「ラジオ深夜便」アンカーのエッセーを「ステラnet」でも。今回は工藤三郎アンカー。最新のエッセーは月刊誌『ラジオ深夜便』7月号で。

客席から出してもらったお題に合わせて、即興ではなしを作る落語の三題噺さんだいばなし。短い時間にどこまでおもしろくできるのか、発想力が試される演目です。そのさわりを柳家喬太郎さんが「深夜便」の生放送中に寄席でやった例を使って聞かせてくれました。

その時のお題は「里芋・埼玉・音楽家」に「卵焼き」も加えた全く関連のない4つの単語。それらをつなぎ合わせたら、さて、皆さんはどんなストーリーを思い描きますか? 考える時間はわずかに1時間半。そして出来上がったのが……。

「幼なじみのカップルの結婚に反対する男の父親 (里芋農家)が、彼らを応援する演歌の大御所(音楽家) のコンサート(さいたまスーパーアリーナ)の楽屋で、カップルの娘が作った(卵焼き)を食べて、“この味は死んだ女房の味だ!”と、妻の手料理を食べていた二人の幼いころを思い出して涙し、結婚を許すことになった」という人情噺(あらすじだけではピンとこないかもしれませんが)。

随所に笑いを入れて、最後にウエディングドレスを里芋の衣被きぬかつぎにかけるオチまでつけての30分。ぶっつけ本番でこの出来栄えです。まあ、お見事!

喬太郎さんの三題噺はどれも完成度が高く新作落語としていろいろな噺家さんが再演するほどです。「みかん・電気・水たまり」から生まれた『母恋いくらげ』や「ハワイ・雪・八百長」からの『ハワイの雪』など。何度聴いても最後はほっこり、ほろりとさせられる味わい深い名作ばかり。最近話題のAIでもさすがにこうは思いつかないでしょう。頭の中の回路をのぞきたくなります。

「新作を作っても原稿にはしない」「要所をメモしてあとはその場でつなぐ」「作ることと話すことが同時進行だ」と聞いて驚き、目が覚める思い。古典も新作も喬太郎さんの噺がいつも新鮮な理由がよく分かりました。柳家喬太郎さんとの2年間の「ミッドナイトトーク」。私にとっては「笑い・驚き・学び」の三題噺になっています。

(くどう・さぶろう 第1・3火曜担当)

※この記事は、月刊誌『ラジオ深夜便』2023年5月号に掲載されたものです。

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