大河ドラマ「どうする家康」で、茶屋四郎次郎を演じる中村勘九郎。
困ったときに現れる陽気な豪商が、第26回で再登場する。
中村勘九郎に四郎次郎の魅力や、松本潤との撮影エピソードを聞いた。
――「どうする家康」の出演が決まったときの率直なお気持ちを教えてください。
「どうする家康」にぜひとも出演したいと思っていたので、とてもうれしかったです。というのも、主演の松本潤さんとは家族ぐるみでおつきあいをしておりまして。私の父(故十八代目中村勘三郎)とも交流がありましたし、弟の七之助とは同級生ということもあって、私も10代の頃から仲良くさせていただいていました。
松本さんとの思い出として一生忘れられないのは父の葬儀のとき。私と弟は京都で襲名公演をしていたため参列できなかったのですが、松本さんが弔問に来てくださった方への対応を率先してやってくださったんですよね。
座布団を出したり、お茶を出したり、私たちがやらなければいけないことを彼が代わりにやってくれて、そのときの感謝は忘れられません。
――実際に松本さんと共演されたご感想を教えてください。
家族ぐるみでつきあってきたのに、実は仕事をするのは初めてなんですよ。なので、とても不思議な感じがしましたね。ただ、僕自身3回目の大河ドラマの出演になるのですが、途中から参加するのが初めてで。すでに築き上げられた現場に途中から入っていくのが、こんなにも緊張するものなんだと実感しました。
撮影初日から結構緊張していたんですけど、心やさしい松本さんは「あれっ、緊張しているの?」とちゃかしながら、温かく迎えてくださって。実際の演技でも、茶屋四郎次郎の登場シーンを探り探り演じたのですが、殿(家康)がおおらかに受け入れてくれていたので、安心してお芝居ができました。
そして、何より現場にいる松本さんは頼もしかったです。1年半という撮影期間は大変でしょうし、いろいろな反響があると思うんですけど、それらをすべて受け止めながらチーム家康の真ん中に立っている姿は、とても誇らしく感じましたね。
――松本さんが演じる家康像はどのような印象を受けましたか。
僕らがイメージする家康は、どうしても悪だぬきといったずる賢さが先行してしまうんですけど、今回の家康は等身大の悩める一人の青年という印象を受けました。
手の届かない雲の上の存在ではなく、すごく身近な存在として感じられると言いますか。家臣団ら周囲の人々に助けられながら成長していく姿は、見ている僕たちも殿と一緒に歩んでいるような印象を受けたので、とても新鮮に感じましたね。
――茶屋四郎次郎の人物像についてはどのように捉えて演じていますか。
茶屋四郎次郎については、本能寺の変が起きたとき、堺にいる家康のもとに一報を届けたと伝えられていることは知っていました。ただ、それ以上の詳しいことは知らなかったので、脚本の古沢良太さんが描く茶屋四郎次郎をとにかく楽しく演じられたらいいなと思っていました。
実は、僕の長男の勘太郎がすごく歴史が大好きでして。茶屋四郎次郎を演じると言ったら「何代目を演じるの?」と聞いてきたんですよね。とっさに「えっ、何代目?」とびっくりしたんですけど、勘太郎が「本能寺の変のときだと初代だね。その息子が家康を殺すんだよ」と教えてくれたんですよ。
家康の死因の一説には、タイのてんぷらを食べて腹痛を起こしたと言われているのですが、そのタイのてんぷらを勧めたのが三代目の茶屋四郎次郎だったということを勘太郎が説明してくれました。
とにかく歴史が好きなので、大河ドラマも毎年楽しく見ています。前回僕が大河ドラマに出ると知ったときも喜んでいたんですけど、近現代が舞台の「いだてん」だったので、今回の戦国時代のほうが勘太郎も喜んでいましたね(笑)。
――茶屋四郎次郎を演じるうえで意識されていることはありますか。
殿が困っているときに現れるということで出番は少ないんですけど、登場するのは重苦しい回の次の回が多いんです。しかも台本を読むと、四郎次郎のセリフのところはびっくりマークが多くて(笑)。殿を思う気持ちをいちばんに持ちつつ、大好きな殿のためにというテンションを忘れずに演じようと思っています。
四郎次郎は京の豪商ですが、三河出身ということで三河への郷土愛も持っています。なので、天下など関係なく、殿についていけば三河のためになると思っていたのかもしれません。
物語においては、殿を支える家臣団など、国を愛し、殿を愛する三河の人々の姿が色濃く描かれているので、四郎次郎としてもその郷土愛と殿への思いを大切にしながら演じたいと思います。
――茶屋四郎次郎を含めて、今後の見どころを教えてください。
第26回の放送では、四郎次郎も久々の登場となります。踊りを披露することになるのですが、そこは私ではなく、ぜひ殿に注目していただきたいです。
第25回で、愛する瀬名と信康との別れがあり、殿の心の中もがらっと変わり、新たな決意のもと歩んでいきます。久しぶりに撮影現場に行くと、そこには一段とたくましくなられた殿の姿がありました。切なさや悲しさ、世の無常を乗り越えて大きくなった殿を見てほしいなと思います。
また、「どうする家康」は、家康の視点からその時代の合戦や出来事などを描いているので、勘太郎も新鮮に見ている印象を受けます。「この事件は、こうやって描くんだ」「あの出来事も描いてくれるんだ」と言いながらうれしそうに見ているので、一緒に見ている僕も楽しいですね。
今作は、最新技術なども含めて、すごくチャレンジしている作品だと思います。歴史が好きな方もそうでない方も楽しめますし、歴史を好きになるきっかけを与えてくれる作品でもあると思うので、多くの方に見てほしいなと思います。
中村勘九郎(なかむら・かんくろう)
1981年生まれ、東京出身。歌舞伎俳優。2012年、六代目中村勘九郎を襲名。2019年には大河ドラマ「いだてん~オリムピック噺」で、主人公・金栗四三役を好演。NHKでは、大河ドラマ「新選組!」などに出演。