秀吉の暴走を止められない、家臣の「忖度」と「保身」
見た花 センパイ! お久しぶりです!
同 門 おお、今回は見た花クンの出番だね。
見た花 38回、39回は大陸のいくさの話より、秀吉(ムロツヨシ)の、心身ともに衰えた晩年にスポットが当たっていましたね。
同 門 驚いたのは秀吉が家康(松本潤)と茶々(北川景子)から、「サル!」呼ばわりされたことだ。このドラマの秀吉が嫌いなキミは、スカッとしたんじゃない?
見た花 いやあ、そうでもなかったです。
耄碌しているのか、芝居を打っているのかわからない。けれども目はランランとして、全身から異様なエネルギーを発していて。なんとも不気味な姿でしたからね。
同 門 ステラnetに、ムロツヨシのインタビューが出てるけど、彼の芝居は、迫力があった。
見た花 もう、スゴすぎて! 夢に出てきそうです(笑)。
同 門 さて二人の「サル!」発言だが、茶々については後で触れるとして、家康の発言は、「為政者・権力者として、政治をキチンとやってほしい」という諫言だ。頭に血が昇って、口が滑ったんだろう。バカにする気は全くない。だから秀吉は怒らなかった。
見た花 そうですねえ……。秀吉の暴走ですが、やはり家臣団の責任が大きいですよ。あの無謀な「唐入り」を誰も止めなかったんですから。浅野長政(濱津隆之)だけじゃないですか。正面切って秀吉を批判したのは。
同 門 長政は実際朝鮮国で戦ってきた人だからね。現地の様子や、正確な戦況、今後の見通しなど、相当な見識を持っていた。その上での発言なんだが……。
見た花 秀吉の怒りを買い、あやうく手討ちにされるところでした。
同 門 石田三成(中村七之助)も情けないな。秀吉の機嫌に「忖度」して、いくさが不利という情報を伝えなかったんだから。情報統制は独裁政権の常とう手段だけど、あくまで国民向けだ。トップは、自分がそれをされるのは許さない(笑)。
見た花 ホントのことを言って手討ちになるのが怖かったんでしょう(笑)。これは「忖度」というより「保身」ですねえ。でもそういう三成像は寂しいなあ。中村七之助が演じる真っすぐで爽やかな三成が好きだったのに……(涙)。
同 門 命を惜しんで、主君に諫言しない臣下は、そもそも「不忠」なんだけどな。でも秀吉は自分でも認めてたね。自分には家康のようないい家臣がいない、と。
見た花 そういえば、家康一門の合議はいつも議論でガヤガヤしてる印象です。主君への反論は自由、忖度したり保身に走る部下はいなさそうです。
同 門 そういえば、昨今のビジネス界では、「職位を問わず自由にモノが言える企業は伸びる」というよね。家康一門は現代ビジネスを先取りしていたのかも!(笑)。
茶々の「サル!」発言は、苦しみの果ての叫び?
見た花 末期の秀吉に、茶々は「秀頼はあなたの子だとお思い?」という爆弾発言をぶつけました。
同 門 たじろぐ秀吉に向かって続くのが「秀頼はこの私の子、天下は渡さぬ。後は私に任せよ」、そして「サル!」呼ばわりだ。
見た花 「エッ、秀頼はオレの子じゃないの?」と、秀吉にショックを与えた後に、とどめの一撃!(笑)。この「サル!」には、秀吉の出自の低さをあざけった、明らかに敵意がこもっていましたね。まるで絶縁状。
この時彼女は権力欲に覚醒したんです。それまでの無邪気な彼女は消え失せて、新たな人間に生まれ変わったんですよ。
同 門 秀吉に引導を渡したわけだ。秀頼の父親は誰なのか、知らさぬまま……。
見た花 秀吉はずっと子どもに恵まれなかったんですね。側室もたくさんいたのに。ところが茶々が側室になったとたん、後継者が生まれた。周囲もいぶかしく思いますよね。「これ、ホントに太閤殿下の子なの?」って。
同 門 秀吉自身も半信半疑だったかも。でも自分の子と信じて溺愛したんだよな。茶々の「あなたの子?」発言を聞くまでは……。真相を知らずに亡くなるのもキツイよね。
見た花 ワタシは秀吉の子と思っていますけど。でも、茶々本人が産んだ以上、彼女にとっては、誰の子でも関係ないんですよ。
同 門 ふーん。それは後で聞くとして、茶々の「天下取り」宣言にはビックリだ。これまで「大陸で虎や獅子が見てみた~い!」とか無邪気な発言をしていた彼女が、いきなり権力志向をむき出しにした。大変身だ。
見た花 ワタシの見立てでは、もともと茶々の中には、そういう気持ちが前々からあったんです。彼女が長いこと持っていた「秀吉憎し」の感情が、彼の末期に立ち会って、一気に噴き出したんだと思う。それが彼女を変えたんです。
そしてそれは、一方で彼女の長年の苦しみの果ての、心の叫びだったんじゃないかな。
同 門 それはどういうこと?
見た花 本人も家康に打ち明けていましたが、秀吉に対する二つの感情がずーっと彼女の中で同居していたんですよ。
家康対茶々のやりとりは、タヌキとキツネの化かし合い?
