「ラジオ深夜便」アンカーのエッセーをステラnetでも。今回は小野塚康之アンカー。最新のエッセーは月刊誌『ラジオ深夜便』9月号で。

2023年、スポーツ界で「声出し応援」が再開されました。コロナ禍でほぼ沈黙してスポーツを見つめてきたファンが声援できるようになりました。競技場に熱や活気が戻り、応援団も後押しを受ける選手も去年までよりはるかにはつらつとし、楽しそうに見えます。声の力を改めて感じています。

私の専門分野の野球でもその威力は絶大です。観客の力は一層こもり、攻撃のチャンスに込めるパワーはものすごく、小さなチャンスでも大チャンスに感じるほどに盛り上がります。その姿からは、これまでたまっていたストレスを一気に発散させているように思えます。スポーツでストレス解消は大いに結構ですね。

声の力はメッセージ性にもあります。今年もセンバツの取材に行きました。高校野球のファンの声は選手たちを支えます。30数年甲子園の実況を担当してきて感じていたことがあります。高校野球の中継で難しいことの一つは敗者へのねぎらいです。

「敗れましたが良く戦いました」とか「まだ夏があります」とか多くの場合言わずもがなになってしまうことが多く、しかも放送では選手たちにこの声が届かないという無力感も味わっていました。

一方で、甲子園には高校野球への愛情深き人々がたくさんいます。選手たちが負けてグラウンドを去るとき、一人一人に声が届くようにスタンドから大きな声で言葉を掛けるのです。

「○○高校相手に良くやったー! 5点も取ったやんか!」と力を出し切ったチームに故郷に帰る前に胸を張らせます。「おい2年生、明日につながるミスや! 夏も見に来るさかいな!」。痛恨のミスを犯してしまった2年生にリターンマッチのファイティングポーズをとらせます。掛け声に合わせて3分5分拍手を送り続けることもあります。バックネット裏の多くは常連さんたちの指定席、試合をじっくり見て選手に声を掛けて最後まで見送りたいという心意気です。

高校野球はこの3年間、中止や「声出し応援」の規制があり、甲子園らしさを失っていましたが、ようやく〝名物の声〞が戻ってきました。

(おのづか・やすゆき 第1金曜担当)

※この記事は、月刊誌『ラジオ深夜便』2023年7月号に掲載されたものです。

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