がん患者の心をサポート

がんの経験者やその家族・友人などが、自分の力で歩んでいくことをサポートする無料相談施設「マギーズ東京」のセンター長を務めています。

マギーズセンターの創設者はイギリスの造園家、マギー・K・ジェンクスさん。自身のがん体験から、病院とは異なる支援の場の必要性を感じ、1996年にマギーズセンター開設に至りました。以降、イギリス国外にも広がりを見せて、2016年、東京都江東区にマギーズ東京が開設され、現在まで延べ3万3千人ほどの方が利用されています。

マギーズ東京の役目は、がん患者さんだけでなく、その家族や友人がまた力を取り戻せるように支援することです。緑豊かな敷地の中に建てられており、訪問された方のお話を伺ったり、お庭を見て心を癒やしてもらったりする場所です。

施設の環境を整える要件の一つに、「一人で泣けるトイレ」があります。広くて居心地のいいトイレは、いろんな思いを吐き出すときに涙を流される方への配慮なんです。いうなれば病院と自宅の中間にある〝第二の我が家〞のような、家庭的な雰囲気にしているのです。

専門知識を持った職員が友のように一緒に考えるヒューマンサポートと、ゆったりできる環境、この二つがそろうのがマギーズです。がんの影響を受けるすべての人に、「私たちはいつもここにいます。あなたは一人じゃない、いつでもお話をお聞きしますよ」というメッセージを発信しています。


話をすることで上を向ける

時には、「今から病名の告知をされると思う。どんな質問をしたらいいのか整理したいので、手伝ってほしい」と、病院へ行く前に立ち寄られる方もいます。かと思えば「今、病院でショックな診断を受けて、このまま家には帰れない。ちょっと寄っていいですか」と連絡をいただく場合もあります。

お話を伺うときには、筋道を立てて質問をしていくようなことはしません。その方が抱えるモヤモヤした思いを、時間をかけてゆっくり吐き出してもらいます。そうすることで気持ちが癒やされたり、整理がついたりして、解決すべき課題を自分で見つけ出すことができるのです。

イラスト/宮下やすこ

話すうちに、下を向いてい顔がだんだん上がってきて、「あ、やることが見つかりました」ということもあります。また、がんになった自分だけでなく、家族も悩んでいるので連れてきたいなど、周りに目が向いていく方もいます。

表情や動作が変わっていく、それはまさに自分の力を取り戻した瞬間で、私たちはとてもうれしくその様子を拝見しています。

オープンして6年。今は女性の利用者が8割ですので、男性が一歩を踏み出せるプログラムも設け始めました。これからも専門職員の質をキープしながら、よりよい相談支援を継続していきたいと思います。

秋山正子 (あきやま・まさこ)

訪問看護師として長く活動。2019年、看護師の世界最高記章、フローレンス・ナイチンゲール記章受章。

※この記事は、2022年9月19日放送「ラジオ深夜便」の「インタビュー~枠にとらわれずに、支え続けたい」を再構成したものです。
聞き手/江崎史恵 構成/小林麻子(トリア)

(月刊誌『ラジオ深夜便』2023年1月号より)

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