眉根を寄せて口をへの字に結び、苦虫をかみつぶしたような顔。談笑する武士たちから離れて座る男。中村獅童さんが演じている梶原景時です。油断ならない、近寄りがたい(近寄りたくない?)雰囲気を漂わせています。武士たちをじっと観察していますね。

義経の行動にも目を光らせています。平家追討の立て役者として活躍する義経を、景時が頼朝よりとも(ざん)(げん)し、それを信じた頼朝が義経追討を決意する……。『平家物語』などが展開するこのシナリオは、あまりにも有名です。

「鎌倉殿の13人」では、平家追討に出発する前から、その伏線を張りめぐらしているようです。私たちは兄弟の溝が決定的になる瞬間をじっと待つだけです。

景時は歌舞伎の世界に至るまで、悪役としての登場が多い人物です。その(ほう)()は既に中世にありました。
今回は、その景時の別の一面を紹介しましょう。

景時は石橋山の合戦では平家方でしたが、洞窟に隠れた頼朝をわざと見逃しました。それ以来、頼朝は景時を厚く信頼し、景時もよくそれに応えますが、2人には、主従関係に留まらない共通の趣味(?)があったようです。それは連歌です。

連歌とは、まず、和歌の上の句にあたる「五・七・五」を詠み、別の人がそれを受けて、下の句にあたる「七・七」と付ける文芸です。二句めは、一句めから少しずらしたり広げたりして、予想外の展開となることが喜ばれます。

2人の連歌は『(しゃ)(せき)(しゅう)』という説話集にも載っています。
奥州合戦に赴く途中で、頼朝が、

頼朝が今日のいくさに名取河
(今日の合戦では河の名のとおり、高名をあげるぞ)

と詠みかけて、景時に付けるように命じます。景時はすぐに、

君もろともにかちわたりせむ
(主君と共に徒歩かちで河を渡って勝ちましょう)

と応じました。頼朝が自分の戦意を述べると、景時は頼朝をもちあげつつ、自身の存在もアピールします。

和歌を作るには、さまざまなルールや技法、先人の作品を多く学ぶ必要があります。しかし、連歌は肩肘張らない、座興の遊びです。

もちろん、和歌に熟達した人は優雅な句を付けることができますが、連歌は、まずは、その場ですぐに次を付ける、(とう)()(そく)(みょう)の才が求められます。時と場に合った句を付けて、感心されたり面白がってもらえたら成功です。

実は、頼朝は和歌をたしなんでいたようです。比叡山天台座主となった摂関家出身の高僧・()(えん)とも和歌をやりとりしています。その頼朝が詠みかける句に応えられる人物が景時でした。景時は頼朝と連歌で会話のできる、数少ない側近でした。

景時の和歌も少しは残されています。京の貴族には及びませんが、漢字も大して書けない、読めない多くの関東武士の中では、教養の豊かさがうかがえます。それ以上に、頼朝との連歌のやりとりには、同好の士として、息のあった2人の時間を楽しむ親密さを感じます。

(こわ)(もて)だけではない景時です。景時とその一族にはどのような未来が待っているのか。これからの展開から目が離せませんよ。

静岡県生まれ。お茶の水女子大学大学院博士課程人間文化研究科比較文化学専攻満期退学。博士(人文科学)。現在、駒澤大学文学部教授。『平家物語』などの軍記物語を中心とした中世日本文学の研究を専門としている。著書に『『平家物語』本文考』、『平家物語の形成と受容』、『90分でわかる平家物語』、『平家物語大事典』(共編)、他にCD集「聞いて味わう『平家
物語』の世界」などがある。NHKでは、ラジオ〈古典講読〉「平家物語、その魅力的な人物に迫る」に出演。