見た花 まず秀吉は父の浅井長政(大貫勇輔)と母の市(北川景子・二役)を亡き者にした「仇」でしょ。その一方で、秀吉は彼女を庇護して、愛してくれている「恩人」……。その相反した感情の板挟みに彼女はさいなまれてきた。苦しかったと思いますよ。
同 門 そうか。秀吉の死によって、茶々はその板挟み状態から解放された。そして信長(岡田准一)含めた織田家の「天下人」遺伝子が彼女を駆り立てるようになった、ということだね。だったら秀頼が誰の子でも、もう関係ないんだな。
見た花 それまでは感情に振り回されるだけの、無邪気な人だったと思います。
秀吉の生前、彼女が突然家康に取りすがって、「お慕いしてもようございますか」とか、「守っていただきとうございます」とか言ったことがありましたよね。これは本当に、彼女の寄る辺ない感情から噴き出た、ピュアな言動なんです。
同 門 なるほど。でも、「父として慕う」とは言ってたけど、なんだか家康を誘惑しているように見えたね。
見た花 そこを警戒する人がいるんですよ。家康の側室で軍師でもある阿茶局(松本若菜)が典型。阿茶局から見れば、茶々は豊臣政権を脅かす獅子身中の虫なんです。
同 門 秀吉の重臣の浅野長政の懸念もそこだよね。茶々は秀吉にとりついている「キツネ」で、「唐入り」を秀吉にけしかけたのは茶々だと。
見た花 阿茶局の見立てはこうでしょう。茶々は家康に「ハニートラップ」を仕掛けている。家康がうっかり彼女と関係を持ったら、家康は彼女に振り回される。秀吉がこれを知ったらいくさになりかねない……。豊臣政権は、そして天下はメチャクチャになる、と。
同 門 だから阿茶局はキツイ牽制球を茶々に投げ込んだんだね。「殿下にとりついたキツネを見つけたら退治しようと……」。茶々は全然意に介していなかったけど(笑)。
見た花 それはそうですよ。この時点での茶々は家康に力になってほしいだけなんだから。他意はないんです(笑)。
でも彼女に色仕掛けの意図はなかったとしても、結果として家康はトラブルに巻き込まれかねません。
同 門 なるほど。しかし幸い家康のリスク管理は万全だった。対応によっては、キミがいうような事態になりかねないのは十分わかっている。だからうまくかわしたね。
「私にできることあらば、何なりと」……。逆に取れば、「できないことはいたしませんよ」だ。玉虫色の答えで、とりあえずこの場をしのいだ。なんとも「オトナ」の対応だなあ。
見た花 なんだか「タヌキ親父」っぽいですけどね……。
同 門 うん。詰まるところ、キツネとタヌキの化かし合いだったんだよ(笑)。
家康・三成の「豊臣新体制」を、茶々がぶち壊す!?
見た花 秀吉の死後、豊臣政権は体制を一新しました。
同 門 三成の発案による、「合議制」の政体だ。
家康や前田利家(宅麻伸)ら、有力大名5人からなる「五大老」と、三成や長政ら、豊臣家の重臣5人からなる「五奉行」からなる政治体制。
見た花 死期の迫った秀吉が、三成のこの提案にOKを出しました。でも秀吉は家康に漏らしていましたね、「うまく行くはずがねえ」と。実際その通りになったんでしょ。
同 門 2年後には「関ヶ原の合戦」だからね。老いたとはいえ、リアリスト(現実主義者)秀吉の慧眼はすごい。
見た花 その辺の、「うまく行かない」経緯がこれからドラマで描かれるんでしょうね。
同 門 そうだね。二人でちょっと次回以降のドラマの行方を占ってみようか。
家康や三成以外のメンバーは、「揉め事はいくさで解決する」という、「戦国マインド」が骨の髄までしみ込んでいる面々だから、そもそも「話し合い」を「平和的」に進めるノウハウなんて持っていないだろう。うまく行きそうにはないよね。
見た花 すぐ感情的な対立になりそう(笑)。利家は人格者っぽいから大丈夫かな。
同 門 まして「いくさなき世」と言われても、何のことかわからないのでは?(笑)。
見た花 センパイ、そもそもこの体制の目的は、豊臣政権の維持でしょ。盟主はあくまで秀頼。幼い彼を補佐するためにこの体制がある、ということですよね。
今後ここに茶々が口を出してくると思いますよ。秀吉の最期を看取りながら、権力に目覚めちゃったんですから。幼い盟主の母として、権力を振りかざしてくるのではないかな。秀頼を盾にすれば、どんな無茶な命令をしても、臣下は逆らえない。政治は荒れそうですよ。
同 門 なるほど。今後の展開のカギを握るのは茶々か。彼女の「大暴れ」がドラマを引っ張る、というのがキミの「読み」なんだね。
見た花 ハイ、でもワタシとしては、茶々が家康や三成をドンドン困らせてほしいだけなんですよ。オタオタする家康や三成をもっと見たいから(笑)。
同 門・見た花 今回はここまで。次回は2週間後の予定です。みなさん、またお目にかかりましょう!