於愛に学ぶ(?)アンガーマネジメント。

見た蔵:センパイ! 今週はボクです!
同 門:今シーズンは兄妹で交代制なの? まあ、さっそく本題に入ろう。

見た蔵:36回「於愛日記」。於愛(広瀬アリス)の出番はこれで終わりなんですね。
同 門:秀吉(ムロツヨシ)との講和に続いて、今回於愛は千代(古川琴音)と鳥居元忠(音尾琢真)の結婚、稲(鳴海唯)の真田への輿入れ、という二つの大きな問題を見事解決したね。

見た蔵:於愛といえば、彼女がひどい近視という設定は、何なんだろう、と不思議に思っていたんですが。
同 門:そうだよね。目が悪い分、心の眼がはるか先を見据えているから、家康(松本潤)や家臣たちの手に余る問題を解決できた、という筋立てなのかと思っていた。

見た蔵:ところが番組ラストのミニ番組「どうする家康ツアーズ」で紹介された、彼女の菩提寺に残る資料によると、目が悪いのはフィクションじゃなかったんですね(笑)。
同 門:うん、しかも同じ境遇の不自由な人々を支援していたと。きっと心優しい人で、領民にも慕われていたんだろう。

見た蔵:冒頭から彼女が家康の側室になる前の人生が描かれました。前の夫が戦死して、子どもを手放さざるを得なかった。不幸のどん底にいたんですね。
でも一念発起して、「偽りでもいいから笑顔でいよう」と決意した。家康は尊敬するけど、慕ってはいない……。この辺がグッときました。家康を救ってきた彼女の笑顔にはそういう秘密があった。
(36回「於愛日記」NHK公式2分動画はこちら)
同 門:先日、脳科学の入門書を読んだんだが、「怒りや不安など、不快な感情にとらわれたときは、口角を上げて、笑顔を作ってみなさい」と書いてあったんだよ。

見た蔵:なんか、於愛みたいじゃないですか。
同 門:そうすると、脳に顔の表情の情報が行く。脳は情報を受けて「アレ? 今自分は愉快なんだ」と錯覚するんだって。で、錯覚した脳の指令によって、マイナスの感情は消え、穏やかな優しい気持ちになる、というんだよ。

見た蔵:へえー、於愛は現代の脳科学を先取りしてたということですかね。彼女が常に前向きに生きられたのには、そんなコツがあったんでしょうか。
同 門:この間夫婦喧嘩の後に試してみたんだが、効いたような気がした(笑)。

見た蔵:ちぇっ、「犬も食わない」ってやつですか。せいぜい仲良くやってくださいね(笑)。
同 門:いずれにしても、今後広瀬アリスの笑顔が見られなくなるのは、寂しいねえ。


秀吉無茶ぶりの「国替え」で徳川家臣団を説得! 大久保忠世の大手柄

見た蔵:ここ数回の放送で、秀吉の暴走が加速しています。まずは突然の小田原攻めの指令。
同 門:あれだけ家康に調停を命じながら一転、「北条は滅ぼせ」だからね。

見た蔵:妻の寧々(和久井映見)も手を焼いてます。「殿下にもの申せるのは家康殿と旭殿だけ」だって。そんな無責任な! 妹の旭(山田真歩)にはとても無理……。まずは正室のあなたから何とかしてくださいよ!(笑)。
同 門:まあ秀吉には、誰が言ってもムダだろうけど。
ああそうだ、石田三成(中村七之助)がいたな! 「殿下が間違ったことをなさったときは、この三成がお止めいたします」って明言していた。頑張ってほしいよ(笑)。
ところでいくさに敗れた北条氏政(駿河太郎)の言葉が重いね。「われらはだだ、関東の隅で、侵さず、侵されず、われらの民と豊かに、穏やかに暮らしていたかっただけ……。なぜそれが許されんのかのう!」。

見た蔵:かつて瀬名(有村架純)の「平和構想」にも賛同していたんですものね。
同 門:「天下獲り」の野望はそもそも持っていない。それがかえって秀吉に付け入るスキを与えてしまったということかな。領主としては、かなりの善政をしいて、領民からの信頼も厚かったようだ。

