銭湯の壁に絵を描く「銭湯ペンキ絵師」は、現在日本に3人。田中みずきさん(40歳)は最年少の絵師です。銭湯のペンキ絵に魅せられた田中さんが、制作過程や絵に込める思いを語ります。
聞き手/石澤典夫
この記事は、月刊誌『ラジオ深夜便』2023年11月号(10/18発売)より抜粋して紹介しています。


一筋縄ではいかない「青空を描く」修業

――銭湯でのペンキ絵はいつ描くんですか?

田中 銭湯がお休みの日に、一日ですべてを仕上げています。朝8時ぐらいに現場に伺って、夜7時には片づけて帰れたらと思うんですが、それ以上かかることも。独立したばかりのころは真夜中まで描いていたりしました。

使うペンキは赤・青・黄・白の4色だけ。他の色はこれらを混ぜて作るんです。また、油絵ですと下に塗った色が透けるのも味わいになりますが、ペンキは透けることが許されないので。

――許されない?

田中 古い絵の上に新しい絵を重ね描きしますから、むらになったり隙間が空いたりしてはいけないんです。また、ペンキ絵は天井から床に向かって描きます。もし青空のペンキが下に垂れても、そこに雲を描けば絵が直せますよね。一日で完成するように効率よく描くことが大切なんです。

――では最初の一手で、すでに絵のイメージがある?

田中 はい。全体の完成図は頭の中にあります。下絵なしで、一気に描いていきます。

――その勘をつかむのに時間がかかるわけですね。

田中 塗り方もそうですが、銭湯の個性に合ったペンキ絵を考えることや、現場での見方も学んでいきました。

――見方というのは?

田中 壁面が横長だったら、きれいな水平線を描いたら映えるだろうなとか、正方形に近かったら、 上下に目を動かして見ていただける図案にしようとか。体で空間を把握していくんです。そのうちに自分の中で絵を組み立てられるようになりました。
※この記事は 2023年7月27日放送「銭湯ペンキ絵~Not アート、BUT Paint」を再構成したものです。

続きは月刊誌『ラジオ深夜便』11月号をご覧ください。

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