シリーズ横溝正史短編集Ⅲ 池松壮亮×金田一耕助3
「女の決闘」「こうもりなめくじ」「女怪」

3/12(土)までNHKオンデマンドで配信中!(2/26(土)初回放送)

このシリーズでは、毎回、3人の監督がそれぞれ作品を担当。作品ごとに全く異なる演出で描かれる金田一像を見比べるのも、楽しみのひとつとなっている。今回は、その宇野ます、佐藤佐吉、渋江修平の3監督が集合! 主演の池松壮亮とともに、新作3本の見どころについて語り合った。

今回も、もちろん全員自信作です!

池松 今回もまた“濃い”3作 になりましたね。3作品とも、挑戦しがいがありました。濃すぎて、「こんなの金田一じゃない」って、ファンが離れてしまったらどうしようかと……。
宇野 いやいや、それはないでしょう。確かに、シリーズ第3弾にして、これまでとは違う金田一像が現れてきたと思うけど。 当然いい意味でだし、池松くんの現場での“座長”ぶりも、それは堂々たるものでしたよ。
佐藤 僕も、今回がいちばん、「池松くんと一緒に仕事した!」という感触があるなあ。こちらがお願いするムチャぶり以上に、池松くんからの「こうしましょ う」「こうやりたい」という提案がいちいちドンピシャで。「女怪」でのダンスシーンも、池松くんからのアイデアで、グッとよくなったしね。
渋江 そうだ、またしても、金田一、踊ってるんですよね。今度は2作品で。
池松 ええ、古いアメリカのジャズダンス風とTikTok風*1。もともと人が踊っている姿を見るのはとても好きなんですが、踊る金田一のために、ふだんからダンス動画やダンスシーンを、より気にかけるようになりました。実は、けっこうネタのストックがあります(笑)。
佐藤 こんなに踊る金田一はここ以外では見られないだろうね。でも、不思議とハマってるんだよねえ。セリフの一字一句まで原作どおりにこだわるこのシリーズだからこそ、言葉を使わないダンスシーンが光るのかもしれない。言葉以上のものを見ている人に伝えてくれるから。
渋江 いいなあ。次は僕の作品でも踊ってもらおうかなあ。
池松 (笑)。
宇野 それで言うと、僕は今回、音楽にもかなり助けてもらいましたね。というのも、原作によると金田一は「若いころアメリカの西部を三年ほど放浪した」らしいんですよ。ということは、 当時アメリカではやっていた音楽や文化の薫陶はひととおり受けているはず。だから、それを要素としてちりばめることで、金田一という人物をより多角的に、立体的にすることができたんじゃないかと──。
渋江 そういう意味でも、我々、原作に忠実なんですよ。ね?
池松 それ、渋江さんが言うと、たちまち説得力を持たなくなりますよ(笑)。

*1 動画投稿・閲覧専用のSNS。音楽に合わせて踊るダンス動画が人気。


「女の決闘」 演出・宇野丈良

多美子と泰子は、流行作家である藤本哲也の現在の妻と先妻という関係。彼らと同じパーティーに居合わせた金田一は、愛憎うずまくトラブルに巻き込まれ……。
出演:池松壮亮、首藤康之、板谷由夏、菊池亜希子、YOU、みのすけ、ジョン・カビラ、ヤンニ・オルソン、山本容子、岩下尚史、中村靖日 ほか

宇野 金田一耕助が初めて女性誌に登場した作品*2ということで、横溝作品の中では珍しく、おそらく当時最先端の、自立的で意識の高い女性が複数登場します。 そういうインテリジェンスなムードを作るのが肝だと思ったので、その婦人たちのクラブの中心的な人物として、銅版画家の山本容子さんにご登場いただきました。アーティストとして同世代の女性をリードしてきた山本さん。演技未経験とは思えない存在感で、場を引き締めてくださっています。ぜひご注目いただけたらと思いますね。

池松 ほかにも、僕とダンスを踊ってくださった作家の岩下尚史さんとか、それぞれ独自の美学と哲学と身体性を持った、すばらしい方々が集まって、非常にゆるやかに楽しく濃密な時間を過ごさせていただきました。そんな彼らにまざって、ポップでチャーミングでインテリジェンスな金田一を目指しました。

