#1 武家政権の魁(さきがけ)、平清盛の画像
「清盛の激しい生きざまを抑揚をつけてしっかりと演じたい」と語る松平健の演技にご注目。

「鎌倉殿の13人」の舞台は鎌倉時代。鎌倉時代を作り出したのは、皆さんご存じの源頼朝です。苦節20年の伊豆の流人時代と、朝廷と正々堂々と渡り合うまでに変身、成長する後半生。頼朝のとうの人生を支えたのは、まずは伊豆や相模の武士たちです。

特に、娘が頼朝と恋に落ちたためにやむなく(?)頼朝を応援することになった北条時政。そして何といっても、時政の息子で政子の弟、義時。頼朝・頼家・実朝に仕え、鎌倉幕府を実質的にけんいんし、体制を盤石なものにしていった男。義時はどんな鎌倉を、東国を、そして日本を夢みていたのでしょう。この一年、私たちは三谷ワールドにつかって、義時と共に歩みます。

ドラマは鎌倉時代以前、平安時代末期から始まるようです。配役を見ていたら、『平家物語』でおなじみの人物がかなりいるではないですか。そこで今回は、頼朝を伊豆に流した平清盛について一席。

私の記憶にある大河ドラマの清盛は、なんといっても「新・平家物語」の仲代達矢さんです。あのぎろっとした魅力的な目。京都の六波羅蜜寺で伝平清盛像を拝観したときに、面ざしが仲代さんと重なり、感激のあまり像から離れられませんでした。

次には「平清盛」の松山ケンイチさん。歴史研究の新しい成果が存分にちりばめられた、躍動的な清盛でした。そして、今回は松平健さんです。「マツケン」つながりでしょうか。威風堂々たる清盛です。

清盛が活躍する『平家物語』は、平家一門の興亡を描く長編物語です。平家の人々が主役ですが、『平家物語』が作られたのは、平家を滅ぼした源氏が主役の鎌倉時代です。もっとも、源氏はあっという間に絶えて、北条氏が牛耳っていきますが。

すると、たとえば、善なる平家を滅ぼした悪の巣窟源氏、などという物語は絶対に作れません。滅ぼされる平家は、滅ぼされても当然の悪者であり、平家の総帥清盛は「悪行の人」として描かれます。

これは物語の中でのお話。実際の清盛は、朝廷社会で注意深く着実に地歩を固め、周囲にその存在を認めさせていきました。また、中国(宋)との交易に力を入れる国際的な視野も持ち、「入道」に恥じないあつい信仰も持っていました。あの藤原道長にも匹敵する人物として称賛されたこともあります。ただ、晩年に起こしたいくつかの事件が、悪人のイメージを植えつけてしまいました。

若いときの清盛の意外な一面を語るエピソードを紹介しましょう。鎌倉時代にへんさんされた説話集に載る話です。

真冬に若い侍が寝室で番をするときには、自分の夜具の足元に居させて寒さから守り、早朝、侍が居眠りをしていると、清盛は、起こさないように気をつけて、そっと抜け出した。また、身分の低い下仕えでも、その家族の前では一人前に扱うので、大変な名誉と感激された。このように気遣いをしてくれるので、誰もが清盛を慕ったという、と。

どのような“マツケン”清盛にお目にかかれるでしょう。楽しみです。

(NHKウイークリーステラ 2022年1月7・14日合併号より)

静岡県生まれ。お茶の水女子大学大学院博士課程人間文化研究科比較文化学専攻満期退学。博士(人文科学)。現在、駒澤大学文学部教授。『平家物語』などの軍記物語を中心とした中世日本文学の研究を専門としている。著書に『『平家物語』本文考』、『平家物語の形成と受容』、『90分でわかる平家物語』、『平家物語大事典』(共編)、他にCD集「聞いて味わう『平家
物語』の世界」などがある。NHKでは、ラジオ〈古典講読〉「平家物語、その魅力的な人物に迫る」に出演。