女丈夫の活躍に見る「戦国の美学」とは?
見た蔵 センパイ! 今回もボクです! 「天下分け目」と聞いて、駆け付けました!
同 門 キミは真田信幸(吉村界人)か?(笑)。ではさっそく行こう。
見た蔵 今回は「女丈夫」の活躍がまず印象に残りました。
同 門 一人は東軍についた真田信幸の妻で、本田忠勝(山田裕貴)の娘の稲(鳴海唯)。
見た蔵 信幸の父・昌幸(佐藤浩市)は三成方につこうと信濃の上田城に戻る途中で、息子の居城・沼田城を乗っ取ろうと考えるんですね。
同 門 ところが夫の留守を預かる稲は一歩も引かない。
いくさの天才・信幸にしてみれば、稲がいくら男勝りとはいえ、沼田城を落とすのは簡単だったと思うんだ。でも彼女の意気に心打たれて、攻略をあきらめた。
見た蔵 いいシーンでしたね。昌幸は孫たちの顔だけ見て立ち去りました。佐藤浩市の寂しそうな演技がぐっと来ました。
同 門 嫁の守る城を落とすなんて、武士の沽券にかかわると昌幸は思ったんだろう。きっと本田忠勝へのリスペクトもあった。敵をただ倒せばいいってもんじゃない。これが私の大好きな「戦国の美学」なんだよな~(笑)。
見た蔵 もう一人は千代(古川琴音)。ドラマの前半では武田の間者でした。
同 門 不幸な境遇のために、間者という陰の存在として生きて来ざるを得なかった。しかし鳥居元忠(音尾琢真)といういいパートナーと出会い、徳川家の重臣を支える妻として、表舞台に立つことができた。伏見城攻防戦でも大活躍だ。
見た蔵 古川琴音の武者姿は凛々しくてカッコよかったですよね!
しかし伏見城は落とされ、二人は討ち死にです。でも千代は「ようやく死に場所を得た」と、夫に礼を述べていました。これには泣けたなあ。
同 門 家康(松本潤)は、わざと伏見城を手薄にして、三成(中村七之助)に攻めさせたんじゃないかなあ。そうなれば元忠は当然徹底抗戦だ。
結果として敗れたものの、元忠は西軍をてこずらせ、東上を10日間以上遅らせた。それはその間に東軍が合戦の準備を万全に進めるための作戦だったと思う。
見た蔵 家康は伏見城の落城を想定していたんですか? 元忠の討ち死にも?
同 門 そう思う。元忠も十分に覚悟していた。だから城の手勢をわずかにとどめて、それ以外の兵を会津に向かう家康軍に回したんだよ。
このとき元忠は61歳。この時代ではいつお迎えが来てもおかしくない高齢だ。だから畳の上で死ぬよりも、主君に命を捧げて人生に華を添えたかったんじゃないかな。
見た蔵 これも「戦国の美学」ですね~。
東軍をひとつにした、家康の「巧妙なる人心掌握術」
見た蔵 三成の挙兵を知った家康は、諸将を集めて演説をしました。いわゆる「小山評定」ですね。
同 門 でもこの評定の詳細については不明な点ばかりで、研究者によって見解が割れているんだ。なかには、この評定そのものがなかった、という説もあるそうだ。ましてドラマのように、家康のひとり舞台だったかどうかもわからない(笑)。そんなわけで、ここではあくまでドラマの描写に沿って話を進めることにしよう。
見た蔵 ドラマでは、家康の「人間力」によって、東軍がひとつにまとまった、と描かれてましたね。
同 門 「人間力」というか、家康の「人心掌握術」が見どころになっているんだ。まずは、リーダーとして自分の非を認め、謝罪。謙虚な姿勢を見せた。
見た蔵 このいくさにみんなを巻き込み、人質になった妻子を危険にさらしているのは自分の責任、申し訳ない、と頭を下げました。こういうリーダーは少なかったろうから、諸将は驚き、感服したでしょう。三成にはこれができないんだよね(笑)。
同 門 続いて、諸将の自由意志を尊重すると宣言。
見た蔵 「無理強いはせぬ。わしに従えぬ者は、出て行ってもよい」ですね。でもみんないなくなったら、どうするの? 危機に臨んで、勇気ある発言だな~。
同 門 リスクをあえて取った。そしてたたみかけるように、人質を取っている三成を糾弾。「こんな(非道な)男に天下を任せられようか!」。
見た蔵 でもセンパイ、戦国時代は敵方の人質を取るのは当たり前でしょ。家康だって今川の人質でした。でも誰も今川義元(野村萬斎)を非道だとは思いませんでしたよ。
同 門 家康は時代と人心の変化を的確につかみとっていたんだ。人質を取ることは非道、なんて発想は従来の「戦国マインド」から見れば、もちろん邪道だ。
しかし秀吉(ムロツヨシ)が天下人になって10年。国内に大きないくさはなく、世代は入れ替わった。その結果、若い武将の意識が変わってきた。主君への忠義心も薄れてきたんだ。
見た蔵 忠義心で動くのは、さっきの鳥居元忠はじめ、もう徳川の一門だけか(笑)。
同 門 うん、新世代の面々の気分はこうだ。「いまや主君への忠義心だけで、褒賞もなしに妻子を犠牲にして戦うなんて、時代錯誤。まして人質を取って合戦しようなんて、人倫にもとる行為だ。そんな三成を許せるか!」……。
家康は彼らのそんな気分のツボを見事に刺激したんだ。
見た蔵 この発言はすごく支持されました。諸将は満場一致で、東軍につくことになった。家康の狙いは大当たり。
同 門 まあ日本は昔から「同調圧力」の強い国だからね。ひとりだけ「私は立ち去りまーす」とは言いづらい(笑)。家康はそこを読み切っていたんだろう。
見た蔵 そうですね。一方、誰か一人が大声で、「内府殿のために!(三成と)戦いまする!」と叫べば、周りもなんとなく同調しちゃうんですよね。
同 門 本多正信(松山ケンイチ)の目配せに気がついたかな? すでに調略済みの武将を使った「ヤラセ」だよ。家康はここまで思惑通りに進んだのを見て、すかさず締めの言葉を叫ぶ。
「われらが天下を取る!」。
「われ」ではなくて、「われら」という言葉が「肝」なんだよ。
見た蔵 そうか、天下を「われ(家康)」ではなくて、ここにいる「われら」で取ろう、というアジテーションだ。これでみんなの一体感が一気に高まりますね~。諸将は意気揚々といくさに向かって行きました。
同 門 でも最終的には、家康ひとりが天下を取っちゃうんだけどね(笑)。
つまりこの演説は、思惑をうまく隠しながら、人心を掌握するために考え抜かれた、巧妙なものだったんだ。評定が解散した後の本多正信の顔を見た? 「殿、うまくいきましたな」って表情だったろ(笑)。このシナリオは家康と彼の合作だったんだな。
見た蔵 さすがタヌキ、巧妙に仕組まれた「人心掌握術」だったんですね……。
ギクシャクしている西軍に「亀裂の予感」?
