「ラジオ深夜便」アンカーのエッセーを「ステラnet」でも。今回は森田美由紀アンカー。

最新のエッセーは月刊誌『ラジオ深夜便』6月号で。

今年1月いっぱいで渋谷の東急本店が閉店しました。札幌から東京の放送センターに異動してきた1988年から35年近く、書店や地下食品街、レストラン街など、月に1、2回は足を運んでいましたので、親しい友人との付き合いがパタッと途切れてしまったような寂しさです。

ある年齢以上の方は、デパートに特別な思い入れがあるのではないでしょうか。私が担当している「みる夜汽車」という番組で、40年以上前、3か月に一度、母と二人で30分電車に乗り札幌のデパートに行くのが何よりも楽しみだったという当時小学校低学年だった女性のエピソードをご紹介しました。おめかしして電車に乗り、店に着くと女二人だけの楽しい買い物タイム、昼には食堂で鍋焼きうどん。母は自分のものは何も買わなくても、必ず家で待つ父と弟にお土産を買う。帰宅すると気に入ってくれるかドキドキしながら二人にお土産を渡し、食卓を囲んで、その日の出来事を語り合う。と、デパートをめぐる幸せな思い出がつづられていました。

私も子どものころ、家族でデパートに行くのは格別の楽しみでした。何時間も粘ってサンタさんにお願いするものを考えたおもちゃ売り場、何でもあるファミリー食堂など、店内の至るところに思い出が。店員さんが目の前で作るグルグル巻きのソフトクリームを初めて食べたのもデパートの地下。以来母の買い物を待つ間、父と弟と三人で時間をかけてソフトクリームを食べるのが楽しみでした。今思えば母だって食べたかったでしょうね。

社会人になり、帰省して両親と待ち合わせるときは、いつもデパ地下食料品入り口のベンチ。母と買い物をしている間、父は店内の喫茶店でコーヒーや、時にはソフトクリームを頼んでのんびり待つのが常でした。

消費の低迷や消費行動の変化、老朽化などにより、各地で姿を消しているデパート。でもやっぱり私はデパートが好き。地域に根差し、地域の人と共に時を重ねていくデパートに頑張り続けてほしいのです。

(もりた・みゆき 第2土曜担当)

※この記事は、月刊誌『ラジオ深夜便』2023年4月号に掲載されたものです。

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