放送開始と同時に生まれた「アナウンサー」という仕事——。放送とともに時を重ね、2025年に100年を迎える。
今年4月にスタートした「アナウンサー百年百話」は、放送の最前線で活躍してきたアナウンサーの「ことば」をもとに、放送の歴史を振り返る番組。NHKアナウンス室が制作を担当し、月ごとに「災害報道」「高校野球」「伝統芸能」などテーマを決めて放送、当時のアーカイブ音源とともに、記憶に残る実況やアナウンサーの秘話などを紹介してきた。
そして、12月は、年末の風物詩「NHK紅白歌合戦」。その年を象徴する歌と歌手の皆さんが、より輝くようにと言葉を添えてきた司会のアナウンサーに注目する。
【放送予定】
12月7日 第一話「紅白 はじめてものがたり」
12月14日 第二話「歌手と司会者“あうん”の呼吸」
12月21日 第三話「時代が見える!曲紹介で振り返る紅白歌合戦①」
12月28日 第四話「時代が見える!曲紹介で振り返る紅白歌合戦②」
11月13日、東京・愛宕山のNHK放送博物館「8Kシアター」で、「第三話と第四話」の公開収録が行われた。その様子をちょっとだけ紹介しよう。
この回のゲストは、とにかく「紅白」に詳しい構成作家の寺坂直毅さん。寺坂さんは、「うたコン」の台本なども手がけている。司会は、紅白のラジオ実況なども担当してきた小松宏司アナウンサー。
収録では、宮田輝アナウンサー、山川静夫アナウンサー、鈴木健二アナウンサーらの曲紹介(歌唱前の前奏に乗せて語る部分)を取り上げた。
当時(1960年代後半~80年代)、紅白の台本の曲紹介部分は、ほとんどが“白紙”だったという。つまり、その多くがアナウンサーにゆだねられていたのだ。
彼らは、「その年の世相」や「天気」、「洒落」などをそこに織り込み、前奏にふさわしい音程で語り、そして歌い出しまでの絶妙なタイミングで切り上げ、「歌」を送り出す。メモなどは一切なく、常にカメラ目線——。歌ごとに、語るべき内容がしっかりと頭に入っていたのだ。
書き起こしたら整っていないものもあったかもしれないが、その言葉には「力」があった。
当時のベテランアナウンサーは、誰の歌をどのように紹介していたのか、ぜひ「アナウンサー百年百話」12月の放送を聞いて確かめてほしい。それぞれのアナウンサーの持ち味が生かされ、その語り口によって、歌手の背中をそっと、時に力強く押しているのが感じられるのではないだろうか。
ゲストの寺坂さんは、アナウンサーによる曲紹介をこう評した。
「歌い出しまでの時間の測り方、声のトーンも、曲によっては軽いものもあるし、迫力あるものもある。そうして歌を輝かせている。職人であり、エンターテイナーですよ」
今回の番組を取材から担当してきた小松宏司アナウンサーは、
「当時の先輩たちがいろいろな工夫をして、考えていたことがわかったことがよかった。僕らにも、通じるものが多くある。受け継ぐものはきちんと受け継いでいきたい」と先輩たちの仕事を追体験したよう。
また、番組プロデューサーも務める比留間亮司アナウンサーは、
「放送という文化を切り開いてきたアナウンサーたちの言葉や思いを伝えていきたい。特に、放送開始の頃はゼロからのスタート、そしてラジオからテレビへと、その変化に対応しながら仕事を切り開いてきた。過去のアナウンサーの思いをバトンとして受け取り、今、“デジタル時代”と向き合っている我々に通じるものを感じている」と語った。
公開収録に参加した方に、番組の感想を伺った。
「いや、自分が実際にあれを見ていたころと重なってね、ほんと、涙が出た」(男性)
「二人の掛け合いが楽しかった。当時の台本(の曲紹介の部分)が真っ白、というのを聞いてびっくりしました」(40代女性)
放送が始まって間もなく100年、アナウンサーたちはそのころから、同じように悩み、工夫し、言葉を紡いできたことを、改めて感じる。温故知新、とよく言うが、誰でも発信者になれる時代になった今、アナウンサーの先人たちの仕事は、私たちみんなの道しるべとなるかもしれない。
この日の収録の内容は、「新・BS日本のうた」の中で、映像でもご紹介。
2023年1月8日(日)BSプレミアム 午後7:30~放送予定
また、「ラジオ深夜便」(ラジオ第1ほか)でも「アナウンサー百年百話」を月1回、放送している。
12月22日(木)「戦後・沖縄初のアナウンサー川平朝清さん(後編)」初回放送:5月11日
1月26日(木)「架空実況放送~め組の喧嘩前編~」初回放送:10月19日
さらに、スマホやタブレットでラジオ番組が楽しめる「NHKラジオ らじる★らじる」では、聞き逃し配信も行っている。ぜひ、アナウンサーが紡いできた百年の放送物語に耳を傾けてほしい。
(取材・文 NHKサービスセンター 阿部陽子)