長期間拘留されました。「イスラエル軍による少年たちの逮捕と拘留の背景には、ユダヤ人入植に対するパレスチナ人コミュニティーの反抗心を砕く狙いがある」とワックスマン監督。イスラエル人監督によるイスラエル軍に対する勇気ある告発は、現地でも大きな議論を巻き起こしました。この作品に対するイスラエル人の評価や政府の反応は? なぜこの作品を作りたいと思ったのか? 上映会では、ワックスマン監督にこれらについてお話いただく予定です。
各部門の最優秀賞、優秀賞、特別賞、ファイナリスト作品のダイジェスト動画が日本賞公式ホームページで見られます(ステラnetを離れます)。
「第50回日本賞映像祭」では他にも、半世紀におよぶ日本賞の歩みを振り返り、教育コンテンツの未来について世界各地の制作者が議論する「第50回記念セッション」や、企画部門のファイナリストたちによる最終審査会なども開催します。日本ではなかなか観ることができない貴重な作品を観て、制作者の言葉に触れてみませんか。
※映像祭の内容やスケジュールは、予告なしに変更となる可能性があります。最新情報は日本賞公式ホームページでご確認ください。
日本賞事務局