政権内の反感を買った三成の「忠義の美学」とは?

見た蔵 センパイ! 今回はボクです! この2週の放送は、石田三成(中村七之助)が准主役でしたね。
同 門 ステラnetに中村七之助のインタビューが出てる。でもここでは私たちなりに、三成像を深掘りしてみたいね。

見た蔵 ではさっそく行きましょう。
まずは唐入りの戦後処理です。三成は悪手を打ちましたね。
ボロボロになって帰国した加藤清正(淵上泰史)と黒田長政(阿部進之介)に対して、「いくさのしくじりの責めは、不問といたします」だって! ハアッ? 「しくじり」?! 何、その態度。アンタは何様? ってみんな怒りますよ(笑)。ボクも腹が立ちました。
同 門 イヤ、私はキミとまったく違う風に受け取ったけどね。あれは三成なりに誠意を尽くした、しかも含みのある発言だったと思うよ。

見た蔵 えっ! なぜですか? 上から目線で、無責任に聞こえたけどな~。
同 門 唐入りの敗戦は、人的・経済的に莫大な損害を日本にもたらした。しかし三成は、現場にはその責任を問わない、と明言したんだ。そこに注目しなきゃ。そうすると、では誰の責任なのか、となる……。

見た蔵 それはつまり……唐入りを命じた秀吉(ムロツヨシ)のことですか?
同 門 うん。それを三成は暗に認めたんだ。でも彼の立場では表立っての秀吉批判は絶対できない。だから言外のほのめかしにした。「暗に」とはいえ、三成が秀吉の非を認めたのは勇気ある行為だよ。
だから清正たちに対しては「みなまで言わなくてもわかってくれますよね?」と、祈るような気持ちだった、と私は想像する。……深読みしすぎかなあ(笑)。

見た蔵 ちょっと突飛な気もします……(笑)。まあ仮にそうだとしても、清正たちは三成の真意にまったく気づかなかったというわけですね。
同 門 察しの悪い面々だから(笑)。彼らは働きが正当に評価されず、武士の誇りを傷つけられたと激怒している。でも本音ではなんらかの補償や恩賞が欲しいんだよ。
見た蔵 落としどころはそこでしょう。三成ら政権トップのミスなんだから……。

同 門 でも三成の本心は、口には出さないけれど、きっとこうだと思うんだ。
「われらは太閤殿下の大恩でここまでの地位を得た。よって殿下の命令で戦うのは『ご奉公』であり、それに対して見返りを求めるのは、『不遜』である!」。
見た蔵 なるほど。忠義心があるなら、四の五の言うな、ですか。
同 門 うん、それに補償でも恩賞でもいいが、わかりやすいのは領地を与えることだよね。でも泰平の日本には、そんな土地はもはや残っていないんだ。

見た蔵 そうか。秀吉は大陸で奪った土地を、恩賞として家臣に分け与える目論見だったんですものね。敗戦の今、できるのはせいぜい茶会に招くくらい(笑)。
同 門 三成自身も秀吉に取り立てられて、豊臣政権の文官ナンバーワンに出世したわけだから、秀吉への忠義心はハンパじゃない。

見た蔵 でも清正たちはそうじゃないですね。もはや豊臣政権とは忠義心で結ばれてはいませんよ。どちらからというと、雇用関係というか、業務請け負いみたいな……。
同 門 でも三成は正反対。武将たるもの、「忠義の美学」に従って行動すべきと思っている。だから私はこの時点では、「三成は間違っていない」、と思っているんだ。
しかしそういう三成の考えは、すでに時代遅れだったのかもしれないが……。


三成たちは「戦争を知らない子供たち」?

見た蔵 結果として、三成は豊臣政権内部の支持を失って、新体制は内側からどんどん崩れていきます。五大老も家康と前田利家(宅麻伸)以外バラバラ。
同 門 五大老の面々も国力の差が大きいよね。トップが家康の250万石。二番手の上杉景勝(津田寛治)の倍以上だ。
見た蔵 だから豊臣政権内でも、家康が国力にモノを言わせて、好き勝手やるんじゃないか、と疑心暗鬼なんですね。

同 門 現代でいえば、国連安保理での拒否権行使かな?
家康にはそんなつもりはない。アンチ豊臣勢力と次々と縁組をして、同盟関係を結ぶ。その目的は彼らの暴発を防ぐため。しかしながら……。
見た蔵 「天下簒奪さんだつの野心あり」と思われちゃうんですね。でも、平和な世になるんなら、誰が簒奪してもいいじゃないですか(笑)。

