大河ドラマ「どうする家康」で、石田三成を演じる中村七之助。
秀吉亡き後も、豊臣家随一の頭脳の持ち主として政務を担う三成。
しかし、秀吉への忠義を重んじる三成は、ついに家康と対立した。
中村七之助に三成役への思いや、親友・松本潤との撮影エピソードを聞いた。


――「どうする家康」の出演が決まったときの率直なお気持ちを教えてください。
出演が決まったときは「僕が石田三成役でいいの?」と思いましたね(笑)。今作で主演を務める松本(潤)は、高校の同級生で長年共に歩んできた友なので、出演したい気持ちはありましたが、出られたとしても少ない出番かなと。それがまさかの石田三成役! 本当にびっくりしました。


――実際に松本さんと共演されたご感想を教えてください。
松本とはバラエティー番組での共演は過去にあったんですけど、お芝居での共演は初めてなので、とにかくうれしかったです。

ただ、大河ドラマの主演は苦労も多いと思います。俳優人生の中で、同じ役を1年以上演じることはなかなかない経験ですし、家康の若かりし頃から晩年まで演じるわけですから大変だと思います。

僕がクランクインしたときは、家康はすでにひげを生やし、その雰囲気も1年以上演じているだけあって、しっかり役が腹に落ちているなという印象でした。さらには、現場の士気を上げるために、率先してコミュニケーションを取って、冗談を言ったりもしていましたね。

しかも、パッとお芝居に切り替える速さと集中力は、さすが1年間培ってきたものがあるなと感服しました。改めて、役者としての変化、成長というものを実感しましたね。


――石田三成の人物像についてはどのように捉えて演じていますか
石田三成は、悪役とまではいかないですけど、少し堅苦しいといいますか。戦いにおいては頭脳では活躍するけど、体を張って武功を立てるというイメージはなく、最終的に関ヶ原の戦いで負けてしまったこともあり、そこまでいいイメージを持っていませんでした。

ただ、最近になってから三成像もどんどん変わってきていると聞いています。今作の三成も、実は家康と同じ思想を持っていたのではないかという一面が描かれていて。戦に対する思いも、強い弱いとか、土地を奪うとかではなく、“民のために戦のない世を目指す”ということが根本にあるんですよね。

特に、三成が登場してすぐの頃は、家康と三成は同じ方向を向いているという脚本になっていたので、僕自身もすごく演じやすかったです。

2人の最初のシーンは、一緒に星を見て語り合う場面(第35回)でしたが、家康の家臣たちが「我が家中には、ああいう話ができる家臣はおらんからな」「殿は戦の話などではなく、ああいう話がしたかったお人なんじゃな」と会話をしていて、とても印象に残っています。

家康とは身分が全く違うけれど、手を取り合って共に安寧の世を作り上げる同志なのではないか――視聴者の方にも、2人の関係がそんなふうに映ったのではないでしょうか。

天下分け目の戦いで対決した家康と三成という固定概念があるかもしれないですけど、同じ道を歩もうとしていた2人の姿と、松本と僕が若いころから切磋琢磨してきたバックボーンがあることも頭の片隅に置きながらドラマを見ていただけると、よりエンターテインメントして楽しんでいただけるのではないかと思います。


――三成を演じるうえで意識されていることはありますか。
第39回で、三成は秀吉に「天下人は無用と存じまする。豊臣家への忠義と知恵ある者たちが、話し合いをもって(まつりごと)を進めるのが最もよきことかと」と自らの考えを進言しました。そんな三成に秀吉は「治部、やってみい」と告げたものの、内心では「政はそんなに甘くないよ」と思っていたと思います。

一方の家康は、自らが目指す道と三成の考えには通じるものがあると賛同してくれていましたし、新しき世の政を最後まで支える姿勢を示してくれていました。ただ、三成に足りなかったのは、皆をまとめ上げる力でしたね。

頭脳はすばらしいものを持っているけれど、人の気持ちがわかっているようでわかっていない。三成は、朝鮮出兵でフラストレーションがたまった豊臣家の家臣たちの苦しみを理解することができませんでした。それは、三成自身が挫折を知らなかったからなのかもしれません。

家康は幼いころから人質として生き、何度も死ぬ思いをしてきました。自分より才能のある人間に打ち勝つのか、それともその人間にしたがうのか。そういう選択を幾度も迫られ今に至る家康は、苦労の道を歩んできたと思います。

家康と三成の理想は同じかもしれないですが、2人にはこういった経験の差がありました。ただ、三成という男はまっすぐに突き進んでいく人間です。やり方は間違っていないんだけど、“でもそのためには……”という詰めの甘さがあるのかもしれない三成ですが、彼のまっすぐな人間性を意識しながら演じようと思っています。


――第40回で家康と決別するシーンを演じての思いを教えてください。
家康と出会ってからずっと彼のことを信頼していた三成ですが、ほかの五大老から「徳川殿は、たぬきと心得ておくがよい」と、茶々からも「あのお方(家康)は平気で嘘をつくぞ」と言われ、最初はそんなことはないと思っていたけれど、だんだんと気持ちが揺らいでいきます。

そして、秀吉の遺言に背き、天下を取ろうとする家康に対し、ついに三成自身も「家康はたぬきだ」と認識を改めました。土地や名誉しか興味がない連中の中で、家康だけは自分と同じ志を持っていると信じていた三成にとっては、つらかったと思います。

袂を分かつ時、三成は家康に「私と家康殿は違う星を見ていたようでございます」という言葉を伝えました。心の底からこの人と一緒に豊臣家を支えていくと思っていたでしょうから、とにかく無念だったでしょうね。


――この先、関ヶ原の戦いが待ち受けていますが、見どころを教えてください
関ヶ原の戦いは、三成の中では勝てるという算段があったと思います。ただ、本当は戦いたくなかったはずです。それでも腹をくくり、「ここまで来たら家康を滅ぼす」という一心で覚悟を持って臨んでいったと想像します。

今作は、今までの家康のイメージとは違う新しい家康像を描いた作品です。その中で三成においても、今まで見たことがない人物像として描かれていると思うので、ぜひ最後まで楽しんでご覧いただけると幸いです。

中村七之助(なかむら・しちのすけ)
1983年生まれ、東京出身。歌舞伎俳優。1987年、二代目中村七之助を名乗り初舞台。NHKでは、大河ドラマ「元禄繚乱」「いだてん~東京オリムピック噺」、「令和元年版 怪談牡丹燈籠Beauty&Fear」などに出演。