月刊誌『ラジオ深夜便』にて、2022年4月号より連載している「渡辺俊雄の映画が教えてくれたこと」をステラnetにて特別掲載。「ラジオ深夜便」の創設に携わり、現在「ラジオ深夜便」の「真夜中の映画ばなし」に出演中の渡辺俊雄が、こよなく愛するラジオと映画を熱く語る。

半年間の大学閉鎖が明け、大学2年になった1969年、今も心に残る2本の映画に出会った。9月に公開された『フィクサー』と10月に公開された『さすらいの青春』である。『フィクサー』は社会派の巨匠ジョン・フランケンハイマー監督の力作。主演のアラン・ベイツがアカデミー主演男優賞の候補になった名作だが、今ではジョージ・クルーニーが主演した2007年の『フィクサー』の方が有名になり忘れられているのが残念だ。しかも僕が大学時代に見た『フィクサー』の舞台は、今世界が注目しているウクライナなのだ。

時代は帝政末期のロシアで、当時ウクライナでは激しいユダヤ人排斥運動が行われていた。貧しい修理屋(フィクサー )であるユダヤ人の主人公は、殺人事件の容疑者にでっちあげられ獄中の人となる。必死に無実を訴えるが、ユダヤ人である彼の声を聞く者はいない。ただ一人、(ダーク・ボガード演じる)良識派の調査官だけが正当な裁きを受けさせるべく奔走するが、この人物も暗殺され絶望的な状況に陥る。それでも獄中でただ一人正当な裁判だけを求めて、いかなる拷問にも耐え続ける彼の存在がヨーロッパ中に知れ渡り、やがて世論が高まり、裁判の開始が決定する。この映画が伝えたいのは、「人が心の中で思うことは、どんな権力者であろうと、誰にも止められない」ということだ。青年期の僕は大いに感動し、この言葉を心に銘記した。

もう一本は、フランス映画『さすらいの青春』である。17歳の少年モーヌが迷い込んだ森の中で神秘的な美少女と出会い、やがて結ばれ、死別するまでを描いた青春映画だが、夢と現実を交錯させるカメラワークが美しく、映画をているのか夢を見ているのか判然としない感覚になった。

こんな映画体験は5歳で見た『オズの魔法使』(1954年公開 ) 以来で、その後は一度もない。原作はフランス青春小説の古典的名作『ル・グラン・モーヌ』。監督はジャン=ガブリエル・アルビコッコ、モーヌが恋い焦がれるヒロインを演じたのが『 禁じられた遊び 』(1953年公開 )の名子役ブリジット・フォッセーだと知って驚いた。彼女はさらに20年後、『ニュー・シネマ・パラダイス 完全オリジナル版』で映画監督となった主人公が恋した少女の成長した姿で登場し、またまた驚かされた。

映画の仕事をしていると、「あなたの生涯ベストワンの映画は何ですか?」と聞かれることがよくあるが、そのときは迷わず『さすらいの青春』だと答えている。そして、もう一本の『フィクサー』から学んだ「人が心の中で思うこと (願うこと ) は、誰にも止められない」は、僕にとってはアナウンサーになることであり、映画評論家になることだった。

(月刊誌『ラジオ深夜便』2023年4月号より)

▼月刊誌『ラジオ深夜便』の購入はこちらから▼
Amazon.co.jp : ラジオ深夜便
▼月刊誌『ラジオ深夜便』の定期購読はこちらから▼
https://www.fujisan.co.jp/product/1224110/