*2 1957(昭和32)年、『婦人公論』に掲載された。


こうもりなめくじ」 演出・渋江修平

湯浅は、隣に引っ越してきた金田一のことが、とにかく気に入らない。裏に住む女・お繁のことも気に入らない。その鬱憤ばらしに書いた小説が、ある日現実となってしまい!?
出演:池松壮亮、栗原類、冨永愛、中島歩、 長井短、片岡哲也 ほか

渋江 この話は、金田一がなぜかどうしようもなく嫌われてしまうというお話です。その金田一を嫌う湯浅順平を演じるのが栗原類くん。彼の妄想シーンが、ずばり見どころですね。僕なりにこの作品を解釈したとき、人が人を嫌う理由って一体何なんだろう? しかも、理由らしい理由もなく。それって実は、嫌いなのは自分なんじゃないか? 自分に似ているからこそ、嫌うんじゃないか?と。そのあたりを描いてみたいと思いました。
池松 この金田一は、“嫌われ者”という役を自ら引き受けているところがありますよね。しかも、そのイメージが、今おそらく世界中で嫌われてしまっている「こう​蝠もり」という……。渋江さんは、何と言っても映像表現が独特で面白くて、そのアイデアと作り込み方には毎度驚かされているのですが、今回も、いろんな仕掛けと遊びを見てもらえるのではないかと思います。
渋江 そのほかで言うと、お加代役の冨永愛さんがすばらしかったですね。クールビューティーじゃない役どころに、もしかして最初は戸惑われたかもしれいですが、最終的には思いっきり演じてくださいました。

佐藤 ちなみに、僕も俳優として出演しています。だけど、僕、あんなに過酷な現場は初めてでしたよ! 本当に「渋江のSはドSのエス*3」なんだなあと実感しました。
渋江 え、そんなだったっけ?
佐藤 えー! 自覚ないの?
宇野 本人にはわからないんだよ。だからドSなんだよ(笑)。

*3 渋江監督演出による前作「犬神家の一族」に出演した俳優・坂井真紀による名(迷?)言。


「女怪」 演出・佐藤佐吉

銀座のバーのマダム・虹子の亡夫の墓が荒らされ、頭蓋骨が盗まれた。疑わしきは「狸 穴(まみあな)の行者」と称する怪しげな祈祷(きとう)師。虹子に思いを寄せる金田一は、さっそく捜査に乗り出すが……。
出演:池松壮亮、清水ミチコ、安藤政信、芋生悠、神野三鈴 ほか

佐藤 僕は、金田一耕助という人間の内面を描ける話をずっとやりたいと思っていて、この作品を選びました。たくさんある金田一ものの中で、彼が恋をするのは、わずか2作。特にこのお話の中では、そうとうどっぷりハマってる。しかも、かなりきついかたちでそれを失うことに。これを映像化したら、どんな金田一になるのか……。この作品を池松くんとできて、僕はすごくうれしかったですね。

池松 とても光栄です。これまでの金田一って、傍観者というか、基本的には“渦中の人”ではない。それがこの作品では、自分ごととして失恋を経験するので、今までにない挑戦でした。と同時に、どこまでやったら面白いか。金田一を神聖なキャラクターのままにしておきたい方にとっては、ある意味見たくない姿が映っているかもしれません。短編として内側に強度のある作品に仕上がったと思います。
佐藤 それで、じゃあ「金田一がそれほど熱烈に思う相手役を誰にしようか?」というのが、一つの懸案事項だったんだけど、実はプロデューサーとも完全一致で、いも​生​悠はるかさんに!

池松 よかったですよね。独特の存在感がありました。なかなかあの年齢で「マダム」を演じるというのは、誰しもにできることではないと思います。
佐藤 「これなら金田一が夢中になってもしかたない」という魅力的な女性になりました。あとは、やっぱり、池松くんが本当にすごくよくて。自分で監督しておいて言うのもおかしいんだけど、「うわあ、こんな表情よく撮ったな!」っていうシーンがたくさんあって……。
池松 話は尽きないので、このへんにしておきましょう(笑)。ぜひ皆さんにご覧いただけたらと思います。このチームが自信をもって、遊び心満載でお届けする、新たな金田一の世界を、どうぞお楽しみに。

(NHKウイークリーステラ 2022年3月4日号より)