秀吉の「イヤなヤツ」度は歴代ナンバーワン!?
見た花:センパイ! お久しぶりです!
同 門:おお、今回はお兄さんの見た蔵クンに代わって、見た花クンか。
見た花:34回は女性が影の主役。そして35回はワタシの大好きな佐藤浩市演じる真田昌幸が登場ということですから。
同 門:なるほど。じゃ、さっそく始めよう。
秀吉(ムロツヨシ)は家康(松本潤)を懐柔するために、妹の旭(山田真歩)を正室として送り込んできた。夫とは無理やり離縁させたんだ。完全な政略結婚だな。
見た花:前の夫は、ドラマでは「その後行方不明になった」としていたけど、自刃したという説もあるようです。秀吉、ヒドイですよね。なんかどんどん嫌いになっていきます。
同 門:それはムロツヨシの名演技のなせる技だ。秀吉像の「イヤなヤツ」度では歴代大河ナンバーワンかもね(笑)。
見た花:旭は最初は能天気にふるまっているので、「何この人?」と思いましたけど……。その心中はズタズタでしょう。それが於大(松嶋菜々子)や於愛(広瀬アリス)の知るところとなり、家康にも伝わります。しかし家康、気づくのが遅くないですか?
同 門:うん。自分のプライドのことしか考えてないな。於大にも叱られていたね。さらに次の回で秀吉は母親の仲(高畑淳子)まで人質に寄こしてくる。
見た花:高畑淳子! ことし3月までの朝ドラ「舞いあがれ!」の「オヨ~」が懐かしいです(笑)。仲がイケメンの井伊直政(板垣李光人)にメロメロになる場面には笑いました。ちなみにワタシの祖母もイケメン好きで、板垣クン演じる直政にゾッコンですよ(笑)。
同 門:きっと、焼き魚の小骨も取ってあげるんだろうね(笑)。
於愛のひと言で徳川の政策が大転換!
見た花:これまで徳川家中は相変わらず秀吉との決戦論が主流だったんですが、それが於愛のひと言で大転換を迎えましたね。
同 門:「いくさなき世を作るのは、殿でなくてもよいのではないですか?」……。家康にも家臣団にも衝撃が走った。これには私もひっくり返ったよ(笑)。
見た花:でもこれ、石川数正(松重豊)のメッセージそのままですよ。「関白殿下これ天下人」のメモ。……「天下人」が「天下泰平」を実現する人だとすれば、そこにいちばん近いのが秀吉。だったら秀吉に協力すればいいんですから。
同 門:まさに発想の「コペルニクス的転回」だ。
見た花:数正が残した木彫りの仏像。家康は捨てろと言うんですが、於愛は気になって捨てられない。数正はこの仏像に家康の「厭離穢土欣求浄土」の思いを込めていたんですね。
同 門:於愛はそれを本能的に感じ取っていたんだな。仏像には築山御殿の花も添えられていた。瀬名(有村架純)の平和への願いが花開くときが来たんだ。押し花だけど(笑)。私はここでちょっと泣きそうになったよ。
見た花:ワタシもウルっと来ました。結局これで家康も家臣も秀吉の配下になることを納得します。ここは、男たちが「メンツ」とか「意地」とかにとらわれることの愚かさを反面教師的に描いた、名シーンだと思いました。
同 門:家臣団は「あほたわけ」と数正を泣きながら非難して、自分を納得させていた。
見た花:バカみたい(笑)。家康も家臣もホントに「世話の焼ける」人たちです。
同 門:そうだね。ちょっと頭を冷やしていれば、もう少し早く解決してたかも(笑)。
「国家経済」を意識していた秀吉だったが……
見た花:さて第35回「欲望の怪物」。前半は家康と秀吉の「腹の探り合い」でした。家康は秀吉と対等に渡り合っていた印象です。家康もずいぶん成長したんじゃないですか。
同 門:いやあ、まだまだ「青い」よ。家康が帰った後、秀吉は家康の「いくさなき世」構想を鼻で笑ってただろう?
見た花:「いくさがなくなったら、武士をどうやって食わせるんだ?」ですね。
同 門:そうだ。武士の多くが失業者になる。そうなれば日本経済は揺らぐことになる。さて、その時、為政者はどういう対策を取ればいいのでしょうか? 見た花クン、ご回答を。キミ、大学では経済学部だよね。
見た花:ええー、いじめないでくださいよ~(泣)。そうだなあ、まずは新しい産業を立ち上げて、雇用を創出する。もう一つは、貿易を盛んにして、この時代は南蛮貿易ですか、外貨を稼ぐ。こんなところでしょうか。
同 門:いいね! でもどちらも時間がかかりそうだ。もっと安直にできる、第三の方法がある。ドラマの中でも暗示されていたよ。
見た花:あ、わかった! 対外侵略戦争ですね。武士は失業しなくて済むし、相手国の資産を略奪すれば、日本経済にもプラスになる。相手国の人権を蹂躙するヒドイ発想だけど……。
同 門:そういうこと。これが後のいわゆる「朝鮮出兵」だ。
見た花:結果として隣国に禍根を残しただけの、秀吉の生涯最大の愚行といわれています。
同 門:まあ、秀吉としては、考えなしに手っ取り早い手段に飛びついたということだろうね。家康の「いくさなき世」構想の実現は、そう簡単にはいかないわけだし。
いくさも外交も天才的! 真田昌幸の「スゴさ」とは?
