植物学者・槙野万太郎(神木隆之介)と、その妻・寿恵子(浜辺美波)の波乱万丈の生涯を描く、連続テレビ小説「らんまん」。今回、東京大学植物学教室の助教授・徳永政市を演じる田中哲司に、役への思いや印象的なシーン、そして共演者とのエピソードを聞いた。


――徳永助教授をこれまで演じられていかがですか?
台本を読んだ最初の感想は、面白い役をいただけたと、撮影が待ち遠しくなりました。これまでたくさんの役を演じてきましたが、徳永は特に好きなタイプのキャラクターですね。映画『新聞記者』で演じたような冷酷な役柄もおもしろいのですが、徳永のように、人間味をたくさん出せる役が久しぶりというのもあり演じていて楽しいんです。

徳永は、植物学者としての才能が特段あるわけではない、平凡な人物です。だから、万太郎の圧倒的な才能に嫉妬するし、嫌みも言ってしまう。素直に万太郎のことを認められず、優しい言葉をかけられないでいる…。そんな人間臭い部分が、愛らしいと思います。

根はいい人なんですよね。田邊教授(要潤)が、「(万太郎が制作する植物学雑誌を)出来が悪ければ全部燃やす」と言い放った際、徳永は「すべてを負わせるのはいささか…」と反発したように、情の深い人間なんです。そこで「そうですね、燃やしましょう!」なんて言ったら、冷酷すぎます(笑)。

――これまでの撮影で、印象に残っているシーンはありますか?
田邊教授から「全部燃やす」と言われた後、ヒルガオとユウガオを観察する万太郎に偶然出会います。そこで徳永は、「ユウガオが好きだ。源氏物語に出てくるからだ。私は…日本文学が好きなのだ」と告白し、万葉集にある歌「朝顔は 朝露負ひて 咲くといへど…」を詠む場面があります。

このシーンでは当初、僕の中で2パターンの演技プランがありました。普通に歌を詠むパターンと、リズムをつけて歌うように詠むパターンです。最終的には「歌ってもいいのかなあ」と思い、歌う方で挑戦しました。監督からは全く止められなかったので、結果良かったかなと思います(笑)。

――田邊教授との関係性も見どころのひとつです。
そうですね、徳永は田邊教授のことを、どこか憎んでもいながら、「いつか彼を超えてやりたい」と思う、憧れの存在でもあります。なかなか言葉では説明できない関係性ですよね。撮影のなかでも、田邊教授の怖さを感じるときもあれば、優しさを感じる場面もあるなど、さまざまな感情を抱くんです。その2人ならではの複雑な関係性を今後も見せられたらと思います。

――今野浩喜さん演じる大窪とのコンビも話題となっています。
今野さんとは『まんぷく』でも共演しましたが、そのときよりも長く一緒に演じることができていて、うれしいです。ただそこにいるだけで存在感がありますよね。「徳永の良き部下を演じてくれて、ありがとうございます」と強くお礼を言いたいです(笑)。
撮影現場の雰囲気も、本当に明るくて楽しいですね。東大チームは本当に個性が強いので、思わず笑ってしまうこともあるくらい、和気あいあいと撮影を行っています。

――主演の神木隆之介さんとの共演はいかがですか?
神木君とは、彼が小さいころから一緒に共演させてもらっていますが、年々深みが増しているなと思います。頼りがいがあって、安心してセリフのやり取りができます。これまでたくさんの経験をされてきたからこそ、持っている強さがあるように感じます。

万太郎という役を演じるのは、本当に大変だと思います。難しいセリフを土佐ことばですらすらと話すってなかなか簡単にはできませんから。その難役をひょうひょうとこなす神木君はとんでもないですね。もちろん努力されているとは思いますが、その苦労を全く見せない。同じ役者ですから、その苦労は身にしみてわかります。「植物学の天才」を「役者の天才」が演じているようです。

――最後に、今後の見どころを教えてください。
ここから物語は、どんどん面白くなっていきます。その中で、徳永の変化にも注目していただけたらうれしいですね。視聴者の徳永への印象が「悪い」から「良い」になっていると思いますが、これから先どういう風になっていくのか……。僕はどっちに転んでもいいように準備をしています。

田中哲司(たなか・てつし)
1966年2月18日生まれ。三重県出身。NHKでの主な出演作に、連続テレビ小説「まんぷく」、大河ドラマ「新選組!」「龍馬伝」「軍師官兵衛」、「ディア・ペイシェント〜絆のカルテ〜」など。