見た蔵:なんとか小田原を落としたと思ったら、秀吉からさらに無茶ぶりです。
同 門:岡崎はじめ徳川の領地すべてを召し上げて、三河家臣団をみな「城持ち大名」に昇格させて、各地に散らばす。家康は江戸に移って街作り、さらに関東・奥羽を仕切れ、だ。

見た蔵:家康一門の弱体化が秀吉の狙いなんですね。江戸の整備も大きな経済的負担でしょうし。
同 門:ところが秀吉の目論見は大外れ。結果として家康は大きな得をしたんだよ。
まず三河家臣団の結束が秀吉の想像以上に固かった。むしろ城持ち大名として各地に散らばることで、家康の「いくさなき世」構想が大きな広がりを持つことになる。
それから、当時一面の湿地帯だった江戸の開発がうまくいった。うまく干拓することで、都市内に水路を張り巡らすことができた。それで物流が活発になって、江戸の経済的繁栄の大きな元となり、徳川の経済的地力を高めることにつながった。
もう一つ、関東・奥羽の仕事に忙殺されることで、家康は秀吉の「唐入り(=大陸への侵略戦争)」に直接参戦しないで済んだんだ。いくさに駆り出された大名たちはかなり疲弊させられたんだが、家康は経済的・人的な損失を免れた。その結果、彼は豊臣政権下での、ナンバー2の地位を確立できたんだ。

見た蔵:でも領地を守り抜いてきた家臣団がよく納得しましたよね。ウルっとさせる名シーンにはなりましたけど、はじめはハラハラしましたよ。そもそもが「暴れ馬」の面々だし(笑)。
同 門:これは大久保忠世(小手伸也)の大手柄だね。みんなをうまく説き伏せた。

見た蔵:でもホントなら家臣団ナンバーワンの酒井忠次(大森南朋)か、残っていれば石川数正(松重豊)あたりの仕事だと思うんですが……。
同 門:どうだろう。忠次は押しが弱い感じだし、数正みたいに切れっ切れの頭脳派は人望がないだろう(笑)。忠世みたいにちょっと抜けていて、情に訴えるキャラならではの結果だよ。人を思わず笑わせちゃう愛嬌もモノを言ったんだね。
見た蔵:自称「(三河あらため)相模一の色男」。どこがですか?(笑)。


跡継ぎの死で自暴自棄。秀吉は新たな暴走へ。

同 門:秀吉はかつて慕っていた市(北川景子)の長女・茶々を側室に入れた。「念願かなって」というところだな。
見た蔵:北川景子が母と娘の二役なんですね。これにはビックリしました。

同 門:家康も驚いていたよ(笑)。「お市……さま?」って。
市は、信長(岡田准一)の妹。ドラマでは信長によって、家康と結婚させられそうになったのを覚えてるかい?
見た蔵:もちろん。ドラマでは二人ともまんざらでもなさそうでしたよ(笑)。でも家康には瀬名がいたから、泣く泣く諦めた、というのが、ボクの見立てです。

同 門:彼女は浅井長政(大貫勇輔)、長政の死後には柴田勝家(吉原光夫)に嫁がされ、やがて秀吉と対立した勝家とともに運命を閉じることになった。気品と信念にあふれ、美しい生きざまを貫いた悲劇のヒロインだ。
見た蔵:登場した茶々は母親と正反対のキャラ。なんたって鉄砲撃ちながら乱入ですから(笑)。よく言えば天真爛漫だけど、感情のままに突っ走りそうな……。次回予告では、何やら不穏当なことを家康に言ってましたね。

同 門:正反対のキャラ二役を演じる俳優も大変だ。でも北川景子はステラnetのインタビューで、「とことん暴れぬきたい」と言っている。ぜひやってください!(笑)
秀吉の死後、茶々は「淀君」として大きな権力を持つことになる。これが政治的混乱を招き、家康にとっても、「非常に困った人」になった、というのが一般的評価。まあそれは先の話だから、ここまでにしておこう。
見た蔵:第37回では、茶々が産んだ鶴松が幼くして世を去りました。秀吉の自暴自棄の笑いが、かえって痛々しかったですね。