見た蔵 ところでセンパイ、家康が上杉景勝(津田寛治)と三成の挟み撃ちに合うんじゃないか、と心配してたんですが。今回のドラマには直接描かれませんでした……。
同 門 私も気になって調べてみた。結論からいうと、上杉は家康に手を出せなかったんだよ。上杉の居城は会津若松。そして上杉の北には最上氏と伊達氏がいる。彼らは関ヶ原のいくさでは、東軍についたんだ。
見た蔵 ははあ、両方とも上杉の敵になったわけですね。だから動けないんだ。
同 門 最上は上杉といくさを始め、伊達は、政宗の娘と家康の六男・忠輝との縁組で同盟が決まったばかり。ちなみに忠輝は阿茶局(松本若菜)の子だよ。
見た蔵 チェッ、アンチクライマックスだなあ。ボクは一週間ハラハラしていて、なんだか損した気分です(笑)。
同 門 でもまあ、歴史をよく知らないぶん、ドキドキしながら次回を待てる。そういう大河ドラマの楽しみかたも「あり」なんじゃないの?(笑)。
見た蔵 そんな上杉の動向含めて、西軍はどうもギクシャクしてますね。小早川秀秋(嘉島陸)は、もろに日和見だし。小西行長(池内万作)もちょっと怪しい。
同 門 真田昌幸も東軍の行軍の邪魔をするくらい。この人は東軍西軍どっちが勝っても真田家が続けばいいので、まあ、日和見だな。
見た蔵 西軍の総大将は毛利輝元(吹越満)。でも彼は、三成と茶々(北川景子)の距離が妙に近くて、ちょっとムッとしてませんでしたか? ジェラシーかな(笑)。
同 門 男女のことはわからんが(笑)、確かに茶々と三成の二人だけで物事を進めている印象だ。輝元としては面白くないだろうな。
見た蔵 茶々は「必ず家康の首を取れ」と三成に耳打ち。輝元としては、「それはオレに言えよ! オレがいくさの責任者なんだから」というのが本音でしょ。
同 門 その一方で家康と三成の二人のリーダーは諸国の大名に片っ端から書状を送って、それぞれの陣営に引き入れようとしていた。これも合戦の一部なんだね。
見た蔵 数百通の書状が全国を飛び交った。家康は「腕が折れるまで書くぞ」と、スゴイ意気込み(笑)。面白いのは、前田利長(早川剛史)が二人の書状を読んで、家康は気前がいいが、三成は家康を断罪するばかり、どっちにつこうか? と迷ってたこと。まさかこんな比較をされるとは、三成は夢にも思わなかったでしょう。
同 門 家康は大きめの見返りを約束したんだろうね。一方、三成にとってこのいくさは「義挙」だから、モノやカネで釣って同志を募ろうなんて考えは全然ない(笑)。人の世の酸いも甘いもかみ分けた家康と、ガチガチの理想主義者でしかない三成との差が、こんなところで出るんだなあ。
見た蔵 さて決戦の地に東西両軍が集結し始めてます。
同 門 ところが秀忠(森崎ウィン)軍が真田昌幸の策略で足止めされ、なかなか到着しない。東軍としてはすぐにでも決戦をしたいんだが、現地にいるのはアンチ三成派の豊臣系武将がほとんど。これは家康にとって困った事態だ。
見た蔵 豊臣系の武将の活躍で勝ったら、徳川の面目が立たないからですね。
同 門 ぜひとも秀忠を加えた徳川軍の主導で勝ちたい。そうでないと勝利の後、豊臣系武将の政治的影響力が大きくなる懸念がある。それは避けたいわけ。
見た蔵 なるほど、家康は勝った先まで考えているのか……タヌキ、さすが!
同 門 見た蔵 さてドラマはいよいよ「関ヶ原の戦い」です。というわけで、みなさん、1週間後にお目にかかりましょう!