同 門 かつて家康は、側室の於愛(広瀬アリス)に言われて、「いくさなき世になるなら、秀吉が天下人になってもいいや」と心を決めたことがあったよね。
見た蔵 でも三成としては許せない。合議制を定めた秀吉の遺言を家康が守らないから。
でもその遺言なんですが、ドラマを見る限り、秀吉はマジメに作ったとは思えないんですが(笑)。自分が死んだ後は、秀頼が息災であれば、世がどうなってもかまわない、と言ってましたし。

同 門 でもそれを知らない三成にとっては、遺言は金科玉条。今でいえば憲法だ。だから憲法違反を公然と繰り返す家康と決裂。討つしかない、となる。
見た蔵 結局三成は関ヶ原の合戦に踏み切るわけですね。力ではなく知恵で「いくさなき世」を作りたい、と言ってたのに……。

同 門 彼は桶狭間の合戦の年の生まれだ。大きないくさの経験はほとんどない。40歳になって初めて、関ヶ原という大いくさに臨むことになったんだな。
一方17歳年上の家康にとっては、その40年はいくさに次ぐいくさを生き延びた歳月だ。その経験の量と質は三成の及ぶところではない。いくさの怖さも悲惨さも身に染みて知っている。だから「いくさなき世」を真剣に目指しているんだ。
見た蔵 なるほど。三成は経験が少ないぶん、「いくさなき世」はアタマの中の理想でしかないんでしょうね。

同 門 豊臣政権の三成の同僚も、世代的にいくさの経験は少ないだろう。
見た蔵 「戦争を知らない子供たち」という歌がありましたね。
同 門 古い歌をよく知ってるなあ(笑)。1970年発表のヒット曲だ。でもこの歌の「子供たち」は平和主義なんだが……。

見た蔵 三成は自分の理想に追い立てられるように、いくさの決断をしてしまいます。
同 門 しかし三成にとっては、関ヶ原の合戦は過去の、単なる「領地の奪い合い」とか「天下取り」のいくさとは意味合いが全然違うんだよ。
正義を世に示すための「義挙」だ。もはや勝ち負けは問題じゃない。

見た蔵 さっきセンパイが言っていた「忠義の美学」に殉じる覚悟か……。
そう考えると、ものすごくピュアで真っすぐな人、と言えますね。
同 門 そう。でももう少し知恵をしぼってほしかったなあ。


「タヌキ宣言」の家康は「ズルいオトナ」?

同 門 ちょっと時計を戻して、家康の立場を見てみようか。
見た蔵 方向を誤ったとはいえ、真っすぐな三成に比べると、家康は「ズルいオトナ」に見えますね~。ほとんど「悪役」です。
同 門 泰平のためなら嫌われ者になってもいい、とはらをくくったからね。自分から言ってたもんな、「タヌキは辛いのお」って(笑)。

見た蔵 アンチ豊臣派との同盟も、三成らの逆鱗に触れることは十分承知の上でした。
同 門 もともと本多正信(松山ケンイチ)のアイデア。あえてそれを採用した。非難されたら謝ればいい、と(笑)。
見た蔵 でも糾問に来た三成の使者に対して、武力行使をほのめかしていましたよ。徳川家中には血の気が多い者が多く、言うことを聞かぬ、と。これは挑発行為です!

同 門 まさに三成サイドが懸念していた、国力にモノを言わせた独断専行だな。でもその一方で懐柔策も忘れていないよ。自分の暗殺を企んだ連中に超寛大な処置で済ませただろう? 秀吉や信長(岡田准一)だったら即斬首。イヤ、はりつけかな(笑)。
見た蔵 オトナが得意の「清濁せいだく併せ呑む」ですか。

同 門 結局家康は三成を失脚させ、アンチ豊臣派の暴発を最小限に抑え、自身が政権ナンバーワンの座についた。
見た蔵 「一時の間だけ」って言ってたけど……。そうはなりませんでしたね。
同 門 ただ他の連中と違うのは、将来の政治の安定について熟考していたことだ。
見た蔵 へえ、どういうことですか。