同 門:鶴松が生まれたのは秀吉52歳のとき。ほぼ諦めていたときに得た跡継ぎだ。死んだのはその2年後。秀吉のショックは想像に余りあるな。
見た蔵:不可能がなかったこれまでの人生で、初めて味わったつまづきなんですね。

同 門:うん。それをきっかけに秀吉の人生の先行きに暗雲がかかり始める……。心のタガが外れた秀吉は、新たな暴走を始めるんだ。
見た蔵:ギャンブルで負け始めたときに、大きな賭けを打って、さらに負けがかさんでいく、という感じでしょうか。起死回生を狙った大きな賭けが「唐入り」なんですね。

同 門:そう。結果は隣国に大きな被害を与えただけだった。さらに戦後の和平交渉は、秀吉の死後、二代将軍秀忠の時代まで解決しなかったんだよ。
見た蔵:さて、次回の放送はその問題の「唐入り」です。
同 門:このドラマではどんな描き方がされるのかな。絶対見逃せないよ。
同 門見た蔵:それではみなさん、次回のレビューは二週間後です。お楽しみに!

ライター。長年テレビ情報誌の編集に携わる。現在は「『どうする家康』テレビ桟敷談義」を担当。「テレビドラマの見方に“正解はない”」がモットー。視聴者・作り手両方の刺激になるような見方を提案してゆきたい。副業はブルースハーモニカ奏者。東京はもとより、韓国・ソウル、アメリカ・ニューヨークでの演奏経験あり(ただしすべて無報酬……)。


過去の記事>>
【第1シーズン】
第1回:「どうする家康」が「鎌倉殿の13人」から引き継いだものってなんだ!?
第2回:「どうする家康」が“居心地の悪い”ドラマに感じるのはなんで⁉
第3回:家康を諭した於大の方のメッセージが深い!その真意ってなんだ?
第4回:お市の方より今川氏真がおもしろい⁉ってなんだ?
第5回:脚本家・古沢良太が描く織田信長VS.織田信長ってなんだ!?
第6回:立役者は半蔵(山田孝之)ではなく氏真(溝端淳平)ってなんだ!?
第7回:家康より“家”をつくるのがうまかった空誓上人ってなんだ?
第8回:三河一向一揆と本多正信の行動は“複雑系”ってなんだ!?
9回:正信が家康を「大タワケ!」と言い切る理由ってなんだ?
10回:家康の側室問題は続く!?大河で描かれるセクシュアリティーってなんだ?
第11回:家康の「格付け」仲介手数料****万? 風林火山な信玄ってなんだ⁉
第12回:氏真の「悲哀」と義元の「理想」ってなんだ?
13回:浅井長政(大貫勇輔)の信長(岡田准一)に対する本音ってなんだ?
14回:ついに家康(松本潤)覚醒!「信長の野望」で変身した長政と家康ってなんだ?
【第2シーズン】
第1回:夏目広次(甲本雅裕)と家康(松本潤)による「仕掛け」ってなんだ!? 
2回:瀬名(有村架純)のモヤモヤ感と家康(松本潤)の危機ってなんだ?
第3回:瀬名(有村架純)と千代(古川琴音)の背後にひそむ勝頼(眞栄田郷敦)ってなんだ?
第4回:衣裳も家康(松本潤)への脅しも演出!? 信長(岡田准一)の真の狙いってなんだ?
第5回:「長篠の合戦」を見届けた信長(岡田准一)と家康(松本潤)の心中ってなんだ?
第6回:家康(松本潤)が招いた「瀬名(有村架純)の覚醒」ってなんだ?
第7回:家康(松本潤)も勝頼(眞栄田郷敦)もびっくり!?「瀬名(有村架純)の構想」の盲点ってなんだ?
第8回:家康(松本潤)大号泣!?「瀬名(有村架純)=天下の悪女」説を広めたのは誰だ?
9回:家康(松本潤)の「大変身」、そして数正(松重豊)の離反が呼ぶものって何だ?
10回:家康(松本潤)を「戦わずして轟沈」させた真田昌幸(佐藤浩市)の「スゴさ」って何だ?