「どうする家康」から「こうする!家康」へ「大変身」!
見た蔵:センパイ! お久しぶりです!
同 門:ちょっと長めの夏休みをもらったね。どうしてた?
見た蔵:こう暑いと何もできませんよ。熱中症も怖いし……。毎週日曜日の夜、ビール飲みながら「どうする家康」を見ることだけが楽しみでした。
同 門:それじゃ休み前とまったく同じじゃないか……(笑)。
まあ連載再開ということで、まずは私たちの夏休み中の「どうする家康」のおさらいをざっとしておこうか。
見た蔵:いちばんびっくりしたのは、家康(松本潤)の変身ですね。ぜんぜんオタオタしなくなりました。
同 門:眼光も鋭くなり、自分の意志をハッキリ家臣に言うようになったね。すっかりリーダーらしくなった。「腹の内を見せなくなった」と、信長(岡田准一)も褒めていたな。
見た蔵:いわば、「どうする家康」から「こうする!家康」へ、大変身ですよ(笑)。
同 門:うまいこと言うね(笑)。それもこれも妻の瀬名(有村架純)と息子の信康(細田佳央太)を信長の命で処刑したのがきっかけだ。
見た蔵:彼はその大悲劇を乗り越えてひと皮むけたというか……。「成長した」のかな?
同 門:うん、経験もないのに上から目線でこんなこと言って申し訳ないけど(笑)、彼はいちばん恐れていたことを体験して、人生を達観するようになったんだろうね。もう怖いものは何もなくなったから、オタオタする理由もない。これからは「厭離穢土欣求浄土」への道を邁進するのみだ。自分の命も惜しくない。本能寺の変の後の逃避行で、伊賀者に捕らえられたときも、部下のために自分の首を平気で差し出していた。
見た蔵:まあ、センパイの言うところの「ラビットサイド」の、優しくて弱くてオタオタする家康像に違和感を覚えてきた視聴者も多かったと思うんですよ。
ウチのオヤジも古い人間ですから、「こんなの家康じゃない!」と怒りながら見てましたけど、最近はドラマの家康を見て「そう! コレコレッ!」って喜んでます(笑)。
信長の「内面描写」と「血染めの装束」が暗示するものとは?
見た蔵:あとやっぱり信長ですね。本能寺の変の少し前あたりから、謎の武将に殺される夢を見て、恐れおののくシーンが何回か出てきました。それから、父・信秀(藤岡弘、)のスパルタ教育に苦しむ幼いころの場面も出てきましたね。最後は反発するんだけど。
同 門:そうだ。いわば信長の内面、そして自己形成の来歴が描かれたんだ。
悪夢におびえたり、父親の教育のトラウマに苦しむ信長像なんて、大河ドラマ含めて、あまり見たことないよ。もしかしたら「メディア史上初」の信長像かもしれない。
見た蔵:「どうする家康」の信長は、父親の強烈な影響の下で、時にはそれに反発したり、苦しんだりして生きてきた、ということですよね? 「自分以外はすべて敵と思え」「友人はただ一人だけ、コイツになら殺されてもいい人間にしろ」……どれも父親の教えですし。
同 門:そうなんだよ。このドラマには、「偉大な父と、それを超えられない息子」のモチーフが2つ出てきた。今川義元(野村萬斎)と氏真(溝端淳平)、そして武田信玄(阿部寛)と勝頼(眞栄田郷敦)だ。ドラマではこの「パターン」に信長も入っちゃうようにも見えた。それは私にとって少し不満があるところだな。
見た蔵:へえ~、そうですか? ボクは「信長は父親に対抗して、コワモテを相当無理してやってたんだな」と思いました。結果として父親よりはるかにすごいことを成し遂げたんだから、褒めてあげたい(笑)。初めて信長を好きになりましたよ。
同 門:ああ、そう?……。私の不満は、信長が私たち常人に理解できるように描かれてしまった、ということなんだよ。私としては、信長は常人の理解の届かない「戦国の異端の天才児」のままでいて欲しかったんだよな~。
とはいえ、今回の信長は、大河ドラマ史上一位二位を争う怖さだった。熱演した岡田准一に、大拍手を送りたいね。ちなみに私の一位は「国盗り物語」(1973年)の高橋英樹。
見た蔵:ところで本能寺の変はまずは家康がやろうとしていた、という設定は面白かったです。本当に家康が起こしていたら、どうなったんでしょうね?