同 門 経済問題の解決だ。具体的には二代目茶屋四郎次郎(中村勘九郎)が提案した、ヨーロッパとの交易に可能性を見ていたんだ。
前にも話題にしたけど、泰平の世になって一番の問題は、武士の大部分が失業者になって、日本経済を圧迫していることだ。
見た蔵 そうでしたね。為政者は、まずそれを解決しなければいけない。秀吉の「唐入り」もその一つでした。

同 門 でも外国への侵略戦争は、国際的に禍根を残すおろかな経済対策だよ。
家康は新たな解決策として、海外交易に目をつけたんだ。交易で外貨を稼ぐというのは、平和的で、いい経済施策だよね。
見た蔵 いくさよりコストがはるかに低いし、新たな西欧の文化も入ってくるし。

同 門 当時のヨーロッパは大航海時代。交易を求めて西欧諸国が、アジアにやって来ていた。香辛料貿易のためのイギリス東インド会社が出来たのがこの年(1600)。
見た蔵 そうか、家康は西欧の経済活動の情報を得て、世界の変化を感じ取ったんですね。アジアの片隅で侵略戦争をやってる場合じゃない……。
同 門 経済が「変化の流れをつかみとる一丁目一番地」というのは、当時も現代も同じだと思うよ。

見た蔵 家康は、経済の安定が「いくさなき世」を維持・継続するための重要なアイテムだと分かっていたんですね。
同 門 うん。さっき西欧の文化という言葉が出たので、トリビアを一つ。
イギリスの劇作家・シェークスピアはこの時代の人だ。代表作の『ハムレット』はこのころ書かれたんだよ。

見た蔵 へえ、題名しか知らないけど……。ああ、「生きるのか死ぬのか、それが問題だ」でしたっけ、有名なセリフのある劇ですね。
同 門 日本で関ヶ原の合戦をしてる最中に、彼はそのセリフを書いていたかも。
見た蔵 なんだか、三成の心境みたいに聞こえます(笑)。


政治力学を読み切った茶々の巧妙なたくらみ

見た蔵 さてここでもう一人のキーパーソン・茶々(北川景子)の登場です。政策に直接口出ししてくると思ったら、もっと陰険な動きをしましたね。まずは三成に「(家康は)平気でウソをつくぞ」と二人の離反をそそのかします。
同 門 でも家康はそう思われても仕方ないんじゃないかなあ(笑)。

見た蔵 さらに三成にこっそり軍資金を提供して支援します。
同 門 しかも家康が上杉を討つために関西を離れた、そんな絶好の機会だ。
見た蔵 しかしなぜ茶々はこんな行動に出るんですか? またいくさで「世が乱れる」じゃないですか。よくわかりません。

同 門 茶々としては、まだ幼い秀頼が、成人して盟主を全うできるようになるまで、10年間くらいかな、豊臣政権が平穏に持ってくれればいいんだよ。
茶々がいちばんイヤなのは、その間に豊臣政権が揺らぐことだ。現状でその火種は家康と三成の対立だろ? 一時世が乱れても、彼女はこれを早めに潰しておきたいんだ。

見た蔵 でも三成を支援したと思ったら、家康にSOSを出したじゃないですか。
同 門 ここが茶々の超クレバーなところだよ。二人をわざと衝突させる。しかも彼女の計算では、どっちが勝っても絶対損はしないんだ。

見た蔵 そんな……。どっちかを支持しているわけじゃないんですか?
同 門 うん。三成が勝てば、豊臣政権は盤石。茶々からすれば、真っすぐなだけの三成なんて、ちょろいもんだ。政権は思い通り。家康の所領を没収して唐入り組に分け与えれば、彼らの不満もひとまず解消できる。
家康が勝てば、三成よりは手ごわいものの、秀頼による「いくさなき世」実現というタテマエを突きつけておけば、なんとか意のままになる。そう踏んでいるんだろう。

見た蔵 なるほど~。さすが生半可なキツネじゃないや(笑)。
しかしセンパイ、徳川軍は上杉軍と三成軍に挟み撃ちにされそうです。そうしたら家康軍に勝ち目はないですよ!
同 門 そうだよね。私たちは関ヶ原の合戦は徳川勝利と知ってはいるものの、家康がどうやってこの危機を乗り越えるのか、次回が待ち遠しいね。

同 門 見た蔵 それではみなさん、次のレビューは1週間後です。お楽しみに!