大河ドラマ「どうする家康」で、豊臣秀吉を演じたムロツヨシ。
第39回、天下人にまで上り詰めた秀吉だったが、無念にもこの世を去った。
これまで演じてきたムロに、秀吉と家康の関係や撮影の舞台裏を聞いた。


――第39回、秀吉の最期を迎えての思いを教えてください。
毎回台本をいただくたびに思いも寄らない秀吉像に驚かされてきましたので、古沢良太さんが秀吉の最期をどのように描いてくださるのか、すごく楽しみにしていました。

実際、第39回の台本を読んだときは、天下を取った男の最期として、とてつもなく悲しい終わり方だなと思いましたね。

今作の秀吉は、自己分析能力が高く、予知能力にも優れた人物だったと思います。野心もさることながら、とにかく計算高い。そう人物像を捉えると、秀吉が道化を演じたり、周りから猿と呼ばれたりすることも、すごく腑に落ちたといいますか。秀吉はポイントポイントでの登場でしたが、しっかり点と点が一つの線でつながり、僕も演じやすかったですね。

第39回の秀吉と家康の最後の会話では、自分が予知していたことが家康にも見えていることを秀吉は認めましたし、やっと本音で話せたと思うんです。2人にしかわからない天下――それを成し遂げた秀吉と、これから成し遂げようとする家康との最後のシーンは、僕にとっても大きな財産になりました。

実際、家康演じる松本(潤)さんとも、この最後のシーンを演じる前に2人きりで話をする時間を設けさせていただきました。松本さんのほうから「一緒に意見をすり合わせたい」と言ってくださって。

その前の第38回のシーンから2人で話をしていたのですが、敵対関係だった秀吉と家康は次第に互いをわかり合う関係性になっていったんですよね。その変化を表現するうえでも、台本を超えなければならないところがたくさんあったので、松本さんと意見を出し合ったり、相談しながら演じさせていただきました。


――秀吉から見た家康は、どのようなものだったと想像されますか。
ドラマ前半は、信長様に認められていた家康に対するうらやましさもあったでしょうし、ある意味ではライバル関係だったと思います。

そこには友情はありませんでしたが、第39回で秀吉は家康に「わしは、おめえさんが好きだったに」と伝えました。きっとこれは本心だったと思います。嫉妬もあったけれど、それ以上に家康のことを認めていたのではないかと。

おそらく嫉妬だけだったら、秀吉は天下を取れていなかったと思います。認めているからこそ戦いに負けても、自分が天下を取るために成すべきことをすぐさま計算して実行する。その秀吉のスピードは、群を抜いていたと思います。

プライドさえも捨てることができるゆえに、恐ろしいくらいの予知能力と自己分析能力を持つ秀吉は、家康よりも先に天下人へ上り詰めることができたのかもしれないですね。


――改めて実感した松本潤さんの魅力はどんなところでしょうか。
松本さんはとてつもなく強い責任感があります。一人の役を演じるだけではなく、「どうする家康」という一つの作品に対する責任感は誰よりも強いことを感じました。

これまで松本さんとは、役者以外のお仕事でもご一緒させていただいたことがありますが、それとは違い、主演として、出演者、スタッフ、いろいろな人たちの思いを背負う姿というのを見せていただきました。

そこまで背負わなくてもいいのにと思ってしまうくらいなのですが、その松本さんの姿がとてもかっこよかったですし、どういう芝居をしようかと考え抜く姿も彼の魅力なんだと感じました。時には弱音も吐きますし、そういった人間味のあるところが松本さんの“役者味”であり、とてもすてきだなと思います。


――秀吉亡き後のドラマの展開に期待することを教えてください。
第39回で、最後に秀吉は家康へ「うまくやりなされや」と告げました。この言葉にはいろいろな思いが込められていますが、次の天下人になるのは家康だということを秀吉は読んでいたんでしょうね。

関ヶ原の戦いまで予知していたかは別として、どんな争いが起ころうとも、最後に天下人になるのは家康だと。

そして家康が天下を取った後、彼がどういう道を歩んでいくのか、秀吉は楽しみにしていたと思います。本当に戦なき世を実現できるのか、そのためにどんな策を講じるのか。そんな思いを抱きながら、秀吉は天へ行ったのかもしれません。

今後、再び秀吉を演じる機会があれば、ぜひ演じたいですね。僕自身、「生まれ変わっても自分に生まれたい」と思える人生を送りたいと思っている人間なので、今回若かりし頃から死ぬまで演じさせていただいた秀吉を、もう一度演じたいなと思いました。

そのときは、もしかしたら「どうする家康」とは違った秀吉になっているかもしれないですね(笑)。

ムロツヨシ
1976年生まれ、神奈川県出身。NHKでは、大河ドラマ「平清盛」「おんな城主 直虎」、連続テレビ小説「ごちそうさん」「らんまん」などに出演。