睡眠改善インストラクターの​治​恵めぐみさんは、「睡眠文化研究会」を企画。会では日本やほかの地域、過去から現在まで、眠りにまつわるさまざまな事柄を文化的に研究しています。その研究から得た知識をもとに、健やかな眠りを広める活動もされています。今回は寒さが厳しい冬でも、しっかり睡眠をとる工夫についてうかがいました。
聞き手 /松島志央里
鍛冶恵さん

●一日の「光」とのつきあい方

半日(12時間)や1年など、体のリズムを刻む体内時計。人の睡眠は、体内時計が作り出す約1日周期のサーカディアンリズムに支配されています。脳内にある体内時計の「主時計」が目からの光を受けて、約24時間の周期を刻んでいます。眠気のリズムは12時間で、午後1時から3時ごろは、食事をとってもとらなくても、少し強い眠気がくる時間帯です。

私たちは、体内時計を狂わせる社会環境や生活習慣にさらされています。そこで大切なのは、太陽の光を浴びて、狂ったリズムを毎朝リセットすること。冬は日の出が遅く、目覚めづらいので、朝はなるべく太陽の下で過ごしましょう。

また日没時刻が早い冬は、夜を部屋で過ごす時間が長くなります。快眠のためには、部屋の照明にも配慮を。室内が明るいと、活動時に優位になる交感神経が夜でも活性化します。眠る前は交感神経を鎮め、休息時に働く副交感神経を高めると、寝つきがスムーズに。そのため、オレンジ色の光の間接照明を用いるのがおすすめです
…ラテン語で約1日の意味。

あなたはどっち?「ヒバリ型」と「フクロウ型」

朝から活動的な「ヒバリ型」の人、早起きは苦手で夜更かしが得意な「フクロウ型」の人がいます。ヒバリ型はサーカディアンリズムが24時間に近いため、比較的規則正しい生活が送れます。一方、フクロウ型は周期が長めで後ろにずれやすいので、夜型になりがちです。これは遺伝的体質によるもので、努力では変えにくいものです。こうした知識を持って、うまくつきあっていきましょう。


●寒い冬は保温も大切

サーカディアンリズムには、体温やホルモン分泌のリズムもあります。一日の間で上下する体温も、睡眠に影響を与えています。冬の朝は寝室の気温が低いので、活動するための体温上昇が鈍く、起きづらくなります。寒さは睡眠を妨げる要因にもなるので、室内温度を上げる、布団や寝巻きで保温を心がけるなどして、快眠してください。


●快眠のためのさまざま工夫

夕方には暗く、寒い冬。快眠のためには、この季節ならではの対策が必要です。「光」とのつきあい方や「保温」のための工夫をご紹介します。

部屋の照明を工夫

快眠するための照明の工夫は寝室にかぎらず、眠る前に過ごすリビング、浴室なども関係します。理想の照度は40~50ルクス。少し暗めのカフェやバーのような明るさです。
しかし、夜いきなりこの照度にするのではなく、夕食が終わったらリビングの照明を調光して少し暗くし、歯を磨くときに1か所照明を消すなど、段階的に暗くするのが望ましいのです。
パソコンや携帯電話、スマートフォンのディスプレーも寝る直前まで長時間見ていると、交感神経を活発にして脳が覚醒状態になるので、気を付けましょう。 

さらにポイント!
・明るく白っぽい光ではなく、キャンドルの炎のようなオレンジ色がおすすめ。間接照明ならよりリラックスできます。
・パソコンやスマートフォンなども段階的に遠ざけましょう。

入浴・足湯の工夫

手先、足先が冷えていると、末端の血管が縮んだままなので深部の体の熱が外に出ていかず、寝つきが悪くなります。快眠には、血行をよくする入浴がおすすめ。また、いったん上がった体温が下がることで、副交感神経が優位になってリラックスし、これがよい眠りにします。入浴できない場合は、足湯でも効果があります。 

さらにポイント!
・好きな香りの入浴剤でよりリラックス。
・足湯の場合、お湯につけた足先を軽く手でマッサージすると、手先もぽかぽか。
・入浴・足湯のあとはなるべく早めに布団に入りましょう。

寝巻きの工夫

寒いからといって、重ね着はよくありません。寝つくときの体温降下、睡眠中の寝返りを妨げます。フリース素材もおすすめしません。吸湿性が少ないので、汗をかいて寝苦しくなります。
入浴や足湯で足先の血管を広げて熱を逃がすのが理想的なので、靴下ははかずはだしで寝ましょう。 

さらにポイント!
・肌触りがよく、ほっこりした感触の木綿素材がおすすめ。
・どうしても靴下をはきたい場合は足首のゴムが緩めで、寝ている間に脱げてしまうくらいがよいでしょう。

寝具の工夫

寒いときは、掛け布団よりも敷布団を暖かくする方が、保温効果があります。また、羽毛布団は体に直接掛け、その上に毛布を掛けると暖かい空気を逃がしません。

さらにポイント!
・敷布団に、綿毛布などの吸水性のあるものを1枚追加するとよいでしょう。

室内温度の工夫

快眠のための望ましい室内温度は16~20度くらい、湿度は50%を切らないようにします。足先を暖める湯たんぽは深部体温を下がりやすくし、寝つきをスムーズに。布団乾燥機や電気毛布は寝る前に暖め、消してから寝ます。電気毛布は3時間程度のオフタイマーをセットするのもおすすめ。夜中の寝具の中は30度台にまで上がります。寝室の気温を10度台にしてしまうと、夜中トイレに起きたとき温度差でヒートショックを起こすことがあるので、注意が必要です。

さらにポイント!
・加湿器やぬれタオル、洗濯物を置いて乾燥を防ぎましょう。
・電気毛布は一晩中つけていると、乾燥で喉が渇く、 肌がかゆくなるなど眠りを妨げることも。
・夜中トイレに起きるときのために、暖かいスリッパや羽織れるものを用意しましょう。

朝スムーズに起きる工夫

冬の朝は布団から出られない人が多いのではないでしょうか。気温が低いと、朝の体温上昇を鈍くし、起きづらいものです。起き上がったときに部屋が暖かくなるようにすれば、それに応じて体温も上がり活動しやすくなります。冬は朝日が出る時間が遅いので、できるだけ寝室に朝日が入る工夫もして、体内時計を目覚めさせましょう。 

鍛治さんよりひと言
人にとって必要な睡眠時間は日中の活動量に応じて決まり、個人差があります。日中「すごく眠たい」とならなければ、その人にとって必要な睡眠時間は足りていると考えてよいと思います。 眠りも年齢とともに変化し、夜中に目が覚めたり、起床時間が明け方早くになったりしてきますが、これらも、日中の活動に支障がなければ、気にする必要はありません。

※この記事は、2019年10月2・16・23日放送「ラジオ深夜便」の「秋もぐっすり」を再構成したものです。

構成・文/金谷恵子 題字・イラスト/福井若恵
(月刊誌『ラジオ深夜便』2020年2月号より)

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