大河ドラマ「どうする家康」で、阿茶局を演じる松本若菜。
美しさと才覚を兼ね備えた側室として家康を支える阿茶局。
演じる松本に役柄への思いや、今後の見どころを聞いた。
――「どうする家康」の出演が決まったときの率直なお気持ちを教えてください。
2020年に放送された「麒麟がくる」が初めての大河ドラマの出演で、家康の母・於大の方を演じました。今回も家康と深い関わりのある人物ということでとてもうれしかったですし、勝手に縁を感じてしまいましたね(笑)。家康の周りにいる女性は魅力的な方が多いので、私自身も阿茶をどのように演じようか、ワクワクが止まりませんでした。
出演が決まった後、阿茶が江戸に建てたという寺院「雲光院」にうかがいました。今も多くの歴史ファンが訪れるそうで、境内に置かれていたパンフレットには阿茶についていろいろと書かれていました。
それらを目の当たりにすると、阿茶は何百年も多くの方に愛されてきたんだなと感じますし、今回演じるにあたっても、脚本の古沢良太さんが描く人物像を信じて、阿茶というキャラクターをさらに厚いものにしていきたいなと思いました。
――阿茶局の人物像についてはどのように捉えて演じていますか。
家康にとっては側室であり、側近でもある大事なパートナー。武家の出身で武術にも長けており、とても才覚に優れた女性という印象があります。
現代で言い換えるとバリキャリ(バリバリ働くキャリアウーマン)と言いますか、とても魅力的な方ですよね。いろいろ調べると非常に気遣いのある方だったそうですし、男社会の中で無駄な争いはしたくないゆえに、女性ならではの気遣いで事なきを得たというエピソードを読んで、すごく面白いなと思いました。
当時は、そんな阿茶に憧れを抱く人も多かったでしょうし、逆にそれを面白くないと感じる人もいたかもしれません。でも、歴史的に伝わる大坂冬の陣での茶々との会談での功績などは、阿茶自身の努力の賜物だと思うのでかっこいいですよね。
――阿茶局を演じるうえで意識されていることはありますか。
まず意識したのは、政や戦の評定の場に、女性である阿茶がいてもおかしくないような佇まいでいること。衣装や所作などで女性らしさを伝えつつ、男社会の中でも負けじと戦う姿を表現したいと思いました。
ただ、単に男っぽく見せればいいということではないですし、シーンによってニュアンスを変えたり、殿(家康)と2人きりのシーンでは側室としての一面を見せたり。茶々とのシーンでは、阿茶がちょっと嫉妬するところも垣間見えるので、そこは女性らしいしぐさや感情を表現できたらいいなと思って演じています。
――家康と阿茶局の関係についてはどのように捉えて演じていますか。
繰り返しになりますが、阿茶は家康の側室であり側近でもあるので、男女としてのパートナーである一方で、仕事の面でも支えている関係です。
そこには家康からの絶大な信頼もあったでしょうし、家康亡き後もさまざまなことを阿茶は任せられていたそうなので、強い意志を持ちながら殿を支え、徳川家を支えていたのではないでしょうか。
その点、戦の話し合いの時などの目線の使い方は、ふつうの側室とは異なります。阿茶が自分の意見を言う時は、しっかりと殿の目を見て話す。彼女なりの気持ちをぶつける意味でも、そこは私も遠慮せずに演じていけたらと思います。
ただ、阿茶は決して完璧な人間ではなく、心のうちがついあふれ出ちゃうところは人間味があって魅力的だなと感じます。単にかっこよく見せるのではなく、愛されるキャラクターでもありたいと思うので、阿茶の人間っぽさを楽しんで演じていきたいですね。
――松本さんと共演されてのご感想を教えてください。
出演のお話をいただいた時、ちょうど「どうする家康」を見ていて、「このドラマに出演できるんだ、うれしいな」と思っていたんです。そして、いざ撮影現場に行ったら、私が見ていた家康じゃなくて(笑)。
とても風格のある、いわゆる歴史で学んできた徳川家康そのものというイメージだったんです。放送よりもだいぶ先の回を撮影しているので当たり前のことなのですが、歳を重ねて人格も変わってきている姿に驚いてしまいました。
その姿に至るまで、家康がどんな道を歩んできたのか。自分なりに調べたり、並行してオンエアや台本を読んだりしながらすり合わせていくと、さらに面白くなっていきましたね。
松本(潤)さんは、「どうする家康」に対する愛情がとっても深い方です。撮影においても常に先のことを考えていますし、共演者のことも「やりづらくないですか?」といつも気にかけてくださって。殿としても役者さんとしても、そうやって寄り添ってくださるので、私のような途中参加組としては本当に温かくて入りやすい環境でした。
――阿茶局の見どころを含めて視聴者の方にメッセージをお願いします。
家康はどういうふうな人生を全うするのか――。阿茶は、その瞬間を最後まで見届ける女性であったと歴史的に伝えられているので、家康も彼女のことをすごく愛していたでしょうし、とことん殿を支えていきたいと思います。
物語も最後のクライマックスに向けて、怒涛の展開が待ち受けています。松本さんの熱い思いに応えられるように、私も阿茶として精いっぱい生き抜きたいと思いますので、最後まで見守っていただけたらうれしいです。

松本若菜(まつもと・わかな)
1984年生まれ、鳥取県出身。2007年に俳優デビュー。NHKでは、大河ドラマ「麒麟がくる」、「探偵ロマンス」などに出演。12月16日・23日放送の「デフ・ヴォイス 法廷の手話通訳士」、来年1月3日放送の「正直不動産スペシャル」、1月9日から放送の「正直不動産2」にも出演。