「瀬名のはかりごと」が問いかけるものとは?

見た花:お邪魔しま~す!……センパイ! 「どうする家康」第24回見ました!  
同 門:ああ、いらっしゃい。
見た花:あれ? ポケベル言葉はどうしましたか?
同 門:キミにはダサいと言われるし。もう「25010」……。
見た花:もう「疲れた」? 無理しなくていいんですって(笑)。
同 門:キミにあおられ、努力したら「私は私でなくなりました」(涙)。
見た花:それ、ドラマの信康(細田佳央太)のセリフじゃないですか?
センパイはセンパイらしくいればいいんですよ!(笑)
同 門:どーもん、スミマセン(笑)。

見た花:さて、今回やっと、瀬名(有村架純)の「胸の内のはかりごと」が明らかになりましたね。
いくさ続きの世を終わらせるために、東日本の大名たちが自由な交易を行って、「大きな連合体=国」を作り、政策は話し合いで決める。そうすれば互いにいくさはしなくて済むし、信長(岡田准一)の軍事力に対抗できる、ということですか? 
同 門:うん。大筋はそんなところだね。

見た花:ただ、なんだかイメージ湧きにくくないですか? 思わず「瀬名さん、本当にそんなことできると思ってる?」と突っ込んじゃいました(笑)。本人は命がけで、真剣みたいですけど……。
同 門:普通に考えれば、戦国時代にはありえない話。現代でいえばEU(欧州連合)と国際連合とNATO(北大西洋条約機構)が合わさったような構想だね。
「瀬名のはかりごと」に当てはめれば、「統一通貨による交易」はEU、「話し合い」は国際連合、「信長の武力への対抗策」としてNATO、といったところ。

見た花:でも、その3つの組織は、世界平和のためにうまく機能していないように見えるんですが……。
同 門:そうだね。ロシアがウクライナに侵攻したのは、ウクライナがNATO参加の意志表示をしたから。その侵攻を国連はやめさせることはできていないでいる。EUだって、イギリスが脱退するなど、あまりうまくいっていない。

見た花:「いくさのない世」、世界平和は「はるかに遠い夢」なんでしょうか?
同 門:自国優先という根本原理は、今も昔もこれからもきっと変わらない。もっといえば、人間の欲望は尽きない。理想と現実の隙間をどのように埋めるか、瀬名しかり、家康(松本潤)しかり、勝頼(眞栄田郷敦)しかり、そこを歴史のなかで問われているんだろう。


勝頼も家康もびっくり!?「瀬名の構想」の盲点

見た花:ドラマでは、瀬名の話に武田の重臣・穴山信君(田辺誠一)が心を動かされて、勝頼をなんとか説得しましたね。
同 門:しかし、勝頼は十分納得してはいなかった。案の定、結局、最後は離脱を決意することになる。
見た花:確かに、徳川の重臣でも、酒井忠次(大森南朋)も石川数正(松重豊)も懐疑的でしたよね。私の好きな七之助(岡部大)は大賛成だったけど……。
同 門:いやいや、家康だって、ずっと懐疑的だった。
見た花:そうですね。「よし! 乗った!」と即断即決という雰囲気じゃなかったような。なんとなく、ズルっと瀬名に押された感じでした。

同 門:この構想の原点は「いくさのない世」。これまでの合戦の悲惨なシーンがフラッシュバックするように出てきたね。
見た花:「平和な世は女子にしか作れない」という発想。瀬名の母親の巴(真矢ミキ)や、お万(松井玲奈)たちの回想シーンが、瀬名の背中を押すように出てきました。その一方、家康一家の幸福なシーンも描かれました。

同 門:いくさといえば、源平合戦の昔から、技量と胆力に秀でた武将が、訓練の行き届いた兵(足軽など)を従えて、相手と正々堂々と正面から戦う、というのが伝統的なスタイルだった。
見た花:ところが、信長は鉄砲という近代兵器により、その伝統を完全に覆しました。

同 門:瀬名の構想では、武田・徳川に加えて、北条、上杉、伊達といった有力勢力をまとめる必要がある。その仲介役、つまり「事務局」を担うには、相当な智謀と外交交渉力を持った人材でなければダメだろう。それが北条の居候の今川氏真(溝端淳平)と隠居中の久松長家(リリー・フランキー)というのは……。
見た花:ちょっと弱すぎる? 智謀と交渉力なら、せめて本多正信(松山ケンイチ)クラスの人材が欲しいです(笑)。

同 門:仮に「連合体」ができたとして、メンバーの大名たちの「話し合い」がうまくいくとは思えない。軍事力が大きい武田が主導権を握るのでは? 武田に不利な議題が出たら、即「拒否権発動」だろう。
見た花:なんか、国連の常任理事国のロシアや中国みたいな存在になりそう……。
交易をすれば平和になる、っていうのもどうでしょうか? 「経済戦争」ってこともありますしね。
同 門:自国の生産品の値段は上げたいし、買う方はできるだけ安く買いたい。そのやり取りがこじれて戦争になるなんてこともあり得るね。
見た花:そのあたりの「無理」は、瀬名も信康もなんとなく分かっていて、「慈愛の心」というコンセプトを持ち出して何とか乗り切ろうとしていました。

同 門:宗教的な意味合いのある「善意」のしばりで何とかしたい、ということだろう。でも、そう簡単ではないはず。
ちょうどそのころ(16世紀)のヨーロッパは、「宗教戦争」の時代。キリスト教のカトリックとプロテスタントが戦争をしていたんだ。フランスのユグノー戦争(1562~98)が有名だね。
見た花:「どうする家康」にも一向一揆が出てきました。宗教が平和の礎になることもあるかもしれないし、戦争のきっかけになることもあるかも、ですね。