同 門:さあここで、キミの大好きな佐藤浩市演じる真田昌幸の登場だ。
見た花:そうなんですけど、なんだかゴネまくっているメンドウな年寄りって感じで、ちょっとがっかりかも(笑)。兄の見た蔵も「何だこいつは!?」と怒ってました。
同 門:キミたち、見方が浅い! 彼は会談に先立って完璧なシナリオを用意していたはず。天才的外交術を披露した、佐藤浩市ならではの見事なシーンだったんだよ!
見た花:そうかなあ? そもそも紛争の原因となった沼田領って、なんですか?
同 門:今の群馬県の真ん中辺だね。もともと武田氏の領地だったんだけど、武田氏が滅んだ後、空白地帯になった。で、ここを巡って上杉氏と北条氏が小競り合いをやって、結局北条氏が手に入れた。そこで昌幸の登場だ。得意の謀略を巡らして、乗っ取ったというわけ。
信長(岡田准一)亡きあと、歴史的経緯から、ここはやっぱり北条の領地だろう、となって、関東を仕切ることになった家康が、北条に返すよう真田に命じた。しかし……。
見た花:昌幸はハナから言うことを聞かない(笑)。
同 門:で、家康は武力行使に出るんだが、いくさの天才・昌幸にかかってコテンパンにされてしまった。それから膠着状態が続いていたんだ。
見た花:なるほど。今回、それを巡る交渉のため、昌幸は長男の信幸(吉村界人)と二人で駿府城の会談に乗り込んできました。でも、下手したら家康に殺されるかもしれませんよね。
同 門:いや、昌幸はそんなことは絶対ないと、読みきっているんだ。
世間は「(二人だけで乗り込むなんて)さすが真田は剛の者、すごい!」と大喝采だろう? 一方、もし家康が彼らを殺したら、「(いくさなき世とか言いながら)、家康、卑怯なり!」となる。徳川の評判は地に堕ちるよ。
見た花:今だったらSNSで大炎上(笑)。
同 門:ましてこの会談は秀吉の斡旋によるものだ。ここで不祥事があれば、秀吉は黙ってないだろう。彼らの内通はまだ続いているかもしれないし。
見た花:そうか。だから昌幸は安心して家康を挑発しまくるわけですね。
「徳川殿は言葉を存じ上げぬのでは?」とか、「たやすく関白のお名前にすがらぬ方がよろしいかと。(家康の)格が落ちまするぞ」とか……すごすぎる!(笑)
同 門:家康が我慢の末に、別の領地を提供するという妥協案を出すのだが……。
見た花:「われらは徳川殿を信用できぬということ」と一蹴(笑)。
同 門:そこで一転、昌幸はすかさずソフトな調停案を持ち出すわけだ。
見た花:「養女でもいいから、長男信幸の妻としていただきたい」。つまり「家康殿よ、(人質を出して)誠意を見せていただこう、沼田問題はその後で」ということですね。
同 門:ブラフをこれでもかと連打した後の、想定外の調停案。家康は翻弄されて、完全に固まっちゃったね(笑)。全部昌幸のシナリオ通りだよ。彼の本当の狙いは、沼田問題の協議開始を遅らせることなんだから。
見た花:当分ペンディングですね(笑)。でも、勝算はあるのですか?
同 門:ある。秀吉のセリフにもちょっと出てきたけど、豊臣政権と北条氏は微妙な緊張関係にある。沼田領返還はある種の懐柔策なんだが、全面対決に踏み切って、豊臣が勝てば(実際そうなる)、懐柔策はもはや無用だよ。そんな先まで昌幸は読んでるんだ。
見た花:後の「小田原征伐」ですね。
同 門:その結果、沼田は正式に真田の領地になる。昌幸の完全勝利だよ。家康は外交の天才の手玉にとられてなすすべもない。戦わずして轟沈だ(笑)。
見た花:そうか、おっしゃる通り、昌幸ってスゴい人なんですね……反省ハンセイ!(汗)。で、真田家の嫁になるのが、本田忠勝(山田裕貴)の娘・稲(鳴海唯)。
同 門:父親譲りの勇敢な、信念を持った女性だったそうだ。これからの活躍が楽しみだね。
見た花:今回はもう一人、重要な人物が出てきました。石田三成(中村七之助)。星を見ながら家康と意気投合していましたね。「新しいまつりごと」についても語り合ってました。

同 門:この二人は将来関ヶ原で激突することになるんだが。彼らの友情はどう変化してゆくんだろうね。これも楽しみだ。
同 門・見た花:今回はここまで。次回は2週間後の予定です。みなさん、またお目にかかりましょう!
(構成:阿部ヒロユキ)
ライター。長年テレビ情報誌の編集に携わる。現在は「『どうする家康』テレビ桟敷談義」を担当。「テレビドラマの見方に“正解はない”」がモットー。視聴者・作り手両方の刺激になるような見方を提案してゆきたい。副業はブルースハーモニカ奏者。東京はもとより、韓国・ソウル、アメリカ・ニューヨークでの演奏経験あり(ただしすべて無報酬……)。
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