同 門:そりゃ家康の手勢は伊賀者ばかりだから、明智の大軍に攻め込まれて、家康は即討ち死にだよ。そして主君の仇を取った光秀(酒向芳)が織田政権を握ることになるな。
見た蔵:光秀にとってはラッキーですよね。敵の信長は家康が殺してくれて、さらに政権ナンバー1の地位が転がり込んでくる。
同 門:そうすると後年の「関ヶ原」は豊臣対明智のいくさになってたかも(笑)。信長について最後にひとつ。本能寺で最期を迎えた彼の白い寝巻が、血に染まって真っ赤だったよね。その場面に少年時代のシーンが挟み込まれていた。
見た蔵:家康と相撲を取っていた場面ですね。信長の妹のお市(北川景子)によれば、それが彼の人生でいちばん幸せだった時期だった、という。
同 門:そのシーンの信長は、真っ赤な着物を着ていた。人生最期の装束が、血染めとはいえ幸福だったころと同じ色。そこに信長の人生を総括するような、作り手のメッセージが込められていたと思うんだが。考えすぎかな……。
重臣・石川数正の出奔の真意とは?
同 門:さて第33回「裏切り者」だ。大きな見せ場だったね。
見た蔵:石川数正(松重豊)の出奔ですね。あの苦虫をかみ潰したような顔で家康に諫言する場面がもう見られないと思うと、ちょっと寂しいです。
同 門:まあ、このとき数正は52歳。「人生50年」の時代だから、隠居してもいい年齢だ。今の世に例えれば、徳川株式会社を定年退職して、豊臣株式会社にスカウトされた、という感じじゃないの。彼の没年齢は60歳、家康が天下人になる関ヶ原の合戦の7年前だ。
見た蔵:そうか。彼の存命中は秀吉(ムロツヨシ)がまだ「天下人」のままだったということですね。「関白殿下これ天下人なり」という彼が残したメモはその時点で正しかったんだ。
同 門:数正は徳川家の外交担当として、長年大きな業績を上げてきた。優れた外交官だけに、諸国の情勢を見渡す眼力を備えている。だから秀吉に恫喝されるまでもなく、徳川には勝ち目がないことがわかっている。それで秀吉の傘下に入ることを家康に進言したわけだ。
見た蔵:家康は彼に聞きましたよね、自分は秀吉に劣るのか!って。劣ってるよ!(笑)。
同 門:ラスト近くの、家康と数正の2人だけの場面は、見ごたえがあったね。特に松重豊の、胸の内と真逆の言葉で家康を諫めようとする演技はすごかった。
「私はどこまでも殿と一緒でござる!」という言葉と裏腹に、数正は家康からあえて離反する。それによって、秀吉とのいくさを断念させる。天下泰平のため、徳川のためにはそうするしかない、というメッセージを彼は発信していたんだ。
見た蔵:家康も数正の真意はある程度わかっているみたいでした。でも家臣の手前なんでしょうか、数正の提案にはすぐには従えない……。
同 門:「こうする!家康」に変身したとはいえ、家康はまだまだ「青い」な(笑)。史実では、結局家康は秀吉の配下となる。とはいえドラマではそこへ至るまでの家康の葛藤を描かないと。ここで家康が説得されたら、「どうする家康」にならない(笑)。
見た蔵:数正は酒井忠次(大森南朋)に面白いことを言ってました。大名が自分の領国にこだわる時代は終わるのではないか、って。
同 門:これは時代を先取りした卓見だね。信長も秀吉もその「領国主体」の大名の発想から抜け出そうとしてきたわけだけど、まだ十分ではない。
見た蔵:面白かったのは秀吉の正室・寧々(和久井映見)の登場です。世の平和を祈るキャラクター。秀吉をみんなの前で諫めていました。これにはビックリ。
同 門:このドラマ、平和を祈る女性が次々と登場してきたよね。瀬名をはじめ、家康の母・於大(松嶋菜々子)、お市、側室のお愛(広瀬アリス)・お万(松井玲奈)、北条氏真の妻の糸(志田未来)などなど……。寧々はこれから大活躍するはずだよ。
見た蔵:秀吉が、女子が幸せなのが、いい世の中だ、と言ってましたが、あれ、きっと寧々が言わせたんですよ。絶対そうですって(笑)。
戦国のジョーカー・真田昌幸登場!
