大河ドラマ「どうする家康」で、茶々を演じる北川景子。
ドラマ前半では、信長の妹・お市を好演した北川が、
第36回でお市の娘・茶々役として再登場。
北川に茶々役への思いや今後の見どころを聞いた。
――茶々を演じることが決まったときはどのようなお気持ちでしたか。
脚本の古沢良太さんは、「茶々はパンクな感じになるといいな」とおっしゃっていて。信長や信玄らがいなくなったあとのドラマ後半にかけて、家康を引っかき回す存在として、茶々も暴れてほしいという思いがあるのだなと感じ、私も張り切って演じさせていただいています。
私が演じる茶々は、20歳から23歳くらいの若かりし頃からの登場です。そのため、多少なりとも若ぶった演技も意識しました。ただ、前半に演じたお市と同様、茶々も大事な役ですし、過去にもそうそうたる俳優の方たちが演じられた役なので、私が二役を務めて大丈夫かなという不安も正直ありました。
私が茶々を演じることが発表されたとき、視聴者の皆さんからのどんな反応があるかは想像つきませんが、見ている方たちが混乱しないように、うまく変化をつけていければと思っています。
まずは茶々の声を若々しくしたりしていますが、自分だけの力で完全に演じ分けるのは難しいので、扮装やかつらなどで変化をつけながら、お市と茶々が違ったイメージになるように作り上げていきました。
――人物像の部分では、お市と茶々の違いをどのように捉えていますか。
お市は、戦国時代の女性にしては珍しく、自分の意見をはっきりと言えたし、強い信念を持っていました。決して大それたことを言うわけではなく、心の中に熱いものを持ちつつ、その場、その場の空気を読みながら発言していたので、良識をわきまえた人物だったと思います。
そこにプラスして、お市は兄・信長に対して強いリスペクトを持っていましたからね。お市としては所々での出演でしたし、10年くらい経過しての登場もありましたが、兄へのリスペクトがベースにあったので、役としてもブレずに最後まで演じることができました。
一方の茶々は、撮影を進めながら次の台本を待っている状況で演じているので、この先どんなことが起こるのだろうという難しさはあります。
関ヶ原の戦い、大坂冬の陣・夏の陣が待ち受けていることはわかっていても、今作では主人公の家康をベースに描かれていくわけですから、その中で茶々がどのように関わっていくのか。今の段階ではわからないので、先の見えない難しさに直面している感じです。
でも、茶々の今の思いとしては、恨みや憎しみ、敵を討つということを生きるモチベーションにしていると思います。信長亡き後、秀吉との後継者争いの果てに母・お市は自害。そのとき、家康の援軍が来ることをお市は待っていましたが、そんな母の姿を見ていた茶々は、母以上に家康が来ることを願っていたのではないかと思います。
お市のほうは、乱世の行く末や立場を考えると家康が来ることは難しいと察していたでしょう。でも、茶々だけは家康が来ることを心から信じていた。だからこそ、あのとき家康が来なかったことをものすごく恨んでいます。
父と母を早くに亡くし、子どものころから大きなものを背負うことになった茶々は、自分の力でたくましく生きていかなければなりませんでした。誰に頼るわけでもなく、自らの力で強くなるしかなかったわけですから、時々おどけたそぶりを見せても、本音の部分は誰にも見せない。
常に自分を演じなければ生きてこられなかった――茶々はそんな強さと危うさを併せ持った人物なのかもしれません。家康への恨みをベースに持ちつつ、茶々の強さを表現していきたいと思います。
――秀吉と茶々の関係についてはどのように捉えて演じていますか。
茶々自身、秀吉に愛されることしか自分がのし上がる方法はないと思っています。きらびやかに美しく振る舞い、とにかく秀吉に気に入ってもらえるように努めています。
茶々の思いとしては、「天下を取りたい」という気持ちが強いので、秀吉が長生きしてくれて、彼の時代が長く続く分には安泰だと感じているはずです。もちろん、茶々にとっては両親を死に追い込んだ秀吉に対する憎しみもありますが、肝心なときに何もしてくれなかった家康への憎しみのほうが強いと思います。
実際、母と別れたあと、自分がここまで生きてこられたのは秀吉のおかげという事実がありますから、この先も彼と共存し、行けるところまで秀吉のことをうまく利用できればと思っているのではないでしょうか。
――秀吉役のムロツヨシさんと共演しての印象はいかがですか。
ムロさんは本当にすごいです。お市役のときから、信長にへつらえて生きていた藤吉郎の姿を見ていたので、そこからの変化はお見事としか言えません。時代の変化とともにちゃんと年を取っていますし、台本で描かれている以上の秀吉を表現されていると思います。
百姓の出でありながら、知恵と才覚、人の懐に入り込む才能で天下人へとのぼりつめた秀吉の底知れぬ強さを見事に表現されています。その中にも、怖さや冷酷さを持った秀吉になっているので、まぢかで見ていてすごく説得力があるなと感じています。
――今後の茶々の見どころを教えてください。
秀吉の側室となった茶々は、自分の置かれた環境の中で上り詰められるところまで行こうという気概で生きています。秀吉と正室・寧々との間には子どもがいなかったこともあり、この先、茶々が男の子を産むことで、一気に立場が変わります。
茶々自身もこの子が秀吉の後継者となれば、自分の父母、そして織田と浅井の血筋が受け継がれていくことに気づきます。「なんとしてもこの子が立派な大人に成長するまでは、死ぬものか」という思いが茶々にも芽生えたはずです。
そこには、両親を含め先祖たちの無念を晴らすために、全てを息子に注ぎ込もうという決意があったと思います。今後、茶々はこの一心で生きていくと思うので、彼女がどのような道を歩んでいくのか注目していただきたいです。
――最後に視聴者の方にメッセージをお願いします。
茶々を誰が演じるかは事前の発表もなく、第36回の放送が初出しとなりました。皆さんは「誰が茶々を演じるんだろう?」といろいろ想像されていたと思います。
これまで描かれてきた物語の伏線において、私が演じるのではないかと想像してくださった方もいたかもしれません。今は、皆さんの期待に応えられるように精いっぱい茶々を演じ切りたいと思っています。
この物語において、茶々は家康にとってのラスボス的な存在になっていくと思うので、最後までとことん暴れぬきたいですね。ぜひ、最終回まで楽しみにご覧いただけたらうれしいです。

北川 景子(きたがわ・けいこ)
1986年生まれ、兵庫県出身。2003年に俳優デビュー。NHKでは、2018年の大河ドラマ「西郷どん」で天璋院篤姫を好演した。