東日本大震災をテーマに書き上げたベストセラー小説『想像ラジオ』から、約8年。いとうせいこうが、震災10年の節目に被災地で直接聞いた女性たちの声を記録したノンフィクション。

ことし3月で、東日本大震災から10年がたちました。いとうせいこうさんは、『想像ラジオ』(2013年刊)の執筆後もトークイベントなどでたびたび福島を訪れ、被災者の声に耳を傾けてこられました。現地で聞いた話から生まれたのが本書。タイトルどおり、聞き手であるいとうさんの声も省いた、語り手の独り語りで書かれています。

語り手は11人。すべて女性で、基本的に匿名の“誰か”の話として構成されています。気仙沼で父親を津波で亡くされた方、避難所でラジオ局を開局した方、復興住宅で暮らす96歳の方、被災地で飼われていた牛を助けるため、福島に移住した東京出身者などが各章に登場します。

読んでいくと、いつ、どこで、どのように災害に遭ったのか、誰一人同じ人はいませんし、震災後の歩み方も違う。「被災者の皆さん」とひとくくりにしがちですが、本来は一緒に語っちゃいけないんだと改めて気づかされます。

とくに、昭和17年生まれの女性が半生を語る「A LIFE OF A LADY」や、境遇の違う4人の母親が登場する「THE MOTHERS」が印象的でした。

自分の畑が除染した土の置き場所になっていること。母親が、幼い子どもや生まれてくる赤ちゃんにとって何が最良なのかと必死に考え続けた話などに触れて、今さらながら、私たちはもっと被災地に対してできることがあったんじゃないかと考えていました。

(NHKウイークリーステラ 2021年5月21日号より)