同 門:家中には異論も多々あっただろうが、徳川は今後豊臣との平和協調路線を選択することになる。直接対決は秀吉の死後の関ヶ原の合戦まで15年間起こらないんだ。
見た蔵:「戦国大河」なのに合戦がないのは少し寂しいですが……。
同 門:そこで真田昌幸(佐藤浩市)とその息子たちの出番なんだよ(笑)。
見た蔵:佐藤浩市は去年の「鎌倉殿の13人」の上総広常役に続いて大河2年連続の出演です。どちらもすごみのある古武士の役。雰囲気が最高ですね。
同 門:キミの妹の見た花ちゃんも大ファンなんだよね。
見た蔵:ええまあ……(汗)。真田昌幸は武田信玄直系の「いくさの天才」なんですね。
同 門:さっそく秀吉と内通して徳川を苦しめ始めた。
見た蔵:えっ! もう内通してるんでしたっけ?
同 門:昌幸も秀吉もスモモを食べてたろう? 秀吉のスモモは昌幸からの贈り物だ。真田の拠点・信濃(長野県)はスモモの名産地だからね。
というわけで、真田は小康状態の戦国時代を引っ掻き回す、トリックスターというか、ジョーカーというか。「いくさのない世」はそう簡単に実現させないぞ、というキャラだ(笑)。
見た蔵:しかし昌幸が徳川を敵視する理由が、北条家との領土分配への不満ですよね。ちょっとスケールが小さくないですか(笑)。
同 門:領国へのこだわりの時代は終わり、という、さっきの数正の話の後ではね(笑)。
見た蔵:でも、ドラマが面白くなるなら、大いに活躍して、家康を苦しめてほしいです(笑)。
同 門:このレビュー、次回は2週間後の予定だけど、平和路線とはいえ、秀吉の家康に対する「懐柔」と「無茶振り」が次々と出てくるはずだから、見逃せないよ。
見た蔵:では次回のレビューをお楽しみに!
(構成:阿部ヒロユキ)
ライター。長年テレビ情報誌の編集に携わる。現在は「『どうする家康』テレビ桟敷談義」を担当。「テレビドラマの見方に“正解はない”」がモットー。視聴者・作り手両方の刺激になるような見方を提案してゆきたい。副業はブルースハーモニカ奏者。東京はもとより、韓国・ソウル、アメリカ・ニューヨークでの演奏経験あり(ただしすべて無報酬……)。
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【第1シーズン】
第1回:「どうする家康」が「鎌倉殿の13人」から引き継いだものってなんだ!?
第2回:「どうする家康」が“居心地の悪い”ドラマに感じるのはなんで⁉
第3回:家康を諭した於大の方のメッセージが深い!その真意ってなんだ?
第4回:お市の方より今川氏真がおもしろい⁉ってなんだ?
第5回:脚本家・古沢良太が描く織田信長VS.織田信長ってなんだ!?
第6回:立役者は半蔵(山田孝之)ではなく氏真(溝端淳平)ってなんだ!?
第7回:家康より“家”をつくるのがうまかった空誓上人ってなんだ?
第8回:三河一向一揆と本多正信の行動は“複雑系”ってなんだ!?
第9回:正信が家康を「大タワケ!」と言い切る理由ってなんだ?
第10回:家康の側室問題は続く!?大河で描かれるセクシュアリティーってなんだ?
第11回:家康の「格付け」仲介手数料****万? 風林火山な信玄ってなんだ⁉
第12回:氏真の「悲哀」と義元の「理想」ってなんだ?
第13回:浅井長政(大貫勇輔)の信長(岡田准一)に対する本音ってなんだ?
第14回:ついに家康(松本潤)覚醒!「信長の野望」で変身した長政と家康ってなんだ?
【第2シーズン】
第1回:夏目広次(甲本雅裕)と家康(松本潤)による「仕掛け」ってなんだ!?
第2回:瀬名(有村架純)のモヤモヤ感と家康(松本潤)の危機ってなんだ?
第3回:瀬名(有村架純)と千代(古川琴音)の背後にひそむ勝頼(眞栄田郷敦)ってなんだ?
第4回:衣裳も家康(松本潤)への脅しも演出!? 信長(岡田准一)の真の狙いってなんだ?
第5回:「長篠の合戦」を見届けた信長(岡田准一)と家康(松本潤)の心中ってなんだ?
第6回:家康(松本潤)が招いた「瀬名(有村架純)の覚醒」ってなんだ?
第7回:家康(松本潤)も勝頼(眞栄田郷敦)もびっくり!?「瀬名(有村架純)の構想」の盲点ってなんだ?
第8回:家康(松本潤)大号泣!?「瀬名(有村架純)=天下の悪女」説を広めたのは誰だ?