“男なんだから泣くな”、そんな言葉に私はモヤモヤする。
男性だからといって、感情を表に出してはいけない理由は何なのだろうか。また、男性が泣いたときに“男泣き”という言葉が使われるが、この言葉がなぜか少しカッコよく聞こえることに矛盾を感じていた。

“男だから......” “男のくせに......”誰が定めたものかもわからない基準に、違和感をおぼえる人も多いと思う。LGBTQや性差別に焦点が当てられるようになってきたいま、“男性”が感じる生きづらさや違和感は、実はさまざまなジェンダー問題と結びついていることが多い。今回、国際男性デー NHK×日テレ オンライン座談会「どうする?“男×ジェンダーのモヤモヤ」を視聴して、改めてそう感じた。

毎年11月19日は、男性の健康や生き方に目を向け、ジェンダー平等について考える「国際男性デー」。NHKと日本テレビが放送局の枠を越えて、性をめぐる課題を“男性”の視点で考えるオンライン座談会が開催された。

お笑い芸人のバービーさん、モデル・タレントのロイさん、これまで性に関する多くの番組を手がけてきたディレクターやプロデューサー、専門家の方が、NHK が行ったアンケート調査に寄せられた多くの声をもとに、“男らしさ”や“男性ならではの生きづらさ”について語り合った。

まず番組の前半で取り上げられたのは、「“男らしさ”のモヤモヤ」。このテーマは私も以前から抱いていた違和感のひとつだ。男性は働き、一家の大黒柱であるべきだという考え方は、ひと昔の日本では当たり前の概念。男性という性であること自体が、生きていくうえでのプレッシャーとなっていた。現在も、男性が働くことに違和感を抱くことは少ない。

今では働く女性も増え、働きやすい制度も多くなっている。だが、“女性が働きやすい環境”という言葉は聞くが、“男性が働きやすい環境”という言葉はあまり耳にしない。

また、番組中のロイさんの発言で、
“細かい部分を指摘するときに「男として小さい」という言葉はあるが、「女として小さい」とは言わない”
とあったが、確かにその通りだと感じた。男性としてひとくくりにされ、性格までもが“男性”や“女性”の基準でまとめられてしまう。そのせいで、本来感じる必要のない生きづらさが生じている。 “男性/女性らしさ”は、決して押しつけていいものではないはずだ。

私も今回、“国際男性デー”という言葉を聞いて、確かに男性に焦点を当てて考える機会はあまりなかったと自省した。男性の視点で考えることで、今まで見えていなかった男性が抱く違和感を知ったことは、私の今後の行動や考え方につながるものとなった。

そして番組の後半では、“性的同意”、“避妊”などの性教育について意見が交わされた。性教育は、日本の大きな課題の一つとしても問題視されている。

先日こんな体験をした。
生理痛が2日目はつらいという話を女性の知人としているときに、男性の知人が、「生理って1日だけじゃないの?」と驚いていた。その表情から、本当に知らなかっただけということが伝わった。おそらく、これまで知る機会がなかったのだろう。

学校で受ける性教育は、男女で分けられ、それぞれの身体について学ぶイメージがある。私自身、小学校では、女子として分けられて生理の授業を受けた経験がある。男子は同じ時間にどんなことを学んでいたのだろうと気になっていたことを思い出した。

子どもの頃から、自分の“性”に違和感を抱いていた私は、性教育で、男女で分けられることがとても苦痛だった。自分がなりたい男性の体について学ぶ機会を気づいたら失っていたのだ。知りたくても知る機会がないことで、あいまいな情報や知識を得て、誤った認識のままトラブルにつながる恐れもある——。

出生時の性別がすべてではないからこそ、多様な視点を学ぶ機会を作るべきである。学べる機会が少ないことが、自分自身や大切な人を傷つける原因になってしまうかもしれない。

LGBTQ のトランスジェンダーとして生きる私が抱いてきたこの違和感は、これからの日本の性教育にとって大事な違和感なのではないだろうか。そして今回、男性的な目線で性教育を捉えたことで、学ぶ機会が少ない日本の性教育の現状を痛感した。

これまでは同性愛やLGBTQについて語ってきたが、“男性”という性に焦点を当てて物事を考える機会はなかった。というか、無意識にその考えを排除していたのかもしれない。いまだに感じる社会的な男女の差が、“男性”という性を、定められた基準に縛りつけていたのだ。

今回のオンライン座談会は、そんなモヤモヤと抱いてきた違和感をひとつずつ丁寧にひもといてくれた。“男性”が感じる生きづらさに目を向けることは、現代社会にそぐわない概念や、ひとくくりにされるべきでない事象について考えることにつながる。自分とは正反対だと思う物事や人と向き合うことは、いまを生きる視野を広げてくれる。

1999年、茨城県生まれ。女子校出身のトランスジェンダー。当事者としての経験をもとに、理解ある社会の実現に向けて当事者から性に悩み戸惑う方、それを支えようとする方への考えを発信する活動に従事する。