熱戦が繰り広げられていた東京オリンピック・パラリンピックが終了した。

コロナ禍の中で難しいことがたくさんあった今回の大会。原則無観客になったからこそ、放送を通して競技の魅力を知るという意味合いが大きかった。

私の周辺では、今回、パラリンピックの奥深さ、すばらしさを改めて認識したという方が多かった。NHKがオリンピックと同等の力を入れて放送したこともあって、パラスポーツの意義が多くの人に伝わったのだと思う。

競技の一つひとつのルールや挑戦のポイントを理解することも課題だった。その意味で、ブラインドサッカー、車いすテニス、ゴールボール、ボッチャ、パラ卓球などの競技のだいをアニメーションで伝えるアニ×パラ」の試みはインパクトがあった。ルールを知り、アスリートが何にチャレンジしているのかを理解することで、パラスポーツをより身近に感じることができたのである。

今回のパラリンピックは、運営側の努力も強く印象づけられた。各競技場での選手紹介、進行、映像などの演出がオリンピックと統一され、一連の流れの中でアスリートたちの個性、競技の魅力が伝わるようになっていた。

東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会が、オリンピック放送機構(OBS)と綿密に協議して準備を進めた結果だと聞く。

OBSは国際オリンピック委員会(IOC)によって設立され、2008年の北京オリンピックから公式の国際映像を制作、配信している。各競技場での演出は、当然、映像の収録や放送と一体となるものだから、組織委員会やOBSと協議して準備していく。

大きな話題を呼んだ東京オリンピック男女100メートル決勝での、国立競技場を真っ暗にしたうえでプロジェクションマッピングを用いた演出も、担当したフローリアン・ウエーバー氏が組織委員会やOBSと協議して詳細を詰めていったとのことである。

大会期間中、OBSと共同して制作に取り組んだNHKのスタッフもいるとのこと。そのような試みを通して、NHKの放送文化がアップデートされたら、視聴者として大変うれしい。

今回の東京オリンピック・パラリンピックを振り返って強く感じることは、両大会が競技の内容はもちろん、その演出、放送の質においても世界最高峰のスポーツイベントだったということである。

この上ない舞台が、アスリートたちの情熱、その人生の物語を深く知るきっかけになった。パラリンピックの魅力を深く知った方々は、社会における「共生」の意味をこれからも考え続けると思う。放送を通して育まれた「共生のレガシー」を、ずっと大切にしていきたい。

(NHKウイークリーステラ 2021年10月1日号より)

1962年、東京生まれ。東京大学理学部、法学部卒業後、同大学大学院理学系研究科物理学専攻課程修了。理学博士。理化学研究所、ケンブリッジ大学を経て、「クオリア」(感覚の持つ質感)をキーワードとして脳と心の関係を研究。文芸評論、美術評論などにも取り組む。NHKでは、〈プロフェッショナル 仕事の流儀〉キャスターほか、多くの番組に出演。