同 門:総合的、網羅的に考えれば考えるほど、納得するのは難しいと思える。
見た花:瀬名の「熱意」に押された、ということですかね? ドラマ的には。


強固な「通説」に挑むものがたり

同 門:議論はあったものの、徳川は「瀬名の構想」に乗ることにした。信長にばれないように、武田とかたらって「合戦のふり」をすることにした。
見た花:お互い、鉄砲のカラ撃ちだけやって引き上げていました。

同 門:しかしねえ……。徳川と武田の合戦の行方は、織田も最重要視しているはず。佐久間信盛(立川談春)は「徳川の目付け役」なんだから、いくさがあればその戦場に部下を派遣して、経緯を調査・報告させるのが仕事だよ。
見た花:信盛は結構のんきに構えてて、信長に怒られていましたっけ(笑)。

同 門:部下が直接行かなくても、戦場の近隣で暮らす農民に聞けば、戦場跡に遺体がまったく転がっておらず、負傷者の姿もなかったことがすぐわかるだろう。
そうすれば、いくらのんきな信盛だって(笑)「これはヘンだ」とすぐ気がつくはず。信長だってそれをみすみす見逃すわけがない。

見た花:そして、勝頼は偉大な父を超えたいからこそ、「武力」で天下を取りたい。それで「瀬名の謀略を世にぶちまけよ」と家臣に命じて、「瀬名の構想」は信長の知るところとなり、あえなく崩壊します。
同 門彼は「瀬名の構想」を「女子のままごと」と決めつけていたが、私も同意するところだ。実際、ツッコミどころも多い。ちょっと歴史をかじった者としては、やや無理があるように感じた。

見た花:初心者のわたしも「?」の連続でした。
同 門史実としては、武田と内通したかどで、信康は切腹、瀬名は死罪となる。これは揺るがない。ドラマとしては、その理由を作り上げなければならないんだ。そして、今回描かれたのはとても大胆な説なんだよ。
見た花:でも、本当の理由は何だったのか、裏づける史実や証拠はないんですよね?
同 門:だから、これまでさまざまな理由が論じられてきたんだよ。今回のドラマが示した説についても、瀬名がそういう行動を「しなかった」という確たる証拠はないので、時代考証の先生方もOKを出したんだろう。
次回で詳しく話そうと思うけど、二人の死罪にいたる経緯については、とても強力な「通説」がある。これにはかなりの説得力があって、山岡荘八と司馬遼太郎という二人の国民的作家は、この「通説」にしたがって小説を書いているくらいだ。

見た花:今回のドラマで描かれた経緯は、その「通説」と全然違うんですね?
同 門:よくここまでの「異説」をまとめたと、感心したくらいに。あまり上手くいったとは思わないけれど(笑)。
とはいえ、脚本の古沢良太氏とドラマの制作陣は、その強固な「通説」に正面からぶつかって、挑戦したと言える。その勇気と挑戦には、大きな拍手を送りたい。


見た花:次回のタイトルは「はるかに遠い夢」。これは瀬名の夢?
同 門:いよいよ、物語前半のクライマックスだね。
見た花:はい! 次回の放送を楽しみに0106~!
同 門:えっ、またポケベル用語? というか、難しくなってる~っ!
(第25回の大胆レビューにつづく)

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【第1シーズン】
第1回:「どうする家康」が「鎌倉殿の13人」から引き継いだものってなんだ!?
第2回:「どうする家康」が“居心地の悪い”ドラマに感じるのはなんで⁉
第3回:家康を諭した於大の方のメッセージが深い!その真意ってなんだ?
第4回:お市の方より今川氏真がおもしろい⁉ってなんだ?
第5回:脚本家・古沢良太が描く織田信長VS.織田信長ってなんだ!?
第6回:立役者は半蔵(山田孝之)ではなく氏真(溝端淳平)ってなんだ!?
第7回:家康より“家”をつくるのがうまかった空誓上人ってなんだ?
第8回:三河一向一揆と本多正信の行動は“複雑系”ってなんだ!?
9回:正信が家康を「大タワケ!」と言い切る理由ってなんだ?
10回:家康の側室問題は続く!?大河で描かれるセクシュアリティーってなんだ?
第11回:家康の「格付け」仲介手数料****万? 風林火山な信玄ってなんだ⁉
第12回:氏真の「悲哀」と義元の「理想」ってなんだ?
13回:浅井長政(大貫勇輔)の信長(岡田准一)に対する本音ってなんだ?
14回:ついに家康(松本潤)覚醒!「信長の野望」で変身した長政と家康ってなんだ?
【第2シーズン】
第1回:夏目広次(甲本雅裕)と家康(松本潤)による「仕掛け」ってなんだ!? 
2回:瀬名(有村架純)のモヤモヤ感と家康(松本潤)の危機ってなんだ?
第3回:瀬名(有村架純)と千代(古川琴音)の背後にひそむ勝頼(眞栄田郷敦)ってなんだ?
第4回:衣裳も家康(松本潤)への脅しも演出!? 信長(岡田准一)の真の狙いってなんだ?
第5回:「長篠の合戦」を見届けた信長(岡田准一)と家康(松本潤)の心中ってなんだ?
第6回:家康(松本潤)が招いた「瀬名(有村架純)の覚醒」ってなんだ?