大河ドラマ「鎌倉殿の13人」は、いよいよ物語も終盤、そのなんとも恐ろしい展開から目が離せなくなっている。歴史上の事実とはいえ、ネット上からは「いずれはあの人が……」「えぐい」「怖い」といった悲鳴が聞こえてくる。

まだまだ波乱が続く物語で最近、その冷徹ぶりで注目されているのが、北条義時にそっと意見する官僚「大江広元」である。9月24日、そのゆかりの地、山形県寒河江市で、シンポジウムが開催された。
登壇したのは、芸能界きっての大河ファンとして知られ、ラジオ第1「DJ日本史」のパーソナリティーでもおなじみの松村邦洋さん。そして、「鎌倉殿の13人」をはじめ、多くの時代劇の考証を務める大森洋平シニア・ディレクターだ。
鎌倉幕府の一大事、「承久の乱」の爆笑妄想トークとともに、現地の盛り上がりを紹介しよう。

「鎌倉殿の13人」大江広元と寒河江市

大江広元は、京都の公家から源頼朝の側近となり、頼家・実朝と三代にわたって政所別当(財務・行政長官)を勤めた文官。守護地頭の制度を頼朝に提案したことでも知られている。
広元の子孫の中でもっとも有名なのは、後世まで歴史の舞台で大活躍した家系、長州毛利家。広元の四男・すえみつが毛利の始祖にあたる。毛利といえば「元就」「輝元」など「元」の字がついた武将が知られるが、この字は「広元」から取ったとされる。
その大江の本家、長男の家系は山形県寒河江市の辺りを所領としていたことから、今も寒河江の人たちは敬愛の意味を込めて「大江公」と「公」をつけて呼んでいる。
寒河江市役所の吹き抜けに彫り込まれた「大江氏の家紋」。

寒河江特産の「米」と「いも」で松村さんを歓迎!

大江公の初代・広元が大河ドラマに登場するとあって、ドラマ開始以前から大いに盛り上がる寒河江市では、ゆかりの地を巡るスタンプラリーや特別展、シンポジウム、講演会に加え、大河ドラマの巡回展など、関連イベントが目白押し。

その一環として、今回、松村邦洋さんを迎えたシンポジウム「大江広元と鎌倉時代」が開催された。(私、阿部陽子も司会として参加)。シンポジウムといっても堅苦しいものではなく、大河ドラマをこよなく愛す松村さんによるトークが中心の内容。

開催当日、松村邦洋さんを待ち受けていたのは寒河江の皆さんからの大歓迎。
米作りをしているグループ「つや姫ヴィラージュ」の方々が、地元の特産米「つや姫」でつくった“塩むすび”でおもてなし。今年の新米を特別に一部刈り取ってつくってくださった。「今日に間に合わせるようにしたんだけども、ちょっと乾燥が足りなかったかな」と、はにかんだ様子で笑う地元の方に心がなごむ。

さらに、大鍋いっぱいの「いも煮」は、「子姫芋組合」の皆さんから。
山形・秋田の地域でよく作られている「いも煮」は、肉の種類と味付けに、それぞれ地域のこだわりがあるという。寒河江の方いわく、お勧めは「牛肉、しょうゆ」による味付けとのこと。

この日の寒河江は、弱い雨が降っていて少し肌寒かったこともあり、松村さんは、町の人々のもてなしに「あったかくて、ありがたいねぇ」としきりに感謝。おいしいお米といも煮とともに寒河江の皆さんの温かい気持ちが沁みた。


松村さん熱演!「あの政子の演説はこうして作られた」

雨の中、シンポジウムには約500人の方が参加。コロナによる入場規制が行われるも、会場はほぼ満席状態。中には、県外からはるばる来場したという方もいて、会場は、開演まえから歴史ファンの熱気であふれた。

冒頭、寒河江市教育委員会の保科文俊さんが町の歴史を解説。続いて、NHKシニア・ディレクター大森洋平さんが「テレビの時代考証」(その時代に、あったらおかしいモノ、まだ存在していない言葉など)について講演。

そして、いよいよ松村邦洋さんとともにトークがスタート!
「DJ日本史」でもおなじみ、俳優のモノマネを交えながら圧巻のトークが展開される。ドラマの登場人物を芸能界の大物たちになぞらえながら、しゃべり倒すこと1時間。その真骨頂は、「承久の乱」(1221年)に際して行われた「北条政子の演説」だ。

「頼朝さまの御恩は山よりも高く、海よりも深い。それに報いよ。ただし、上皇方につくという者は、名乗り出よ」という、あの名演説だ。(今回の大河でも、きっとクライマックスとなるのでは)
「あの演説を書いたのは僕は広元だと思うね。でね、かなり綿密に練習もしたんですよ」と松村節が、会場を魅了する。

「政子も60代でしょ。すでに声もおとろえて、そのままではそれほど迫力はなかったはず。それをね、広元と義時で練習させたんですよ。演出は義時ね。『姉上、そこはもっと声を張って!いやいや、このあたり、このあたりまで声が聞こえないと、後ろの方まで届きませぬ!』みたいな。で、『名乗り出よ』と言われた瞬間に『そのようなもの、ここにはござらん!』と立ち上がるタイミングまでリハーサルしたと思いますね。三浦義村あたりがね。だってタイミングを逸して『じゃ、俺、上皇につこうかな』なんてごそごそ始める奴が出てきたらまずいでしょう」

政子の演説リハーサルを、一人3役?4役?を演じて披露する松村さん。場内は笑いの渦に包まれた。


さらに「真田丸」の名場面も登場!?

「承久の乱」の頃、大江広元の長男のちかひろは、ちょうど京都守護をしており、上皇方につくことになった。一方、その長男、広元にとっては孫にあたるすけふさは、幕府軍の一員として奮闘する。

「この親子で分かれて戦うって、これね、僕は「犬伏の別れ」だと思いますねぇ。真田昌幸、信幸と、真田幸村が徳川と豊臣に分かれたみたいにね~」
松村さんは、今度は草刈正雄さんと堺雅人さんに早変わり。大河ドラマ「真田丸」で描かれた「犬伏の別れ」を演じてみせたのだった。

寒河江に暮らす人たちにとっての「我らが大江公」。その活躍について想像をたくましくしながら、楽しく、真面目に思いを馳せる時間となった今回のシンポジウム。「楽しかった」という参加者の感想とともに、幕を下ろすことができた。

松村さんはといえば……、
帰りの車中で「ああ、もっとこの話をすればよかった」「こっちも話したかった」と反省しきりだったとのこと。そもそも、松村さんの持ちネタが多すぎるのだ。寒河江という町に実際に来て得た新たな着想もあるのだろう。

歴史は最中を生きている人たちにとっては紛れもない現実だが、後世を生きる者にとってはこれ以上ない極上の物語となる。
歴史の中を、今もそれぞれの場所で、私たちは生きている。
時間と空間、そして人々の心をつなぐイベントをこれからも届けていきたい。

(取材・文/NHKサービスセンター 阿部陽子)